第2話 守りたい人

文字数 2,990文字

 俺の名前は、工藤拓斗。水産系の大学に通う十八歳。俺は、これまで、小中高で一度も遅刻をしたことがない。大学に入学してからも、二三回だけ、遅刻しそうになって、恥をかいたことがある。この遅刻をきっかけに俺はいつも、六時にアラームをかけるようになった。

「遅刻・・・」

 誰の声だ? もしかして、この声は母さん。来てくれたのか?

 俺の母さんは、誰よりも優しい。タイムマシーンを作りたいなんて思う俺の夢を一切否定せず、応援してくれる。

「ありがとう母さん。今起きるよ」

 母さんに、起こしてもらうなんていつぶりだろうか?

「はぁー! 何寝ぼけているのよ!」
「え! この声は、お母さん?」
「いい加減起きろ! 遅刻するぞ、この野郎!」
「グヘェ」

 みぞおちに、きれいに拳が食い込んだ。腹からくる痛みで、俺は何が起きたのかを理解し、ベッドから飛び起きた。

「朝っぱらから何だよ」
「おい!」

 声の主は、不器用な笑顔で俺に言った

「遅刻するぞ,この野郎! さっさと、大学行ってこい。こっちは朝早くになるうるさいアラーム迷惑なのだけど。 大体、この汚い部屋は何? 食べ終わったカップ麺とか捨てろよ。大体、こんな汚部屋に住んでいるから彼女できないのだぞ!」
「か、彼女の件は別・・・」
「つべこべ言わずに、さっさと準備して大学行ってこい!」
「うい」

 朝から、大きな声で叱られた俺は、気分の乗らない状態で大学へと向かった
 一方そのころ、一人で留守番している彼女は・・・

「きたな――――――――――――――い!」

床中に広がる食べかけのカップ麺、燃えるごみと燃えないゴミの区別していないゴミ、挙句の果てには片付けても片付けても出てくるゴミ

「もう嫌だーーーー!」

 こんなにも部屋が汚いとは、思ってもいなかった。どうせなら、もっと金持ちでイケメンな人の家に行きたかった。こんな汚い部屋より、パパの部屋の方が、数百倍綺麗。しかも、家にいるぐらいなら未来の方がまだマシ。でも、
 
どうすれば、未来に帰れるのかな~

 今頃、パパとママは私の事探しているのかな? 探しに来ると言っても、あっちには私の居場所わからないか。私の持ってきたスマホも5G対応ではないから、あいつから教えてもらったWi-Fiのお陰で、最低限使えるレベルだから・・・
 パパたちに助けを求めるか、それとも一年間この汚部屋に住み続けるか私は、どちらかを選ばなければならない

 できれば、未来に帰りたいけど・・・

「ピンポン」

 ゲェ! あいつ帰ってきた。どうしようまだ、ここ片付けを終わってないのに・・・。

「ドンドンドンッ!」

 ドアを叩く音が、徐々に早くなる

「ピンポン! ピンポン! ピンポン!・・・」

 早く出なきゃ
  
「い、今行きまーす!」

 でも、知らない人を中に入れるわけには。
ドアの覗き穴から見ると、百八十センチぐらいの男一人と、身長にばらつきがある男四人がいた

「先輩いるでしょ!」

 その中の一人が、言った。
 誰だか、知らないがこの家にあんたらの先輩は一人もいない。この家にいたのは、自分の片付けもできない最低な男だけだ。

「もぉー。いつまで待たせるつもり?」
「全く、いつもの先輩ならすぐに家に上げてくれるのに」
「あの人の家は、実家みたいで安心できるからな」

 『安心してできる』? もしかして、こいつら変なものをこの部屋の中で使っているのか。だから、ここまで部屋が臭いのか。もしそうなら、なおさら部屋に上げるわけにはいかない!

