ドタバタ初航海

文字数 7,749文字

宇宙歴一四九年。
【輝葉】第三宇宙港へと続く軌道エレベーターの上層へと入り、間借りしている【無重力造船所(ドック)】へと、キャプテン・レオンは足を踏み入れた。
日課である空調と証明設備の確認をし、ドックに眠る黒鉄色の船の前で足を止める。
美しい船だ。
誇らしげにその巨大な船体を見上げる。
古代の帆船を思わせる流線形の船体は無数の証明を受けて輝き、船首に頂く女神像(ヴィーナス)は星の皇女のような無邪気な笑みを浮かべている。
その名を【ヴィーナス号】と言う。全長125.0mと宇宙船としては中型、星系間巡行船としては小型に属するこの船こそ、彼の保有する最大の資産であり、拠点兼事務所なのだ。
飾り気のないシンプルな外観と、空っぽと表現した方が早い空室だらけの船内が、今の彼の懐事情を物語っている。
大がかりな改修を終え、新たな船員達による初航海を控えた船は、今はまだ静かにその時を待っている。
広いドックの中を【ヴィーナス号】へ向かう途中、工具箱を開いて作業に勤しむ青年を見つけてレオンは声をかけた。
「よう、早いなシン」
シンと呼ばれた青年が顔を上げ、にこやかに挨拶を返す。
「やあキャプテン。おはよう」
青年の名はシン・チンツュンと言い、レオンがスカウトした乗組員の一人である。
さわやかな笑顔で工具を弄る姿は理工学系の学生にも見えるが、シャツの下からは引き締まった肉体が覗いており、背もレオンより一回り程高い。
「何してんだ?」
「修理を頼まれてね。今終わったところ」
そう言って工具を戻し、額に残った汗を拭う。
「お前電気工事の免許も取ったのか?」
「うん、二級取ってみた。次は配線と水道回りかな」
「後で証明書見せろよ。受験料は経費で落とすから」
「わかった」
テキパキと片づけを終え、シンは大きく伸びをした。
「さてと、少し運動でもしようかな。一緒にどう?」
「暇に見えるか?」
「あはは。じゃ、頑張ってね」
早速ジョギングを始めるシンを見送り、レオンは船長室へと向かった。
時折電源やライトが付くかを確かめながら廊下を歩き、一際豪華な装飾のされた扉の前に立つ。
右手の人差し指にはめた指輪型の【万能端末(デバイス)】をかざし、ドアロックを解除。上着を脱ぐのと同時に壁の一部が回転し、現れたコートハンガーに上着をかけて仕舞う。
シンプルながら応接スペースも備えた部屋は、きれいに整頓され、修理にあたってちょっとした仕掛けも施されたレオンの城である。
「さて、どれから片付けるか」
デスク上に展開された無数のモニターを見つめながら大きく伸びをする。
元は展示船(モデルシップ)だったこの船は、祖父であるキャプテン・ライガによって破格で購入され、彼の引退後は息子であるキャプテン・タイガーの手に渡った。
老朽化と法改正による改修を繰り返し、運搬・送迎・護衛・調査等の様々な業務をこなし、現役を保っていた。
しかしその船は十年前に突如として消息を絶ち、その四年後に無残な姿で発見されたのである。
船体は真っ二つに分断され、艦橋は陥没。エンジンは違法サルベイジャーに配管ごと強奪され、船首に輝く女神はその尊顔から胸元までを熔解して果てていた。
当然ながら生存者も無く、発見された事が奇跡であったという。
船の修理はもとより、それに必要な物資・人員の手配、収支ならびに借金の返済計画――。
そして【惑星間労働組合(ギルド)】の登録とそれに必要な船の運用計画と運用実績。更には従業員の業務体制と給与形態、個人情報の取り扱い方法――。
