第6話 居候

文字数 4,552文字

 早めにメッセをで出て、近くのファミレスにでも寄ろうかと思ったのだが、この二人、今着ている衣装しか持っていないとの事だ。それでなくても非常識なレイヤーたちがコスプレ会場の周辺を騒がせて迷惑をかける事例が頻発していて、ベテランレイヤーとしてはそんな恰好でファミレスに連れて行くわけにもいかず、後日、改めて会おうと言った。
 しかし、この二人、行く所もないという。やれやれ、厄介なのに関わっちゃったかなとも思ったが、彼女達のコスは自分が今まで見てきた中でも有数のすごいものだ。
 そう思うと、もっと彼女達のことが知りたくなって、カスミは仕方なく? 二人を自分の家に招き入れた。それに、非常識な初心者レイヤーは、ちゃんと教育しないとね。

 途中、電車の中では二人は当然目立ちまくっていて、恥ずかしい事この上なかったが、りんたろーもいっしょに付いていてくれたので、ちょっとは気が楽だった。
 りんたろーは三つ下のご近所さんで、小学生のころから弟みたいに付きあっている。
 次の春で、カスミは大学二年生だが、りんたろーは今度高校二年生だ。

「うわー。眺めがいいですね」セシルがベランダ越しに外を見ながら言う。
「そう? 六階くらい、今時珍しくもないでしょ。でも、まあゆっくりしていいわよ。私、ここで一人暮らしだから。親は転勤しちゃったんだけど、ここ、学校近いしね」

 カスミがりんたろーと二人にお茶をいれてくれた。綺麗な黄緑色ではあったが、ちょっと苦くてセシルは顔をしかめてしまった。
「あれ、濃かった? 安いお茶なんで葉っぱたくさん入れないと出ないんだけどねー」
 そう言いながら、カスミが、なにやら丸くて平べったい木の板の様な物も出してきた。
 食べてみると、セシルにはちょっと固くてしょっぱすぎる様な気がしたが、ブレタムは気にいったようだった。

「さーて、そんじゃ一息ついた所で、事情を説明してもらおうかしら。お二人さん」
 そう言ってカスミが床にべたっと座った。
 ああ、そういえばよし子さんが言ってたっけ。この国では、靴を脱いで家に入り、そのまま床に座るって。カスミと同じように床に座り、セシルは、いままでのいきさつをいっさいごまかさず、そのままカスミとりんたろーに告げた。

 すると、りんたろーがみるみる怒ってきている様に見え、とうとう爆発した。
「君たち、いい加減にしなよ。人が親身になって事情を聴いてやってるのに! 設定ばかりで君たちの本心が全く見えないよ。まったく、いくら凄腕レイヤーかもしれないけど、非常識にもほどがあるよ!」

 セシルは困ってしまった。自分は何もウソは言っていない。どうしてりんたろーさんは、こんなに怒ってしまったのだろう。ブレタムも困ったような顔でセシルの顔を見ていたが、やがて声を発した。
「りんたろー殿。すまないが、姫様の言ったことは全て本当のことなんだ。ほら、これを見てくれ。この緑のペンダント。これを二つに折ると私は元の世界に召喚されてしまうんだ。だから、まだここで実演するわけにはいかないのだが……信じていただけないだろうか?」
「ほんと、もういいかげんに……」

「まて、りんたろー」怒りに切れかかったりんたろーをカスミが制した。
「なあ、あんた。ブレタムだっけ……ちょっと、触ってもいいかい?」
「はい? ああ、耳を調べたいのか? どうぞ、これ本物だから……」
 カスミは、ブレタムの耳を撫で、引っ張ったり、耳の穴の奥まで覗き込んだりした。
 その度に、ブレタムが、あんっとか、うふんっとか、艶っぽい声を発する。

「どうだい、カス姉?」りんたろーがカスミに尋ねた。
「どうもこうもあるか。お前も見せてもらいな! ブレタム、いいよね?」
 ブレタムの了解を貰って、りんたろーも彼女の耳をいじくりまわした。
 ああんっ、うふうんっ、さっきより喘ぎ声が大きいような気がする。りんたろーのいじり方がうまいのだろうか。

「ちょっと、カス姉。これ、耳の穴が絶対頭蓋骨、突き破ってるよね……」
「ああ、信じがたいけどね。姫さん。あんたの耳もいいかい? それとブレタム。しっぽも確認していいかね? ああ、さすがにりんたろーは外させるから安心して」
 そうして、セシルは耳をさんざん揉まれ引っ張られ、ブレタムはお尻を出して、しっぽの付け根もカスミに確認して貰った。
 
 カスミとりんたろーが別室で相談を始めた。
「やれやれ、まさか本当にこんなことが起きるとは……。
 あの子達、転移したのがあそこでよかったね。これが津田沼駅前とかだったら、あの子達今頃、病院か警察行きだったよ……。それにしてもやっぱ、まだ信じらんない……」
「僕もだよ、カス姉。これどうしよ?」
「どうしよって……百十番でもする? 異世界から転生してきたエルフがいますって?」
「いやいや、さすがにそれは相手にされないよね……いっそマスコミにリークするとか」
「あほ。そんなことしたって誰も得しないじゃん。あの子たち、いつでも自分の世界に帰れるんだよ。下手に梯子登ったら降りられないのは私達だけじゃん……。
 というか、こんな面白い事、のっからない手はなくないかい?」
「のっかるって、何にさ?」

