その五

文字数 2,460文字

 榎高校にたどり着いた。校門を閉じる鎖は、乱暴に破壊されている。

「この先に雨宮が!」

 霧生はその男にあったことはない。これから初めて会うのだ。そしてこの戦いに終止符を打つ。

 校門をくぐって中に入る。校庭までは真っ直ぐだ。
 前に進んでいると、誰かがグラウンドの真ん中に立っている。だがそこに行く前に、大きな魚が空中を泳いで霧生の方に向かってくる。

「早速、式神のお出ましか」

 ノコギリザメのようで、鋭利な刃を頭の先に掲げて突っ込んできた。

「[リバース]!」

 一瞬で召喚するとともに、チカラを使う。来る途中で拾った空き缶をクワガタに変えて飛ばし、敵の式神を襲わせる。
 だが、相手の式神、[スラッシュ]が頭を振ると、一発でクワガタは切断された。

「第一難関か!」

 切り裂かれたクワガタは元の空き缶に戻る。だがそれすらも、綺麗に二つ。切断面に、一切の凹凸がないのだ。あのノコギリに触れた物を、硬度に関係なく切り裂くことができるチカラ、と霧生は理解した。

「だがな、見掛け倒しだ…」

 ようするに、あのノコギリにさえ気を付けていればいい。それだけだ。[リバース]は油断して当たってしまうほど、愚かな思考回路は持ってはいない。

「ガルルルルルル!」

 器用にノコギリ頭を避けると、ヒレを掴んだ。そしてそのまま、地面に叩きつけた。

「シャアアアア……」

[スラッシュ]は頭を動かそうとしたが、[リバース]に、チカラの判定が生じないノコギリの根元を押さえつけられて動かせない。そしてそのまま、さっき二つにされた空き缶をまた別の生き物にする。

「目には目を、歯には歯を、魚には魚を!」

 ダルマザメというサメがいる。このサメは下顎にのみ、鋭い切れ味を持つ歯が存在する。獲物に噛み付くと、自分の体を回転させて、肉をえぐり取るのだ。

「ジャアアアアアアアアア!」

 喋れない式神のようで、何を言っているのかはわからないが、想像に難くないほど痛いのだろう。

「もうよせ、[リバース]!」

 ダルマザメは空き缶に戻った。だが[スラッシュ]が起き上がることもなかった。

「噂以上だ、霧生。やはり[スラッシュ]では、荷が重すぎたか…」
「雨宮か…」
「そうだ。俺が、雨宮要。この世と共に、地球を終わらせる男だ」
「何でそんなことを? それを聞いておきたい」

 そもそもの目的は一体、何なのだろうか? 興味があるわけではないが、それが原因でいろんな人が困っているのだ。

「霧生…。考えたことはないか? 人は生きる上で、何を求めているのかを?」

 哲学的なことを言い出す雨宮。

「きっと、幸せを求めているのだろう。だが地球には何十億もの人がいて、しかも決して平等ではない。それに不幸はいつでも人を襲う。あの時のようにな…」
「あの時?」

 気になる言葉が聞こえたが、要はそれ以上教えてくれなかった。

「霧生、お前はこの世界に価値があると思っているんだろう? そうでなければここまでは来ないはずだ。ならばやるべきことはただ一つ。俺に勝って世界の価値を証明してみせろ」

 もう、そんなスケールの話で一々驚く霧生ではなかった。

「なら、やってやるぜ!」

 要はさらに式神を召喚する。

「行け、[スクアッシュ]!」

 大きなタツノオトシゴのようなそれは、[リバース]に不意打ちを仕掛けた。かわすのが遅れた[リバース]はガードした。しかし、チカラまでは防ぎきれなかった。

「何だこのチカラは?」

[リバース]が、平べったくなった。言ってしまえばプレスされたかのようにペチャンコだ。

「大丈夫か、[リバース]!」

 動けなくなった[リバース]に駆け寄る。薄くなってはいるが、破壊されたわけではない様子。

「ギルルル…」

 だが動けるわけでもなさそうだ。

「仕方がない…。出ろよ、[クエイク]」
「我に任せろ」
「ほう。データにない式神だな? どんなチカラを持っているんだ?」
「できれば、見せたくはない。だがあの[スクアッシュ]を突破するには、使うしかない!」

 周りの地面から熱湯が、一斉に吹き出す。間欠泉である。

「地面に関する自然現象を自由自在に操るチカラ…といったところか? これが[クエイク]のチカラだが、俺があまり見せたくなかった理由がわかるだろう?」
「その式神があれば、俺の目的は簡単に達成できる。つまり俺は霧生、お前は逃してもいいが、[クエイク]だけは是非とも手に入れなければいけないな」
「そう言うと思ったぜ…。だがな! [クエイク]は俺の仲間だ! 絶対に渡さない!」
「言われなくても奪ってやる」

 急に、[リバース]が元どおりに戻った。

「引っ込め、[スクアッシュ]。[クエイク]を傷つけずに我が手に収めるには、[リバース]を打ち負かせるしかないが、今の状況では霧生は負けを認めんだろう」

 この利敵行為に対して霧生は、

「いいや、札に戻す必要はないぜ! [スクアッシュ]も、突破する。してみせる!」

 周りの地面が火山になると、一斉に[リバース]に向けて火山弾を吐き出した。

「ガガガガガルルルルルルルルルルルルル!」

[リバース]のチカラをフルパワーで発揮させる。火山弾は全て、生き物に変わる。それは犬であったり豚であったりイノシシであったりクマであったりイヌワシであったりオオカミであったりフクロウであったりスズメであったり蛇であったりゴミムシであったり羊であったりスズメバチであったりケラであったり蚊であったりと、何でもありのごちゃ混ぜの軍隊が出来上がる。

「[クエイク]のチカラで、普通の地面という偽りの姿を捨てさせ、火山という真実の姿を導き出した! さらにそこに[リバース]のチカラを加え、火山弾という偽りの姿から、生物という真実の姿を解き放った! この二体の式神がいれば、真実と偽りに、境界なんて存在しない!」
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