ちょっとしたミス
文字数 1,042文字
無事に入部を済まし、これで俺も吹奏楽部の一員という訳だ。
記憶が正しければ、今日の部活では担当楽器を決める日らしい。
それの参考にするために、自分の楽器がある人は持ってきてくれとの事だった。
放課後は特に友達と話すとか、はしゃぐとか、そんな用事はなかったから集合時間より少し早めに部室へと向かうことにした。
音楽室の前、だいぶ年季の入った鉄の引き戸に手をかける。
「開かないな…」
引き戸と暫く格闘した後、「これはまだ鍵が空いてないな」という結論に至り暫し待つ。
キュッキュッ、と上履き特有の歩く時の音が聞こえる。
誰かが来る、先生だろうか、それとも俺と同じように早めに来た同級生か、それとも先輩か。
「めずらし〜、誰かいる!でもごめーん!今日は部活ない日で自主練習もダメな日なの〜!」
見た感じ、先輩…だろうか。遠くから話しかけられているからよく分からないな。
女の人だな、スカート履いてるし。
多分先輩だなこの人。
しかしやってしまった、今日は部活がない日だったのか…
自分の記憶が正しければ、と言う言葉はあてにならないことがよくわかった。
これからはメモを取ろう、そう決心した。
「すみませーん!楽器持ってきちゃって!なので仕舞えr」
「そっか!ならちょっとつき合ってよ!私も楽器が吹きたいなって思ってたの!!」
自分の話を遮られる形で相手の要求を提示させられる、少し驚いた。
目の前の先輩(仮称)はこちらに走って来ると
「ほら、行こ?」
と、初対面の人に向けるとは思えないくらいの満面の笑みで俺の腕を引っ張って行った。
「えっ、ちょっ!」
━あなたは一体誰なんだ。
という問は結局その場所に着くまでは話せなかった。
「よし、着いたよ!」
先輩(仮称)の目的地は学校から離れた海だった。
ここにたどり着くまでに寄り道3回、普通なら30分ぐらいで着くところを3時間…
もう既にあたりは日が沈み、月が出ていた。
「綺麗だ…」
在り来りな感想が思わず口から溢れ出た。
「そうだよね。私、ここ夜が1番好きなの。」
━ 夜の海は怖いってよく言われるけどね!
そう語る先輩(仮称)は次第に冷や汗をかき始め
「そ、そ、そ、そういえば君…誰?」
約3時間前頃に聞くべきであろう疑問を、今まで忘れていたかのように俺に問うたのだった。
というか、俺もそれは聞きたい。
そう思った。