第4夜

文字数 1,487文字

彼とて何も分かってないんじゃなくて、自分たちの利害に関わることは無意識のうちに気付いていると思う。

確かに過去千数百年間、滅霊師は使われ続けてきた。やはり政府御用達って最強だ。でもこの先ずっとそれが続くとは限らない。


クライアントあっての殺し屋である以上、依頼が途絶えれば彼らだって廃業せざるを得ない。

さて。


前々回、住民票の除票の保存期間が5年から150年に延長された話をしたよね。制度改正の理由は、おおよそこういうことが言われている。


時代に合った住民票制度に:日本経済新聞、2018年9月6日


要は所有者不明の土地が増えて書類上の追跡が難しくなっているという、主に相続関係の事務処理上の理由だね。これ以外にも10年以上取引がない「休眠預金」を吸い上げるための都合なんかもあるけど、とにかく住民基本台帳法が改正されて2019年6月に施行された。

でも、この「150年」の根拠はいったい何なのか?

住基法改正の少し前、「除籍謄本」の保存期間が80年から150年に延長されている。戸籍の構成員が死亡や結婚で全員抜けた場合、その戸籍を抹消して「除籍謄本」というのを作るわけだけど、2010年の戸籍法改正で、最後の構成員の死亡の翌年から80年だった保存期間が150年に延長された(戸籍法施行規則第5条4項)。これと整合させるために150年にしたといえば、その限りでは説明がつく。


でもやはり「なぜ150年?」という疑問は残る。

ではここで、改正住基法の施行から150年前に遡ってみよう。


2019年の150年前は1869年、つまり明治2年だ。徳川幕府が政権を返上した大政奉還の2年後。日本が近代国家として出発したばかりの時期ということになる。

つまり150年という期間は、日本が近代国家として出発してから現在までの期間に重なる。で、この150年はどういう時代だったか。


結論から言うと、日本という国の骨組みはさほど変わることはなかった。第2次大戦の敗戦で大日本帝国は崩壊して民主主義国家の体裁にはなったけど、行政組織の根幹は維持された。

この実績を踏まえれば、今後の150年間もたぶん国家の骨組みは継続する。霞が関の官僚さんたちも、少なくとも150年は自分たちの後輩がこの国の舵取りをするだろうとの予測を立て、後の仕事の都合を考えて期間設定をした……と、まあちょっと穿ちすぎかもしれないけど。
とにかく、公的な記録が災害や戦争、あるいは不慮の事故で消えてしまわない限り、ある人物の存在した証拠は死後150年残る。子孫が途絶えて一つの家族が消滅しても、150年という保証期間は設定されたということだ。


ちなみに日本人はほとんどが仏教徒だから言っておくと、お寺の過去帳は宗教に付随するいわば「付帯サービス」であって、万人に与えられてるわけじゃない。

そこで一つ考えてほしい。1869年の時点でどんな150年後を想像できたと思う?

人間が宇宙を旅したり、道を歩きながら地球の裏側にいる人と怒鳴り合ったり愛の言葉を交わしたりとか考えられたと思う? 19世紀半ばから見た僕らって完全にSF世界の住人だよね? 150年の間にそれだけの変化があったってことなんだ。1869年の時点で誰がこんな世界を想像できただろう?

同じことは現在にも言える。誰も150年後の世界なんて想像もつかない。その一方で、行政組織は150年間大きく変わらなかったわけだ。

ここから先は次回。
やっぱり最後はキメていきたいよね。


いっちょうやったろうか。


せーの!

_人人人人人人人人人人人人人_

> これからがうんこだから <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

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