【episode8–電話のベル】

文字数 353文字



「早くいらっしゃい。」

玄関先で母が呼んでいる。



その日は、母と一緒に弟のお見舞いに行くことになっていた。



「はーい!今行きまーす。」



Webライターをしている私は、納期が間近まで迫っていたため実家にパソコンを持ち込んでいた。


素早く身支度を済ませると、ギリギリまでキーボードに指を滑らせていたのだ。




もうすぐキリがつく。そうしたらパソコンを閉じて…。


ゴールが見えたと思った瞬間に母の携帯電話が鳴った。




「ハイハイ、今出かけようと思っていたところよ。」


話し始めた母の声が突然厳しさを含んだ。


「心肺停止?落ち着きなさい。今すぐ向かうから。」


医療人である父の伴侶として長年連れ添った母らしい的確な指示を出している。



電話の相手は、弟のパートナーだ。




私は、慌ててパソコンの画面を閉じると、「行こう。」そう言って玄関を飛び出した。





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