Saber Tiger - Vague bless you

文字数 1,493文字

 高校生が聴くには、少し渋いチョイスだったかもしれませんが、衝撃的な出会いでした。
 ものすっごくひっどい解像度のPVがYoutubeに有った、それが出会いだったでしょうか……世界を目指すといって、歌詞を書き換えたリレコーディングをしたそうですが、もうそれには興味がありません。
 というか、世界を目指そうとして、そのまま花が散ってしまいそうな雰囲気さえあって、ただ、なんとなく残念に思います。

 別にいいじゃないですか、英語じゃなくたって。

 今の私は、心底そう思うんです。

 確かに、英語の歌詞というのは分かりやすいでしょう、世界的に。日本語よりはメタルに合っているのも確かです。でも……こだわり過ぎた結果が、なんだか残念です。

 ……洋楽から離れている間も、ずっと聞いていたのがフランスのAlcestでした。ヴォーカリストのネージュはフランス語でしか歌いませんし、私は曲のタイトルをフランス語で読む事も出来ません。フランス語で分かるのは、お砂糖がシュクルという事くらい……何で知ってるかといえば、うさぎのぬいぐるみが好きだから。お笑い種ですよ。
 でも、言葉なんて何も分からないのに曲は大好きです。ネージュの歌声だって好きなんです。
 そうかといえば、RapsodyのLamento Eroicoはおそらくイタリア語です。辛うじてイタリア語は、音楽の表現記号くらいなら分かりますが、こんにちはを何と言うのかもよく分かりません。でもすごくいい曲だという事は理解出来ます。
 ふざけ過ぎたPVで知ったKorpiklaaniなんて、そのWooden pintsは英語ですが、多くはフィンランド語で歌っています。フィンランド語に至っては何が何だか分かりません。ぎりぎりヒトの名前がわかるか分からないかです。ネーミング辞書にもフィンランドはありません。それでもコルピだって好きなバンドです。
 ほかにも、Solstafirというバンドも知っています。彼等は北欧も通り越した、最早北極に近いアイスランドのバンドで、話者三十万人のアイスランド語で歌っています。私には単語のひとつも分からない言葉で、トールキンの作った人造言語だか何だかも分かりませんが、ふわふわとした曲と相まって、聴いていると不思議な気分になります。

 ……もう、私が好きだったVague bless youはきっと演奏もされないでしょうし、誰かがPVをアップする様な事も無いでしょうし、作り直してしまった今、あの勢い任せに言葉を詰め込んだバージョンは、無かった事になってしまっているかもしれません。
 それに、私の考えも、変わってしまいました。
 私は今、日本語が母語である事が幸せです。
 どれほど言葉に振り回されようが、果てしなく深い言葉の世界を愛しています。
 だから余計に……残念でなりません。
 開き直って日本語で歌ってもよかったのではないのか、と。
 日本のアニメソングやボーカロイド音楽を、外国の方が日本語のまま歌おうとしてくれる今、言葉の壁なんて、気にしなくてよかったのに、と。
 その気になれば、グーグル翻訳でも何でもあるし、ウェブに英訳を公開すればよかっただけじゃないのか、と。
 英語英語にこだわりすぎて、結局、華はまた開かないままになりそうな気がして、ただ残念です。
 ……このまま、バンドが認められる日が来たとしても、もう、彼等に関心を向ける事は無いでしょう。ただ、あの勢い任せな衝動の衝撃だけは確かで、それは私の記憶に静かに沈んでゆくのでしょう。
 人生失敗したと思う前の私の記憶と共に。
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