第二話:悪魔さんとぼっち生活(5)

文字数 1,049文字

「……だめだこりゃ」
最初はコウモリは出せたけど、今度は召喚すら成功しない。
僕は諦めて帰り支度をはじめる。
 
 …………。
 
ふと帰る準備をしながら、何か忘れてることに気づいた。
大切なことがぽっかり抜けた感覚があった。
何か。
何か……。
 
……。
 
…………っ!
電撃が走った。
僕はすぐその可能性について考えた。
ありえる? ありえない?
 
――いや、あり得る。
 
数学の難問が解けたような。
ゲームの謎解きが判明したような。
全身が痺れる感覚があった。

「……ここにはないな、……よし、家だな」
心臓が跳ね上がるのを抑えながら僕は走り出す。
林を抜けて、寮に戻る。
自室のドアを開けて、靴を脱ぎ捨てる。急いで机にある引き出しを開ける。
そこから特徴的な丸笛を取り出す。
 
――――"スレイマンの笛"。
 
先刻まで魔法陣を設置して、口述での召喚呪文にて召喚自体の成功は確認できた。
だから魔法陣側に問題ないことは明らかだ。
故に課題となるのは呪文サイドの言い回しだ。
この言い回しが分からず適切な呼び出しができないという点を、文字に起こすことで解決する。
ただし文字起こしに手順変更する際の影響として、今度は実行方法が分からないという壁に当たる。
そして今、この実行方法を解決する手段が、きっと――――
「……はぁっ、……はぁ」
 おぼろげな綱渡りだと自覚しつつも僕には妙な確信があった。
 魔法陣の前に立つと、手にした丸笛に呪文を書き込もうとじっとそれを見つめる。
すると、注意深く観察しなければ分からなかったが、それに細い線のようなものがあることに気がついた。
「割れるのか、これ」
僕は丁寧に力を込め、壊さないように丸笛を二つに分ける。
すると……
「…………何だよ、書いてあるじゃねぇか」
 
 Eloim,Essaim,frugativi et appelavi.
 エロイム、エッサイム、我は求め訴えたり。
 
 僕は笛を二つに戻し、魔法陣の前で吹きはじめた。
 メロディは考えずとも、息を加えるだけで笛は自然とメロディを描き、魔法陣は白く輝き出した。

 
 Eloim,Essaim,frugativi et appelavi.
 
    Eloim,Essaim,frugativi et appelavi.
 
       Eloim,Essaim,frugativi et appelavi.
 
「――――――――ッ!」
 
 一度目で月が消えた。
 
 
 二度目で嵐が渦巻いた。
 
 
 三度目で世界に暗黒が満ちて、魔法陣と僕以外に何物もいなくなった。
 
 そして――――――
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登場人物紹介

メフィスト・ヨハン・フェレス3世

本作のヒロイン。悪魔ロリっ娘です。純粋なロリにしたくなかったので、普通のロリよりは成長してイメージ。中学一年生くらいの感じです。アホで可愛くて、調子乗るバカで、たまに真面目で根はいいやつです。家族大好き、悪魔大好き、パワーはそこそこあります。

夜森明人《やもりあきひと》

本作の主人公です。どこにでもいる高校生です。ただ家族が誰もおらず、友達恋人もいないぼっちです。自分では自らのことをコミュ障だと思ってるようですが、メフィストとあんだけ喋れればコミュ障ではないだろと思います。ATフィールドを張るタイプ。ぶっちゃけ養って欲しい。

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