仕事とは始める前からやることが多いのだと、改めて思い知らされながら、レオンは今日も励むのであった。


外線で通信が入ったのは一時間程経った頃だった。相手を確認し、口元を緩めながら通話ボタンを押す。
『いよぉう、元気かぁ。元バイト』
野太い声に若干仰け反りながら、レオンは尋ねた。
「今日はどうした?元雇い主」
『聞いてくれよぉ』
「どうせまたバイトに逃げられたんだろ?」
何度目だと呆れるレオンの目に、見たくも無いふくれっ面が映る。
『今度は二週間持たなかったぁ。根性が足りやしねぇ』
「同情するよ。バイトの方に」
『そう言うなや。一生のお願げぇで戻ってきてくれねぇか?』
情けない声を上げるハモに、レオンはため息をついた。
「俺ももうハタチだぜ。やりたい事は自分でやる歳だ」
『勇ましいこって。――プハァ』
朝っぱらだというのに、泡立つ飲み物をハモはあおる。
『そのボロ船本当に飛ぶのか?』
「あんたのボロ船より実績はあんだよ」
『その分歳も食ってんだろ。セラミック塗りたくったって、腹の中はサビっぱの婆さんじゃねぇか』
「そりゃあんたのとこのババアだろ。こっちは鼻からケツまでアンチエイジング施してんだよ」
『ウチのババアなんざ三年に一度の洗車だけでビンビンよ』
『条例違反だって言っただろ!年一で洗浄ナノマシンぶち込め』
しばらく品の無い言い争いを続ける二人だったが、話題にレオンの祖父であるキャプテン・ライガーが上がったところで勢いは削がれた。
『何つーかよぉ、お前の爺さんもたいした悪党だよ。世話にはなったがな』
「そうなのか?」
『でなきゃオメエみてえなガキ雇うわけねえだろ。女神をスケコマシた男、キャプテン・ライガの孫でもなきゃよ』
女神とはこの【ヴィーナス号】の事である。
駆け出しの船乗りだった祖父が口八丁で船を手に入れ、【悪党】と呼ばれるようになった逸話はレオンも何度も聞いた話だ。
「次は市長の息子でも雇うんだな」
『そんな顔すんじゃねぇよ。俺はお前の事気に入ってるんだぜ?親父さんに似て書類仕事も上手いしなぁ』
「あーそうかい」
『無視すんなよぉ三代目』
もうしばらく付き合ってやろうかと思っていたレオンだったが、新たに入った着信に、頃合いと見て端末に指をかけた。
「おっさん」
『ん?』
「がんばれ」
『うるせぇ薄情もん!こっちは――』
電話越しに叫ぶが、それを聞いてやる事無くレオンは通話を切り上げ、速やかに着信に出た。
圧迫感のある髭面が消え、代わりに花の様な笑顔が現れる。
『こんばんは船長さん』
おっとりとした声と共にエリシア・アイギース・レオーネは微笑んだ。
「ごきげんよう皇女殿下。生憎とこっちは日が高いもので、眩しかったらすみません」
『あら、そうでした。私ったら』
スクリーン越しにエリシアは恥ずかしそうに頬を染めた。スクリーン端の時計を見れば夜も更けた時間である。
【黄眼】の標準時とも違うようだが――。
「どちらにお出かけで?」
『公務で第三星区へ。その後は第六星区へ寄って、お土産に美味しいワインを買って行きますね』
「期待して待たせていただきます」
芝居がかったお辞儀をするレオンに、ところでとエリシアが話題を変える。
『私の留守の間に、チェリシアが寂しがらないように相手をしてもらえませんか?』
「かまいませんが、俺もここを離れるわけには」
『大丈夫ですよ。あの子なら簡単に抜け出して来ちゃいますから』
軽く言ってくれるが、それはそれでマズいのではないのだろうか?
