図書館にて

文字数 1,452文字

そういうわけで三人は梨香の家を後にし、再び中央へと戻って街唯一の図書館へと入った。


それまでの調査で時間を費やしたので、すでに閉館時刻は迫っていた。


内部には人気はなく、受付の司書がポツンとひとりで立っていた。

あの、ちょっとよろしいですか?
はい、何かお困り事ですか。
初めて会う外国人にも、司書は落ち着いた対応を見せた。


すでにアリシアの存在は街中に知られているし、呪われ人は外国人に対するアレルギーもない。

いえ、実はこちらを利用されている方のことで、お聞きしたいことがあるのですが。
申し訳ありません。

当館の規則では、個人情報を外部に提出をするようなことは禁止されています。

そんな規則、本当にあるのか。
すいません、冗談です。

この前、テレビのドラマでやっていのを真似しただけです。

……。
わたしの知っている範囲のことなら、お答えしますけども。
一月ほど前に亡くなった杉田さんという方はご存知ですか?
はい。

直接の面識はないんですが、この街では珍しい事件だったので記憶をしています。

その方がこちらを利用していたと聞いたのですが。
本の貸し出し記録を調べればいいんですね。

少々お待ちください。

司書はそう言って、手元にある台帳を調べ始める。


本を貸し出す場合には、そこに名前と本のタイトルを記すことになっている。


この街では免許証などは発行されないため、電子的な記録は残されてはいない。

どうやら、杉田さんという方が本を借りた形跡はないですね。
やはり、そうでしたか。

では、杉田さんが亡くなった日、一月ほど前の休日のことのようですが、その日、杉田さんがこの施設を訪問したような記憶は残っていますか?

休日なら図書館は休みですよ。
そうなのですか?
ええ。

とくに利用者が多いわけでもありませんし、公的なところはみんなそうですから。

ってことは、リカの母親は図書館の帰りに襲われたけじゃないってことだね。
利用していたことは確かです。
実際に杉田が目撃しているからな。
では、三十代くらいの女性が一月ほど前にここを利用したいたような記憶はありますか?
ありますよ。

それが亡くなった方なのかどうかはわかりませんが、ハッキリと覚えています。

ここの利用者は少ないですし、何より体調が悪そうでしたから。

体調が悪いというのは?
死にそうだった、ということです。

おそらく、寿命が近いことを本人も自覚していたのではないかと思います。

その方が何を調べていたかは、わかりますか?
ええ。

この施設を預かるものとして、大丈夫ですか、とちゃんと声をかけましたから。

司書はカウンターを出ると、近くの棚へと歩いていった。


そこはヨーロッパなどの歴史を扱うコーナーだった。

すぐに離れたので詳しいことはわかりませんが、この辺りで調べものをしていたみたいですね。
ヨーロッパの歴史か。

ということは、聖書のことを調べていたのかもな。

それは日本人の勘違いだね。

聖書は必ずしもヨーロッパがメインではないんだよ。

そうなのか、アリシア。
遥人の問いかけにも、アリシアは答えない。


じっと本棚を見つめている。

アリシア?
ローマ帝国。
ん?
ローマ帝国の本がここにあります。
そりゃそうだろう。

ローマはヨーロッパにあるんだから。

もしかして、これも勘違いなのか。

アリシアちゃんはバチカンの人間だから、ローマが嫌いなんだよね。
もしかして、いえ、でも。
何かに気づいたのか。
ただの勘違いかしれません。

ただ、気になることは確かです。

すいません、わたくし、今日はここで帰らせていただきます。

そう言って、アリシアは一人、図書館を後にする。
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登場人物紹介

高橋遥人


物語の主人公

絶望の街の高校生

アリシア


転校生

バチカンからの使者


橘美緒


遥人の友人


杉田梨香


絶望青春クラブの最初の相談者

死にたがり

南明里


杉田莉緒の友人

何やら怪しい雰囲気

朝倉瞳


遥人の担任

瀬川透


遥人のクラスメイト

杉田直樹


梨香の弟。

大森梓


兄の自殺の真相を確かめてほしいという依頼人。

西村彩夏


自殺をした梓の兄のパートナー。

神城圭


総合病院の医者。

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