第6夜

文字数 1,648文字

前回までの話が実現すれば、少子高齢化なんて一気に解決する。ある意味で不死が実現するんだから子孫は必要ない。服を取り換えるみたいに肉体を更新すればいいだけ。

これは人間だけが成し得る、生命の(くびき)からの解放だ。


とにかく、お金さえあれば資金が尽きるまで何度でも人生を楽しめるし、成し遂げられなかったことにも再チャレンジできる。政治や経済、法律といったあらゆる面で、社会は根本的に変化するんじゃないかな。


恋愛だって、1度目の人生で不幸な結末に終わったとしても2度目以降にやり直しができる。もちろん、両者の合意が大前提だ。合意事項は事前にきっちり決めておかないとトラブルの原因になる。

ただし困るのは、フラれたのを転生してリベンジしようとする輩だろうな。「転生ストーカー」ってやつ。予防措置をしっかり講じないと大量発生しそうだ。


そんなこと言ってる僕からして、ご存じの通りストーカーだ。ストーカーになる心理ってややこしいものがあるんだよ。


ありがちなストーカーの心理を教えてあげようか。


嫌がられれば嫌がられるほどムキになって追い回すのは、自分の中がまったくのカラッポだからなんだよ。全存在を否定された自分の中には、ポッカリと「(うつ)ろ」ができてて、その虚ろが、ストーカーにとっては半端じゃない苦痛の(快楽の?)発生源になっている。


この厄介な虚ろは、自分につれなくする被害者に出会う前からあったのか?

場合によりけりだろうけど、たいていは出会いがきっかけで生じるんじゃないかな。重症になってくると健全だった時の自分を全否定することも辞さない。

ストーカーにすれば、追い回している被害者だけがこの虚ろを埋められる存在なわけだ。

頭に血が上った彼や彼女は、被害者に対して「愛してほしい」なんて言ってるんじゃない。言葉にするのは難しいけど、「せめて人間扱いしてくれ」っていう気持ちなのかな。まあ無理な相談だね。


普通の恋愛感情には程遠いし、末期状態になると被害者が好きなのか憎いのか怖いのかよく分からなくなってたりする。


要するにゾンビだ。「恋愛ゾンビ」とでも名付けようか。

あと要注意なのは、ストーカーの習性として、少しでも優しくすれば必ずそれ以上の物を欲しがる。だから 絶 対 に 気を許したり「ご褒美」を与えたりしてはいけない。少しの潤いが一層激しい渇きにつながるから、被害者は彼らの目が覚めるまで徹底的に突き放すしかない。

「お前はどうなんだ」って? 僕は……僕の愛は、そんなエゴイズムとは無縁……のつもりなんだけど。


何しろ僕の対象は文字通りの女神だ。座光寺君にとって元々は卑しい(はしため)だったとしても僕には至高の存在。……でもやっぱり、その彼女にこの身を滅ぼしてもらいたいなんて望んでることからして普通にストーカーだな。


……いや、むしろ女神だからこそ始末に負えないんだ! 欠点を併せ持つただの人間ならいずれ熱も冷めるけど、女神相手じゃ逃げ道がない。


不滅の女神である以上、僕の執着も不滅。当然だ。

なんだかんだ言って、やっぱり埋め合わせをしてもらいたいんだよ。


「甘えんじゃねえ」って? いやむしろそう言ってほしい! ミリヤに踏みつけにされて存分に罵られたい!

だけどミリヤは今、この世界にいない。座光寺君の右手の小指に残された、婚姻の約定印が唯一の彼女の痕跡だ。肉体と霊が滅びても契約は不滅。それが世界の掟。

その約定印を身体に持っていることを思えば、あの座光寺君が彼女の輝きを帯びて眩しい存在に見えてくる。


だから僕は座光寺君にさえ欲情しかねない。これがストーカーの心理ってやつだ。気持ち悪いだろう?

もし彼が小指の第二関節に口づけすることを許してくれるなら、僕はその場で殺されたって構わない。いやむしろ殺されたい。そんなことを彼にお願いする権利が1ミリもないのは分かっているから、辛うじて自分を抑えてはいるんだけど。
でもいつ自制心のタガが外れて、彼のところへすっ飛んでいって土下座するか分かったもんじゃないよ。
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