『私も昔は一人抜け出してはロマンスをしたものです』
変なところばかり遺伝させないでほしい。
唐突な出会いから早四年。常日頃から侍従や指南役を困らせ、時に護衛や武官すら翻弄し、最終的に自分を巻き込み、酷い時は親子そろって押しかけて来るのだ。
一度エリシアの夫であるチェスター皇子が訪ねてきた事がある。
何事かと出迎えれば「妻と娘の相手をしていただいているようで」と菓子折り持参での表敬である。
レオンにとって印象的だったのは、その尊顔を彩る瞳が澄んで優さに満ち、そして疲労と同情に満ちていたことだ。
仲良くなれそうなんだけど、正直あんまり来てほしくない。
と言うのが彼の率直感想である。
「……まあ、俺なんかでよろしければ、エスコートさせていただきますが」
『頼もしいです。では、あの子の事お願いしますね』
「謹んで」
おそらく本気で断れば分かってくれるのだろうとレオンも思ってはいる。しかしである。
可愛い一人娘を構ってくれという美人の願いを断れるだろうか?いや出来ない。
世の男達がそうであるように、彼もまた美人に優しい紳士なのだ。
他愛もない世間話を挟み、通信を終えようとして、ふと思った事をレオンは尋ねた。
「こんなこと聞くのも何ですけど、俺ってチョイ悪爺と低姿勢オヤジのどっちになると思います?」
なんのこっちゃ分からない質問であったが、自信を持ってエリシアは答えた。
『素敵なナイトになると思います』
「……変なこと聞いてすみません。わが身に変えてお姫様を楽しませて御覧に入れます」
『まあ、頼もしい』
素敵な笑顔を残してエリシアはスクリーンから消えた。


少し経ち、作業を一段落させたレオンは、体をほぐそうと船内の見回りへと向かった。
艦橋(ブリッジ)へ上がったところで、ふとレオンは足を止めた。広いブリッジの中で、一か所だけ照明がついているのだ。
一筋の証明の下、複数のモニターと演算機、さらに布団とクッション、ゲーム、フィギュア。どうやって持ち込んだのか、冷蔵庫にドリンクバー。
それら雑貨の中で鮨詰めのように埋まりながら、小柄な女性がドーナッツ型のキーボードを叩いていた。
「おう、いたのか」
「いて悪い?」
丸メガネ越しに不愛想な顔を向ける少女に、悪かったと謝りながら残りの証明を点ける。
「どうだ?」
「んー、ボチボチ。船内はほぼほぼ繋がったし、外部回線も安定してきた」
そう言って通信士兼電子技師のミー・コ・フィシーは視線を手元へと戻した。
「順調でなによりだ。昼飯は用意してあるか?」
ミーは顔を伏せたまま机の上のジャンクフードを指差した。
「好みに文句は言わねえけど、ちゃんと栄養取れよ」
「ん」
モニターを見つめたまま気の無い返事を返すミーに、無駄だなとあきらめてレオンは船長席に座った。
こだわりのシートに触れ、専用端末を起動して動作確認を始める。
それとなく会話を振ってみるも、残念ながら返ってくるのは気の無い返事ばかりだった。
昼に差し掛かったところで続々と乗組員がブリッジへと乗り込んできた。
操舵士のマイル・ホイルズ、航宙士のスロー・コンパス、砲撃士のデミ・シェル。ここにはいないが、整備士のナット・ボルト。
求人で集めた面々であるが、いずれもレオンが自ら面接して採用した者達である。
能力はもちろん性格や将来性等モロモロを考慮し、予算と出費と予想収益を何度も――それはもう何度も計算しながらニ十人の乗組員を確保したのだ。
それぞれ思い思いに船に慣れようとする姿を確認しながら、ふとレオンはモニターの一角を見てその手を止める。
内線でシンを呼び出すと、案の定額に汗する姿が映った。
「いつまでやってんだ?」
「あれっ?もうこんな時間。汗を流すって気持ちいいよね。キャプテンもどうだい?」
「遠慮しとく」
ふとクルー達を見れば、食事と飲み物を出して談笑を始めている。
数日後に初航海を控えているとは思えない。