「どうする? 勝手に上がる?」
「いいね! あの人なら、許してくれると思うから上がるか。あとで、誤ればいいから」
「でも、今日は珍しく鍵かかっているから入れなくね?」
「仕方がないから、帰ってくるまでどっかで暇つぶすか」

 男たちは、そういって去っていく

 危なかったー

 こんなに、緊張したのは高校の入学式以来。なぜか、私は緊張するとすぐ寝ちゃうから、あのたちが帰ってから、なにがあったのか覚えていない。唯一覚えているのは、『変な奴ら来た』とあいつに送ったぐらい。

・・・

 あー! よく寝た

 昨日あんなことが、あってよく眠れなかったから、今とても気持ちがいい。あんな奴と一年間過ごすのなんて絶対に嫌だ。お互い助け会うなんて、絶対にしない。だって、知らない人だもん。もし仮に、あいつから『変な奴が来た』なんてメッセージが来たら、助けに行ってもいい

「おいお前、授業終わったぞ」

 おいおい。なんて冗談言っている。授業が終わるところか、先生まだ来てないじゃん

「どこにも、あの背が低くて、ダサい眼鏡しているあの先生いないじゃないか」
「おいお・・・」
「大体、あの時計はなに?」
「おいおい、うし・・・」
「そう、牛。あの黒と白の服だけが、唯一似合っていた」
「お、俺は知らないぞ」

 なぜ、ビビる。先生きてないから、そんなビビることないじゃないか

「君、全部聞こえているよ」
「はいはい。そんな、脅し聞きませんよ」
「学籍番号。AAA09 工藤拓斗君」
「だから、な・・・」

 





「すみませんでした―――!」
「寝ぼけかもしれないから、今回は許すけど、二回目はないからね」
「は、はい。すみませんでした」
「あと、今日君。半分以上の時間寝ていたから、授業点なしね」
「は、はい」

 今日は、朝から夜まで、ずっと怒られた
 高校の時と違って授業が九十分だから、疲れる。早く、家に帰って寝たい。

「あれ、あいつからメッセージ来てる」

 あいつめ、勝手に人のスマホ見やがって、プライバシーってもん知らないのか?

「えっと。ヘンナ八つ着た」

 なんだ、これ? 服の話?

 来た内容は、よく理解できなかった

「ヘンナ八つ着た、変な八つ着た、変なやっつ着た、変な奴着た・・・変な奴来た!」

 変な奴ら? もしかして、あいつらのことか。

 無事でいてくれ!

 そう願って、ひたすら走る。バスや電車の方が早く家につける。でも、そのバスや電車を待つぐらいなら走った方がいい
 数十分走った・・・

「大丈夫か!」

 俺は、初めて家の扉を力いっぱいに引っ張った。普段鍵をかけないのに、今日に限って鍵がかかっている

「おいおい! いたら返事してくれ!」

 普段鍵をかけないから、俺は鍵を持ち歩いていない

「そうか、大家さんにスペア借りに行けばいいのか!」

 大家さんなら、この扉を開けられる。俺は、そう信じて大家さんのいる部屋に向かった

「大家さん。いますか?」
「ドンドンドン」
「ピンポン。大家さん。いますよね!」

 何度、チャイムを鳴らしても出てこない。

「大家さん、お願いです。スペアキーを貸してください!」

 結局、何度も鳴らしても電話をかけても、大家は出てこなかった

 くそ、このままだと彼女が危険だ!

中に入れないことには、何もできない。俺は、外でただ一人彼女が、出てくるまで待つしかない。今日に限って、大雨が降った。体中に水滴がついて体温が、奪われるが俺は、ひたすら彼女が無事であることを祈る

 やばい。さすがに、体力の限界が・・・
 
 やっと、雨が降りやんだ。そこから、時間が進めば進むほど、さらに、俺の体温は下がっていく。
 
 ごめん。こんな男で・・・

 ゆっくりと倒れる俺

「ガチャッ!」

 その時家の鍵が、外れた音が聞こえてきた。ドアノブがひねられ、徐々にドアが近づいてくる。出てきた女性は、俺を見た瞬間飛びついてきた。長髪で,背の低い彼女

「み、ら、いty・・・」 
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