面白い人

文字数 2,065文字

 「そ、そ、そ、そういえば君…誰?」



 ……俺は今、人生で恐らく初めてではないかと言うぐらいに動揺している。
 まさか、名前も知らない癖に勝手に相手を夜まで連れ回すなんて…

 「あなた、一体何考えてるんですか…普通、名前を聞いてから連れ回すでしょう!?」

 あーー、言ってしまった。というか言ってやった、よっしゃ。
 「ご、ごめんごめん!まさか1年生の子だと思わなくって!本当にごめんなさい!!」
 未だ名前の知らぬ先輩(仮称)は涙目になりながら必死に謝っている、見てるこっちがきまずくなってくる。
 「はぁ…その件はもう大丈夫ですから。今更ですが、先輩のお名前を教えてください。」




 目の前にいる彼と砂浜に来た時「うっわ、やってしまった」と思った。
 この子が1年生で、お互いに名前も知らない間柄なのに!3時間も!!お互いのことのみを話さずに歩いて寄り道してここまで来ちゃうなんて!
 パッと見私、すごい変な人じゃん!
 17年生きてきた中で1番の不覚!こんなんじゃもう部活行けないよぅ……ついでにお嫁にも………
 とりあえず、涙目になりながらも必死に謝ることにした。ほんとうにすみません…

 目の前の子が「名前を教えてください」って言ってくれなかったら危うくそのまま号泣してたかも。
 ……っていうかそんな事って何!?私結構自責の念に駆られてたのに!!とにかく!まずは名乗らなきゃ。このままじゃあ私、ただの不審者だし……
 よ、よっし!覚悟は決めたぞぉ!
 「どうも……今日は連れ回して本当にごめんなさい…えっと、私の名前はかのm…ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」





 ここが砂浜で、しかも意外と波が強くなってるからってまさか、目の前の人に丁度よく、それも名前を名乗ろうとしたタイミングで波がぶっかかると思ってなかった俺は、思わず大爆笑してしまった。なんだ、「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」って。今どき男子でもなかなか出ないぞこんな声。
 しまった、思った以上にツボに入ってしまった…笑
 「ちょ、ちょっとお!そんなに笑わなくてもいいじゃん!!」
 ━へっくし!
 全身に波をよく浴びてしまったからだろう、目の前の先輩(仮称)はとても寒そうだった。
 とりあえず、持っていたジャージを貸すことにして、せめて靴下くらい乾いてから帰ろう、ということになった。
 「ずびび…ジャージまで貸してくれてありがとう…あ、あと少しで靴下乾きそうだよ〜ずびび……」
 ビシッと敬礼を決めながら話す先輩(仮称)は、改まりながら
 「ではでは今度こそ…私の名前は、鹿野真由子。鈴宮高校2年、吹奏楽部所属、担当はサックスパート。よろしくね!」
 と、笑顔でそう言った。
 なるほど、サックスパートか。俺の中学の時と同じパート、まあこれから入るつもりだから実質未来の先輩…か。
 「いや〜それにしても私達って気が合うのかもね!お互い、今さっきまで名前も知らなかったのに何時間も一緒にいられたんだよ??最早運命!!ほら、月が綺麗ですね!!」
 「どっから見ても欠けてて汚いです。」
 「なんと直球!!冗談でも言われると少し凹むよぉ…」
 全く、この先輩はテンションの振れ幅が広すぎるな。
 今だって腕バタバタさせたり、ぐるぐる回ったりしてるし。
 「で、後輩くん、次は君の名前を教えて欲しいんだよ…」
 ━ぐふふ、かもぉ〜ん
 なんて真顔で言うもんだから一瞬本当に名前を教えていいもんかと悩んだ。
 「べ、別に怪しくはないからね!?ほんとだよ!?ほ、ほら!ベリーフレンドリー!」

 「怪しいだなんて思ってませんよ、やばい人だと確信しただけです。」
 ━ひどいよ!!
 と返されてしまったが、これだけ状況証拠があって断言できない方がおかしい。
 まぁ、何はともあれ名前を名乗っておくか。
 「俺の名前は西崎大地です。1年生、吹奏楽部入部希望のサックス吹きです。よろしくです。」