こんなんで大丈夫だろうか?――そう考えてしまうも、すぐにその不安は霧散する。
なにせレオンも他のクルー同様に心待ちにしているのだから。


そして数日が経ち、その日はやってきた。
一隻の船が【輝葉】の宇宙港を出たのは正午前の事である。
飾り気のない流線形のラインに、数条の発光帯を巡らせて、【ヴィーナス号】は星の海原へと漕ぎ出した。
『――こちら管制塔。貴船予定航路上に障害無し、されど磁気嵐の予兆有り、注意されたし。よい航海を』
「こちら【ヴィーナス号】。告達に感謝する」
レオンの返礼にあわせて船体表面の発光帯が青白く輝き、巨大なVのマークを作った。
そしてそれに応えるように、管制塔の周囲に扇型のスクリーンが現れ、手を振っているかのような光の波を生み出した。
「おお!」
粋な見送りに感嘆しながら、レオンは船長席からクルー達を眺めた。
席にこそついているが学生のように落ち着きが無く、私語が乱れ飛んでいる。
見事に緩みきっているのが分かるが、その時は何も言わずレオンは観察に徹した。事態が動いたのは二時間程経ってからである。
突如進路上に小惑星群が現れたのだ。
発見が遅れたこともあり進路変更は出来ず、船は減速しながら侵入コースへと入った。
「何で!?レーダー何も映ってなかったのに!」
「磁気嵐が原因だろ」
通信士のミー・コ・フィシーの苛立ちのこもった声に、レオンは冷静に述べる。
「スロー。マッピングいけるか?」
「範囲をー絞ればー」
「遠いのは荒くていいから、範囲ごとに段階分けて作ってくれ」
「了ぉ解ぃー」
航宙士のスロー・コンパスがやる気の無い声を返す。しかしその口調とは裏腹に、無数の情報が球体状の宙域図に次々展開されていく。
早さと正確さに満足しながら、レオンは視線をミーへと向けた。
「いつまでムクレてんだ?」
「宙気予報じゃ言ってなかったのに」
「管制官殿が言ってただろ。聞いとけッ」
ブーたれるミーの頭を乱暴に撫でながら、レオンは他のクルーを見渡した。
小さな混乱の中、ようやく船長の判断を仰ぐ事に思い至ったらしく、無数の視線がレオンに注がれる。その視線を受け、満足気に微笑みながらレオンは指示を飛ばした。
「反転は危険だから、減速しつつ転進して右から抜ける。危ないのはこっちで砕いてやるから心配すんな」
「お、おう。了解っす船長」
落ち着いたレオンの言葉に、代表して操舵主のマイル・ホイルズが返事を返し、他も続くように頷く。
その中で、砲撃士のデミ・シェルが一人不満そうに尋ねた。
「全部撃っちまったら駄目か?」
「駄目だ。どんな物質が混じってるか分かんねえだろ。スローが解析するまで待ってろ」
はちを回され、スローがゆっくりと首を回す。
「私のー仕事ぉー?」
「その為に給料払ってんだよ。ミーがサポートするから頑張れ」
「ファーイトぉー」
「イッパーツ」
掛け声合わせて作業を始める二人の肩を叩き、レオンはブリッジを後にした。
駆け足で格納庫へ駆け下りたレオンを待つのは、黒と白に塗装された【人型重機(コネクタ)】である。
多重装甲のハッチを開き、シートに腰かけるのと同時に、整備士のナット・ボルトから通信が入った。
『ジャケット着せるぞ船長』
「おう、頼む」
全長15.6mmと作業用(ハンディ)を超える巨体を覆う様に黒いカーテンが展開され、首から下を包み込んで漆黒の被膜を構成する。
唯一顔面部のみが仮面の様に白く塗装されているのだが、かえって不気味な印象をあたえており、まるで影から飛び出した怪物のようだ。
『何度見てもザコ戦闘員みたいな恰好だよな』
「ほっとけ。【スペクター】起動するぞ」
周囲の整備士を下がらせ、黒いマウスピースをくわえ込む。
一瞬の痛みと共に機体と一体化するのを感じ、動作確認を行う。
『突入するっす』
「シールド膜厚比正面七割で固定。――出るぞ」
最後にベルト状の推進機を装着し、レオンは【スペクター】を駆って飛び出した。
