第10話

文字数 1,256文字

追求し終わったノアは、部屋の中を見回している。
「あ、かわいい。ミニギター」
話題が逸れたのでチャンスだと思い「弾いてみます?」
「いいんですか?じゃあ」
ギターを手渡す。
コードやアルペジオを弾いている。
おもむろに、今やっているゲームのメインテーマを弾きだした。
弾き終わったところで「そういえば、何かサプライズがあるって」と聞いてみる。
「そう!驚かないでくださいね」
ノアは長い間をとる。
「新曲が出来ました」
「え!いつ?」
「ミーティングがあった日。歌詞はまだなんですけど…一人称抜きっていうのが難しくて…そんな曲、あります?」
「結構ありますよ」ギターを受け取り「例えば」と言って、歌ってみる。
スピッツの運命の人。
「たしかに、僕とか私とかでてきませんね」
「できたら、こういう風に歌詞を変えてもらいたいんです」
「了解です」
「コーヒーでも飲みます?」
「いえ、おかまいなく。そろそろ帰りますね」

ノアが帰った後、長いため息をつき、煙草を1本吸う。
新曲か…
それにひきかえ、ゲームとは…おまけに嘘までついて。
我ながら呆れる。

土曜日、いつものスタジオで、ノアがギターのタブ譜を渡してくれた。
アパートに戻り、ストラトをパス10に繋ぎ、もらったタブ譜を弾いてみる。
1曲ずつマスターしていく。
週末になるとスタジオに集まり、オリジナル曲を演奏する。
練り直した歌詞も完成して、そろそろレコーディングをしようという話になったのは3月に入った頃だった。
レコーディングスタジオを借りて、リズム録りが行われる。
ギターとキーボードはノアの部屋で宅録。
4月には4曲レコーディング出来た。
次に新曲のアレンジと、ボーカル録りを並行して行う。
ギターアレンジなんか考えるスキルはないので、まかせることにした。
問題はボーカル録りである。
これが、何回録ってもOKが出ない。
「ピッチ補正かけたほうがいいんちゃう?」長谷川がため息をつきながら言う。
「なんで?このままでいいじゃん」ノアが反対する。
結局、味があるという理由でピッチ補正なしでいくことになった。
コーラスをノアが入れる。
新曲のアレンジも、ボーカル録りが難航している間に仕上がっていた。
渡されたタブ譜通りに演奏する。
ゴールデンウィークが始まる頃には5曲録れた。
アパートで出来上がったCD-Rを聴く。
前々から考えていたことがある。
それはアルバムのコンセプトだ。
業界向けプロモーション用CD、というのが今回のコンセプトだと思っている。
だから編集を少し変えたい。
まず、1曲目のボーカルをノアのものに差し替える。
2曲目に当たる部分に、電話でやりとりしている声を入れる。
例えば「もしもし」「メンバー募集の貼り紙を見たんですけど」といった具合だ。
これで最初は3人でやっていて、あとから1人加入したんだとわかる。
3人に提案してみると、リズム隊の承諾はすぐに得られた。
問題はノアである。
とにかく自分の声がCDになるのが嫌だ、とのこと。
コーラスで入ってるからいいじゃないかと、説得した。
ちょっと考えさせてください、というのが答えだった。
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