幕間の物語「茉衣と真由子」
文字数 1,787文字
代り映えのない日々がまた一日と過ぎて飽き飽きする。
私の隣には一人の少女、幼馴染の鹿野真由子。
そいつと2人で歩くときだけは、そんな退屈な時間も少し有意義になる。
「なんか私たち先輩になったんだね」
と、真由に話しかける。
「そうだね〜!去年まで1年生だったのになぁ〜、やっぱり先輩になるって慣れないね。」
と困った笑みを浮かべてた
「確かにね、でもさ、」
「でも、何?」
私の頭の中に今日出会った後輩達のことが少しだけ浮かぶ
「それも悪くないなって、思ったの。あの子たちはなんて言うか…その……」
ここで考えがまとまらなくなる、イマイチぴんと来る表現が出てこない
「なんて言うか皆、サックス好きで、吹きたくて堪らなさそうだったよね!」
「そう!それが言いたかったの。きっと良い1年間になる、私も真由もやることいっぱいだね。」
「そうだね、まぁ皆には期待してるから私達も頑張らなきゃね!」
びっくりした、この後私も同じようなこと言おうとしてたから。
━ そういえばさ、
私は突然問いた
「そういえばさ、アルトの男の子、西崎くん…だったっけ?あの子、中学はどこら辺だったのかな。ここらじゃ見ない顔だけど。」
「あ!確かにそれ気になる気になる!今度聞いて見なきゃね!他の3人はそこそこの強豪校の出とかだから昔見たことはあったけど、大地くんは見たことないからね!」
「ねえ、本当は知り合いとかじゃないよね?」
「ん~?どうして?」
真由は不思議そうな顔をしている
「だって普通さ、会って間もない男の子のこと名前呼びする?」
「あー…えっと、それはね…」
真由はあからさまに何かありそうな顔をした
「何かあったんでしょ。」
「ヒエッ…」
昔から変わらない、何かあるとすぐにしゃべらなくなる癖。
問い詰めるとプルプル揺れて面白い。
「じ、実はね茉衣、こんなことがあって~…」
出会った時のことの顛末を聞いてしまった私は大爆笑してしまった。
ひどいよ!!と言われてしまったが、これは…しょうがないと思う。この年で海で潮を被って制服びしょ濡れとか、ちょっとやばい。
更に詳しく問い詰めたが、なんで名前呼びにしたのかは本人にも分からないらしい。どうして…?
これ以上は問い詰めても何も発展しないし、何より自分もまあいっかと感じたのでこの件はもう終わりにした。
「ねえ茉衣、私たちより後輩ちゃんたちのほうがサックス上手だったらどうする?」
真由子にしては珍しく、弱気で急な質問だった。
いつもなら
「私たちのほうが上手だもんね!!」
と言ってその発言にふさわしい程の演奏を見せつけるのに。
「どうしたの、急に。真由子らしくない、、もしかして、誰かにへたくそとか言われた?」
「ううん、そういうわけじゃないの。ただいつも、いつも不安なの。」
「ふうん、そうなんだ。でも真由子なら大丈夫、あなたは誰よりも上手だから。
それを私は一番近くで見て一番知ってるつもり、それにいつかあなたを追い越す人がいても大丈夫、それは私以外いないから。」
真由子はあっけにとられた顔をしていた、でもすぐにハッとして笑った。
よかった、元気出たみたい。
「ありがとう。私、茉衣が幼馴染でよかった!」
そう言ってピンと人差し指を空に突き出した、そして話しだす。
「私ね、この部活で全国大会に出て一番取りたい。そんでもってその大会で一番上手いソリを吹くの。」
頂点を指していた指が私のほうを向く。
「そしてそのソリはあなたと私、二人で吹くの。だから茉衣、常に私に追いつき続けて。」
― 常に私に追いつき続けて
自分が世界で一番上手だと信じてやまないからこそ言える台詞、これでこそ真由子だ。
でも、少しだけ、少しだけ違う。私は追いつくんじゃない。
「追い越すから、真由子こそ、抜かされてビビらないでね!!」
自分が世界一上手だと信じてるのは真由子だけじゃないってこと、思い知らせよう。
私だって上手いから、そんな確固たる信念のもとに。
「茉衣ならそういうって信じてた!まかせて、私も全力しか出さないからさ!!」
アハハ
そんな笑い声がしばらく続いた、
辺りはすっかり夜になってて私たちの笑い声も夜に飲まれていった。
それからまた他愛もない会話をして、笑いあって。そして帰った。
いつも通りの帰り道、特に何もなくて退屈
なんて言ったけど前言撤回、今日は大事な日だ。
私と真由子の、決意と覚悟の日。