「そらよっ!っと」
飛び出した先の岩石を蹴り飛ばし、久しぶりの宇宙空間に身体をなじませる。
【ヴィーナス号】の正面へ回り込んだところで、遅れて発進したシンから通信が届いた。
『これって本当にトラブル?』
「不測の事態だよ。あいつらにとっちゃな」
『可哀想に』
「訓練だよ。見ただろあのまとまりの無さ。――っと、無駄口叩く暇は無さそうだぞ」
『ん、了解』
レオンの乗る【スペクター】が小惑星に取り付き、押し出して軌道を変える。それに続くように、【スペクター】の更に倍近い巨体を持つ機体が姿を現した。
【ゴーレム】と名付けられた大型のコネクタは、濃紺色の表皮の上に青いガントレットのような装甲をまとい、パワーファイターを思わせる風貌である。
しかしその見た目に反した軽やかな動きで【ゴーレム】は武術のような構えを取った。
『セイッ!』
腰部を回転させ、正面の小惑星めがけて勢い良く剛腕を振り上げる。
すさまじい衝撃に小惑星の表面が揺らぐが、まだ足りぬと見たシンは追撃を構えを取った。
『ハァアアアア!』
連続で繰り出された高速の回転蹴りに、たまらず悲鳴を上げた小惑星に亀裂が走り、左右真っ二つに裂かれた。
崩壊しながら離れていく二つの岩石の間で仁王立ちする蒼い巨人という構図に、ヒロイックな情景を感じつつ、ひとつだけ確認しておこうとレオンは尋ねた。
「叫ぶ意味ってあんのか?」
男子として分からなくもないが、社会人として聞いておきたい意図に、シンは堂々と答えた。
『もちろん。気合いは大切だよ』
「そうか」
聞いておいて何であるが、簡潔にそれだけ言ってレオンはこの会話を終わらせた。
しかしそんな無駄口も言えぬほどに状況は変化していく。
「馬鹿!舵回し過ぎだ。あと声出ししろ!声出し!」
『す、スンマセンっす』
『キャプテン今いい?』
「何だ」
『前方注意』
「早く言え!」
『右下に通り道発見!』
「ゴー」
『デカイのが来る。撃っていいよな?』
「ミー」
『危険物質無ーし』
「ファイア!」
指差しながら答えるレオンの声に合わせて一筋の閃光が放たれ、正面の小惑星に着弾した。同時に光が半球体状に広がり、無数の亀裂と共に細かく崩壊し消滅していく。
射撃の正確さと躊躇いの無さに感心と不安を覚えるレオンであったが、その僅かな不注意の間に、爆発の余波を受けた【スペクター】が制御を失い船体から離れた。
受け身も取れぬまま、流された先の巨大な小惑星に【スペクター】が衝突する。機体外周に球体状のシールドが自動展開されるも、衝撃と質量の前に泡のように変形し崩れる。
しかし衝突の寸前、黒艶の表皮が膨張し救命胴衣のように機体を守った。
ゴムボールのようにバウンドし速度を落とす【スペクター】の中、レオンは【ヴィーナス号】へ向けて腰部からワイヤーアンカーを放つ。僅かに船体から逸れて空を切るも、寸前で【ゴーレム】が巨大な腕を伸ばして掴みあげた。
『危機一髪だったね』
「ああ、助かった」
内心の焦りを隠す様にレオンは声を張り上げた。
「まだ気ぃ抜くなよ野郎共」
『オー!』
『女もいるぞー』
「馬鹿女共」
『おー!』
『いいんだ』
元気のいい返事に思わず口元が緩む。
星屑を割り、爆発に揺られながら船は進む。時に笑い、時に怒り、時に泣きながら波を越えてまた笑う。
光波兵器に重力制御、極小器機に脳波操作と時代の移ろいを見せながら、帆を張り海を渡っていた頃から変わらぬ気概を持った若者達によって船は小惑星群を抜けた。
開けた視界の先には恒星と彩色の惑星が広がり、中央を運河のような星の帯がヴィーナス号を出迎える。
「その先は自分の目で……」
黒い宙に煌めく光の海をその目に収めながら、レオンは嬉しそうに微笑んだ。
「――最高ッ」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み