尚一と[リセット] その四

文字数 2,143文字

「次の俺の合図で、[リセット]の真下から火山弾を撃て。それでこの戦いは終わらせてやる!」

[クエイク]は頷いた。

「霧生、霧生よぉ〜。戦いが終わるだと? お前、歴史を学んでないのか? 人類と戦いは、切っても切り離せない存在なんだぜ? 人間が生きている限り、今もどこかで戦いが起きている。ちょうどここの、オレとお前のようにな!」
「いいや…。お前は確実にギブアップするぜ…! [クエイク]、撃て!」

[リセット]の下の地面が少し盛り上がったと思ったら、大きい火山弾が飛び出した。

「ファルルラアアアア!」

 火山弾は[リセット]の甲羅を貫いた。完全に破壊とまではいかないが、もはや立ってはいられない。

「ほう。だが! [リセット]のチカラを使えば!」

 式神の受けたダメージすら、元に戻せる。それが[リセット]のチカラである。

「それをやると思ったぜ。だがどうなるか!」

 尚一は、

「はあ? 何を言う………」

 その後に何を言うつもりだったのかは、わからない。上に飛んだ火山弾が、修復された甲羅に直撃し、またも砕け散ったためだ。

「何?」

 尚一には、何が起こっているのか理解できなかった。

「何だ、今のは? [リセット]の傷は、ちゃんと受ける前に戻った。なのに…、ならば、[リセット]! もう一度戻せ!」

[リセット]は再び、チカラを使った。
 普通に見ればこれは、厄介なこと極まりないだろう。だが霧生はこの展開を待っていた。

「諦めな、尚一……。お前の[リセット]はもう、詰んでいるんだ」
「んだとぉ?」

 するとまた、地面から火山弾が噴き出し、[リセット]の腹を貫いた。

「クソ! だが…」
「お前の式神は、受けたダメージをチカラを使わなければ治せない。そしてそれは、式神の傷だけでなく火山弾の位置すらも元に戻してしまう」

 ようするに、[リセット]のチカラを使うと、傷も治るが火山弾の位置も戻り、再び[リセット]に当たるのだ。最初にチカラを使った時、火山弾は地面に戻ろうとしたので、甲羅を上から突き破った。そしてそこからチカラを使えば、火山弾はまた、地面から飛び出て空を目指すのだ。

「どうした? さっきまでの威勢は! そりゃなくなるわけだ、このループからはもう、白旗を揚げない限り抜け出せない」

[クエイク]が尚一の方を向いた。触手を振り上げ、威嚇をする。

「どうだ人の子よ? 我と戦うか?」
「ぬうぅ…」

[リセット]が[クエイク]の相手をするには、火山弾のループから抜け出さなければいけない。だが、そうすると[リセット]の体はボロボロで、とても[クエイク]と相手をできる状態ではない。

「終わりだ尚一…。どんな戦いにも、終幕がある。明けない戦いなんてない!」

[クエイク]が尚一を持ち上げると、[リセット]めがけてぶん投げた。

「ぐわあ…」

 尚一はもう立ち上がれないようだ。[リセット]もかろうじて、まだ無事な様子。だが尚一の手に握られている札に戻って行った。

「ふう。厄介なチカラを持った式神だったが、それが弱点だった! なんとか突破したぜ…」
「そのようだな、人の子よ。貴様、我を操ってみせた。見事であった」

 雨が降り始めたので、霧生は式神を札に戻すと、芽衣とともに楠館に戻った。


「どうだ[クエイク]? 言われた通りお前を操ってさっきの奴は倒した。俺はお前の主人として、役目を果たしてやったんだ。芽衣も見ていた。もう言い逃れはできないぜ」

[クエイク]の課した試練は、見事に突破してみせた。卑怯なことはしてないし、尚一にも勝利した。

「わかっている。我がそれを一番痛感している…」

[クエイク]は自分の式神にする前は、力任せに突っ込んでくるような攻撃を多用していた。しかし霧生はそれをさせなかった。おそらくそれだけでは[リセット]を倒せなかっただろうし、チカラを駆使することが召喚師の務めだ。実際に霧生は[リバース]も使わず、[クエイク]だけで勝利を掴めた。

「認めよう、人の子よ。我の主人、…召喚師としての貴様の能力は、我が今まで出会った人の子の中で、一番高い。それが揺るがぬ真実。我の独り善がりな信条は、偽りの強さしか生み出さぬ。我は貴様について行くとしよう」

 時間にして、[クエイク]を仲間にしてから数日。それが長いか短いかはどうでもいいのだ。尚一とのバトルは式神との絆を育むのに、時間はいらないと感じさせてくれた戦いだった。その代わり、大変な試練だった。

「人の子よ、改めて名前を聞かせてくれ」
「霧生嶺山だ」
「霧生…。我はお前の式神だ。これからお前に、さっきの戦いよりも辛い道が待っているのかもしれん。しかし我は、お前がその道を歩き終わるまで一緒に行動すると誓おう。もし信頼できないのなら、いつでも札を破り、我を破壊せよ。我は止めはしない」
「いきなりかしこまるんだな…」

 少し困惑する霧生であったが、それほど[クエイク]は自分のことを認めてくれているという証でもある。

「まあ、これからもよろしく頼むぜ、[クエイク]!」

 霧生は再び温泉に、式神とともに浸かった。
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