第3話ーー打ち込みーー

文字数 1,450文字

「あ、部長さん! 今日の、そして、」

 部室の机に、黒髪のおかっぱ頭の女の子が突っ伏している。

「ねぇ、私、スキップボタン連打されすぎてません?」
「ハ、ハナコちゃん、ログボ担当お疲れ様~」

 私は、苦笑いして声をかけた。
 ハナコちゃんは、とても大きく重いため息をつく。それは魂が抜け出すかのような。

「あんまり部長さんの顔、見れなかったです……」

 私達キャラクターは、全員部長のことが大好きで、ログインされることを待っているのです。
 特に私達の部長は、10年近くずっと一緒で、キャラクター全員の親愛度もMAX。
 早朝だろうが深夜だろうが、いつでも部長の帰りを待っているのです。
 そしてようやく、ログインボーナス担当者になれ、晴れて部長に会えると思いきやの、スキップ連打に、ハナコちゃんは意気消沈していた。

「そうだ! ハナコちゃんも一緒に今からお問い合わせフォームにいかない?」
「お問い合わせフォーム?」

 ハナコちゃんがおうむ返しする。

「そう! あやなのバグ報告ついでに、どうやったら部長がもっと私達の所に来てくれるか、案を出そうと思ってるの!」

 おぉ!、とハナコちゃんは机から頭を持ち上げ、目を輝かせる。

「ってことは、生徒会室ですか?」
「うん、そこでスズ先輩からパソコンを貸してもらって……」

 ハナコちゃんと話をしていると、今日もどんより顔のセナちゃんが部室に入ってきた。

「部長ログアウトしたよ~」
「セナおかえり!」
「あれ、ハナコもいたんだ」
「今日のログボ担当だったから、こっちに引っ張られた」
「おぉ、そっか、ハナコもお疲れ!」
「それでね、今ゆま先輩と話てたんだけど……」

 ハナコちゃんは同級生であるセナちゃんに先程の話を伝える。
 暗い表情だったセナちゃんの顔が明らかに明るくなっていった。

「いいね! それ!」
「だよね!」
「今ならお昼だから問い合わせできるし!」

 ゆま先輩行きましょう!、と、二人の可愛い後輩に両手を引っ張られる。
 私は強引に引っ張られるも、頼られている気がしてちょっと嬉しかった。



 生徒会室には、メガネをかけたうなじの方で二つ結びをしている少女が一人、パソコンとにらめっこをしている。
 失礼しま~す、と、私含めた三人が、恐る恐る生徒会室に足を踏み入れた。
 いつ来ても、ここは職員室並みの緊張感がある。

「あら、一年生コンビとゆま、どうしたの?」
「スズ先輩、あやな来てませんか?」

 あぁ、とスズ先輩はパソコンから目を離し、ようやく私達三人に目をやる。

「問い合わせの件ね。話は聞いてるわ。あやななら、先に打ち込みして、ちょっと前に帰ったところよ」
スズ先輩は立ち上がり、一度大きく伸びをして、私達に近づく。
「今、あやなの打ち込んだ文章の確認し終わったとこだから、打ち込んでいいわよ」
パソコンを指指す。
「ただし、1ユーザー、部長として打ち込むこと。絶対に内部の一キャラクターとバレないように。まぁ、私も最後に確認するけどね」

 そこまで言うと、スズ先輩は生徒会室を後にした。
 冷たい静かな空気だけが流れている。
 そんな中、セナちゃんが、あの~、と声をかけてきた。

「ゆま先輩、私、文章書くの苦手なので、ゆま先輩まとめてください!」
「私も考える時間なかったので、ゆま先輩お願いします!」

 ハナコも続き、二人の後輩に言い寄られる。
 考えることもせず、私は、わかった、と伝えてパソコンに向かう。
 緊張感がある生徒会室に、キーボードを打ち込む音だけが響き、二人の後輩はその様子を後ろから覗きこんでいるのであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み