 「おー!サックスパート希望なのね!それならこれからもよろしくって感じだね!!」
 ━そうなりますね、よろしくお願いします。
 とりあえず、そう答えておいた。
 「んー、そろそろ靴下も乾いただろうし…おっ、スカートも乾いてた。帰ろっか、もう夜も遅いしさ〜。」
 はて…確かここまで連れ回されたのは何かすることがあったからなような…
 そんな疑問を抱えながら、俺と先輩は電車へと乗り込んだ。
 「鹿野先輩、俺の家は次の駅の近くなのでそろそろお別れですね。」

 「そうなんだ!じゃあ、またね〜」
 ━バイバイ
 と先輩は手を振ってくれた。
 電車を降りて、もう発車…というタイミングで
 「そうだ大地君!明日からまた部活あるからさ、キチンと来るんだよ!そしたら今度は楽器一緒に吹こうね!!」
 そう、窓から身を乗り出しながら言った。
全く…どこまで自由な人なんだろう。でも、知り合いにこんな人がいるのも悪くないかもしれない、そう思えた。

さて、家路に着くとするか……
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登場人物紹介

西崎大地(にしざきだいち)

この作品の主人公

楽器が吹ける以外はどれも平々凡々な普通の高校生

小学生の頃みた高校の吹奏楽部の演奏に憧れて吹奏楽を始めた

好きな物は綺麗な景色

サックスパート担当


鹿野真由子(かのまゆこ)

サックスパート2年

一応先輩だよ(本人談)

先輩(仮称)(大地談)

相当な実力の持ち主だが現時点でその原点は不明

時折体調の悪い面を見せる

夜の海が大好き

それよりも楽器が好き 

茉衣とは幼なじみで仲良し

生野 茉衣(いくの まい)

サックスパート2年

クールですね可愛いです(後輩談)

最高の幼なじみです(真由子)

鹿野真由子とは幼なじみで本当に仲がいい。実は真由子の追っかけで吹奏楽を始めた。

楽器の腕も高校生にしてはかなりのもので周りから真由子と合わせて1目置かれている。

どうやら真由子の体調不良の原因を知っている模様

山内 菜々(やまうち なな)

サックスパート1年

明るいな(同期談)

テンション高いのいいね(先輩談)

持ち前の明るさと猪突猛進さで大抵の不可能は可能にする子

ムードメーカー的な感じになることが多くパート内の雰囲気はだいたいこの子が作ってると言っても過言ではない

同期のパートのクラスが皆5組だったのでやったと内心思っている

前田 莉子(まえだ りこ)

サックスパート1年

インテリっぽい(同期談)

独特な雰囲気だよね、とてもいい(先輩談)

あまり感情は前に出さないタイプ……と、見せかけて仲のいい人以外にはあまり話さないだけの人

良く何か本を読んでいる、カバーがかかっているので何系統なのかは不明

甘いものが好きで、1人でたまに喫茶店などでパフェを食べたりしていてそれを目撃されることもしばしば

瀬野 玲奈(せの れいな)

サックスパート1年

かっこいい…!(同期談)

嫁にしてください(真由子)

ショートカットとクールな雰囲気から男女問わず熱狂的なファンが多い人

男子生徒は勿論、女生徒に告白されることもしばしば(モテる、と言うかちやほやされるのは嫌な模様)

本人は、

「アルトサックスとか、目立つのやったらモテるから嫌。それに私はバリトンの方が格好よくて渋くて大好き、私はこの子と一緒に生きていく。」

との事、バリトンサックスLoveである


しかし、バリトンサックスのクールな感じと本人の雰囲気がベストマッチしていて余計イケメン度をあげていることを誰も言わない

笠間望未(かさまのぞみ)

カリスマ性あるよね(部員一同より)

トロンボーンパート三年

鈴宮高校吹奏楽部の部長にしてトロンボーンパートリーダー

部員、顧問ともに信頼が厚く名実ともにカリスマ性のある部長

しかし、品行方正バカ真面目というわけでもなくドジる時もあれば茶目っ気だってある。

そこが部活内外での人気を後押ししている


学校内では秘密裏にファンクラブが結成されているらしく(本人未公認)、わざわざ全演奏会に出向いて差し入れをしている生徒もいる。

香川晃平(かがわこうへい)
オーラが違う(部員一同)

新顧問、有名作曲家(元)

昨年突如として作曲家から教師?へと職を変更

敏腕指揮者兼指導者として前任の高校吹奏楽部を全国大会へと導いている

本人曰く「気まぐれ」とのことだが含みを持たせて言っているので真実は不明。
職を変える前に最後に描いた作品に

「星屑の夜」

という吹奏楽曲がある、しかし未発表のため誰もその曲を知らない

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