【episode5–青空と交差点】

文字数 623文字



春の訪れを感じるある日のことだった。


私は、こともあろうか交差点のど真ん中でエンストを起こしていた。


「すみません!すぐ退()けますので!!」助手席の窓を開け、頭を下げながら弟が謝っている。


私もすかさず窓を開けようとすると、「ねーちゃんは謝らなくて良いから早くエンジンかけて!」


弟の言葉に我に返った私は、フロントガラス越しに周りの車に会釈すると、急いで車のキーを回した。




「はぁ〜、焦った!あの2人が免許取るの躊躇したのわかる気がする。」


あの2人とは私たち姉弟の両親のことである。




もともと厳格な家庭で、『女性が免許を取るなんて言語道断』という、いつの時代なんだい?と言いたくなるような謎の縛りがあった上に、おっちょこちょいな私の性質が相まって、両親から免許取得禁止令が出ていたのである。



それでも、どうしても免許が欲しかった私は、弟に遅れること数年。



弟と実地訓練をするという条件の元、無事に免許を取得。


晴れて一般道を走行できると思った最初の一歩が、交差点でのエンストだった。



「まさかあそこで停まるとは…。自分が初めて運転した時よりもはるかに緊張する。」ため息混じりに弟が私を見る。


「ごめ〜ん、私も停まる気はなかったのよ。」申し訳なさそうに弟に視線を向けながら運転する。


「そりゃ、そうだ!」プハッと吹き出した弟につられて、順調に走り出した車の中で私たちは笑顔に包まれた。



窓の外に広がる空は青く、その当時の私たちは、いつまでもそんな穏やかな日が続くと信じていた。





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