第3夜
文字数 1,550文字
人間は機械じゃない。喜怒哀楽があって、その時々で魂は力を得たり失ったりするんだけれど、生涯を通じてその総量は各人ごとに決まっている。
その総量、「人類全体の」と言ってもいいかもしれないが、それがこのところ加速度的に減少してるのさ。
前に向かって生きる力が人間に残っていれば、過去に回帰しようなんて考えない。目の前の苦しみや悲しみを、苦痛を感じながらも乗り越えようとするだけの力があるのなら。でも、誰だって永遠にそうしてはいられない。ましてこれほどに魂の力が弱くなってしまっている時代には。
悲惨なケースだと、重荷に過ぎなくなった
物心つくかつかないかの頃から、普通の人に見えないものが見えた。すぐに霊と対話できるようになり、彼らを操れるようにもなった。末流ながらも西塔の血を引いていた母が、7歳の僕を男子のいなかった宗家に紹介した。その1年後に母は結婚して、今では新しい夫の子供がいる。
生活上の理由もあったろうけど、何よりも母は宗家の養子にすることで僕の才能を生かそうとしたんだと思う。だから感謝しているよ。
そんな人々の魂を救えるのは、絵に描いた餅じゃなくて、苛酷な人生を文字通り夢に変えてしまえる場所なんだよ。
ここが肝心だ。「思い込み」じゃなくて逆転なんだ。現実が夢になり、夢が現実になる逆転。これを僕は実現できると思った。
彼らの何十倍、いや何百倍もの、救われない人々が世界にひしめいてる。世の中に溢れている悲惨さのマイナスを、そのままプラスに転換することができない限り、苦しみ続けなくちゃいけない人たちが。そんな人々を救わなくてどうするんだ?