5、夜の果て-4

文字数 1,691文字

「早く早く」
 良平が手足をバタバタさせて貴広を呼ぶ。
「分かったから。ちょっとこれだけ片付けちゃうから。も少し待ってろ」
「えー」
 良平は不満そうに唇を尖らせていたが、貴広がリビングの灯りを消して入っていくと、途端に笑顔になる。
 貴広がベッドの端に腰かけると、その首に抱きついてきた。
「俺、俺のこと好きなひととすんの、初めてー」
 明るい声。良平のこんな声を聴くのは、貴広にとっても初めてかもしれない。
 貴広はことさらにムスッとした。照れ隠し、だ。
「お前ホント、ひどいヤツだな。お前のこと、俺、ずっと大事にしてきたのに」
「まあまあ」
「俺の純情、なんだと思ってんの」
 ブツブツと文句を言いながら、貴広は良平の身体に腕を回した。良平は弾むようにその身体を押しつけてくる。
 貴広は良平の背に指を這わせた。良平の背骨がキュッと反る。この反応が可愛くて。
「好きだよ」
 その耳に甘く吹きこむと、良平の身体がピクリと跳ねる。咽から甘い吐息を漏らして。
 貴広の貸してやったパジャマは良平の身体には大きすぎて、いつものことながら襟から鎖骨が広く出る。
「貴広さん……」
 良平はわずかに顎を上げ、貴広を求めた。求めに応じ、貴広は甘い、甘いキスをくれる。
「んん……」
 シャワーで上がった体温がさらに熱を増す。唇が離れると、良平はベッドの上にくずおれた。パジャマの裾が大きく捲れる。ベッドサイドランプのオレンジの光。鈍い灯りに照らされ、良平の腹も仄暗く光る。
 その光に引き寄せられ、貴広は深い窪みに唇を当てた。くすぐったさに良平は嬉しそうにクスクス笑う。笑っている余裕など吹き飛ばしてやろうと、貴広は窪みに舌を差し入れた。良平は「あ……っ」と叫んで小さく震えた。薄い夏物のパジャマの下に、若い欲望が駆動する。
 貴広は良平の肌を大切に、大切に愛していく。ガラスの燭台を磨く執事のように、周到に。細かな細工を撫でさすり、磨きぬいていくと、良平の声の質が変わる。抑えようと咽を締めた低い声ではなくなって。
「貴広さぁん」
 良平はもうその声をこらえられない。
 汗に湿った着衣を丁寧に肌から外してやる。
「なに……見てるの」
 白いシーツの上に、ポウッとオレンジに輝く裸身。こんなに、キレイな身体だったろうか。
「キレイだ……」
 思わず貴広が呟くと、良平は恥ずかしそうにその細い脚をすり合わせた。
「何、言ってんだよ。もう何度も見てるだろ」
 重ね合わせたその足首をとらえ、貴広は足の甲に口づける。
「うん……何度も見てるのにな」
 貴広の唇の感触にまた良平がピクリと震え、貴広はその瞬間を逃さない。
「あ」
 良平は素直にされるままになっていた。貴広に身体を優しく開かれ、与えられる感覚に酔っていた。これで幾度目の感触か。言うほど経験のなかった良平も、少しずつそのときの自分の反応を知りつつあった。与えられ、揺さぶられる感覚を。
 恥ずかしいのに、こらえられない。あんあんと漏らし続ける甘い叫びに、その羞恥と快楽が溢れていた。
「可愛い……良……もっと欲しくなるようにしてやる……良……」
 貴広に追い詰められ、ついに良平は嘆願した。
「貴広さんをちょうだい」
「おねがい」と良平は涙をこぼした。
 貴広はその欲望を良平の中へ進めた。
「んん」
 愛しい、愛しい熱さだった。貴広は自分の欲望を制御した。ゆっくり、ゆっくり良平を愛してやる。ゆるゆると貴広が動くたび、良平は甘い叫びで感動を伝えてくる。
「あ……あ……あぁ」
 良平の反応が深度を増した。身体の奥が貴広をとらえキュキュときつく収縮する。されるがままだった良平の腰が、それを欲しがって揺れる。貴広は良平が欲しがるだけ与えた。
 良平は貴広に許しを乞うた。貴広は優しく許してやる。良平の身体がひときわ激しく収縮し、収縮し。
 耳に残る甘い叫びを貴広が反芻していると。
 良平は弛緩した身体をまたキュッと縮めた。
「たかひろさん」
「ん……?」
 貴広は良平の頬に唇を押し当てた。
「まだでしょ? いいよ。俺、平気だから」
 良平は潤んだ瞳のまま笑い、腕を貴広の首に絡ませた。そうして、貴広の耳にささやく。
「つづき、して」
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