プロローグ
文字数 983文字
指揮とか楽譜とか全くわからなかったけれど、音楽って暇な大人の趣味じゃないんだと判らされた。
それから数年、中学に入学してすぐに吹奏楽部に入部した。
そこは思い描いてた理想の日々とは似ても似つかない、退屈な日々だった。
同期も先輩もあまり練習はしないし、下手だった。
その癖先輩達は俺たち後輩に気に入らないことがあればすぐに呼び出して怒る。
典型的な「一応コンクールで賞を取ることを目的にしてるつもり」の吹奏楽部だった。
もちろん、形だけの目標なんて誰も努力するわけがない。
ただただ日々を無駄に浪費する、駄弁って遊ぶだけ遊んで一日を終えていく。
俺はそんな中途半端な人間になりたくない、その一心で必死に練習した。
だけど全然楽しくはなかったし、自分を追い詰め続ける日々に憧れには1歩も近づけていないように思えた。
それにあの三年で自分だけで努力することの限界を知った、それに俺にはどうやらソロの才能がないらしい。
だから俺は、音楽は楽しんでなんぼという言葉が嫌いだ。
才能がなければ、ただただ苦痛で辛い。才能が有ってなんぼだと気づかされたからだ。
だけど、そんな日々ももう終わる。
今日から俺、西崎大地は高校生になる。
丁度小学生の頃に見た吹奏楽部も高校生だったのだ、ここからやり直せばいい。
その為に吹奏楽が強くて尚且つ知り合いがいない遠くの県の高校に無理言って入ったのだから。
新しい環境で、新しい仲間と一緒に努力すればいい。きっと一人じゃなければうまくいく。
神奈川県立鈴宮高校
ここら一帯では強豪校で最近こそ結果は芳しくないものの全国大会常連校と呼ばれたところだ。
それに、部活動以外で楽しみにしているポイントがもうひとつ。
学校が海沿いにあるのだ、景色好きにはたまらない物が見れるに違いない。
昔から、海を見ながら学校に通いたいという夢が叶うのだ、喜びでまさに天にも登る気分だ。
俺はそんな希望に満ちた足取りで校舎への一歩を進める。
「新入生の皆さん、鈴宮高校へようこそ!私たちは皆さんを心待ちにしていました!」
これは、どこにでもあるようで探さなきゃ見つからない人生の一かけら。
もっと上手になりたいと願う少年少女の物語。
もっと簡単に言ってしまえば、青春のすべてをかけて己の夢を叶える為の物語である。