「勇者探し!」

 カスミがいたずらっぽい笑顔でそう言った。

 ◇◇◇

「ということで、四人の出会いに、カンパーイ」
 カスミが音頭をとって、四人はグラスを上に掲げた。とはいえ全員未成年? なので中身はジュースだ。

「それであんた達。この家の一部屋貸してあげるから、当面そこを活動拠点にしなよ。
 その勇者探しっての、面白そうだし、私もりんたろーも手伝うよ」
「有難うございます。信用していただけれたのが何よりうれしいです……。
 それで、お礼の件なんですが……」
「ん? お礼? いい、いい、気にしなくていい。あんたらどうせこっちのお金とか持ってないんでしょ? あー、もしかしてすんごい宝石持ってきたとか?」
 カスミが茶化したようにセシルに言った。

「あ、すいません。今回の転移は自分のお小遣いが予算範囲なもので……こんなものくらいしか……」そう言ってセシルは、一辺十五cm位の銀色の立方体の金属を取り出した。
「おお! もしかして……銀とかプラチナ?」カスミが驚きの声を上げたが、りんたろーが冷静に分析した。

「いやいやカス姉。これが銀やプラチナだったら姫様こんなに軽々とは持てないよ……。
 ははは、これアルミだね」
「はー、そっかー」カスミもちょっとがっかりしている。
「あ、あの。これでは足りませんか? これ私の国ではすごく貴重な金属で……金銀よりも高値で取引されているのですが……」
 この世界では、物価がものすごく高いのかしら……。
 セシルは急に不安になってきた。

「ううん。大丈夫だよ。ありがと姫様……でも、もう少し落ち着いたら、こっちに慣れる意味も含めて、少し働いてもらったほうがいいかもね。さすがの私も二人分の完全パラサイトはきつい……」
 この部屋は両親名義なので家賃はいらないし、学校の学費も出してもらっている。 
 だがカスミは、生活費は自分でバイトしながらやりくりしているのだ。
「はは、カス姉。僕も出来ることは協力するから……でも、すごいな。アルミが金銀より貴重な国か。一円玉が数千円で売れたりして……姫様たちが帰国する時のお土産は決まったね」りんたろーもうれしそうでよかったとセシルは思った。

「それじゃ、そろそろパーティーはお開きね。私、バイト行かないといけないから。
 りんたろー、二人の面倒、寝付くまで見てやってね。ああ、寝間着とか私のやつ適当に出しちゃっていいから……」
「えー、カス姉。さすがにカス姉のタンスは開けられないよー。
 せめて着替えは出していって! 後は何とかするから……」
「はは、年頃だねー。つい最近まで、いっしょにお風呂入ってたのになー」
 そう言いながら、カスミは二人分の寝間着を出してきて、バイトに行ってしまった。

「カスミさんはどちらへ?」セシルが尋ねる。
「ああ、バイト……仕事言ったんだ。帰ってくるの結構遅いから、君たちは先に寝ちゃっていいよ。使っていいって言ってた部屋に布団敷いておくから、お風呂入って寝間着に着替えちゃって。洗濯物は、さすがに僕は触らないから、これ……この機械の中に放り込んでおいて。多分、カス姉が帰ってきてから、自分のといっしょに洗ってくれるから……」
「りんたろーさん。何から何まで、本当にありがとうございます。それで、あなたも今日はここに泊まっていかれるのですか?」
「いやいや、僕んち、直ぐ近所だから……君たちの支度が済んだら帰ります……」
「そうですか……それじゃ、なるべく早く支度を済ませますね」
 そう言って、姫様とブレタムは、浴室に入っていった。

 いやー、最初はどんな奴かと思ったけど……姫様、いい人だし、かわいいなー。
 ブレタムさんもすっごくかっこいいし、宝塚ファンとかにウケそう……。
 それにしても、勇者探しか……手掛かりは、名前と召喚された時にいた場所……オタクなのかな? せめて召喚された日が分かれば、どんなイベントやってたか分かりそうだが……そんなことを考えながらTVを見ていたら、風呂場から突然悲鳴が聞こえた。

「ええ? どうしたんですかー!」あわてて近寄ると中から叫び声が聞こえる。
「あつ、あつ、あつ、あっちー、あっちちー!」
 もしかして、熱湯が止まんないのか? それはまずい……姫様たちがやけどしちゃう。
りんたろーは意を決して風呂場に飛び込んだ。

「失礼しまーす!」
 おお、目の前に、生まれたまんまの姫様とブレタムさんが……姫様……おお、まさにエルフ体形。するーんぺたーんだ。それに引き換えブレタムさんは、すごく引き締まった体つきだが、胸もお尻もかなりデカイ……いやいや、今それどころじゃないでしょ。
 りんたろーは急いでシャワーを止めた。見ると温度指示が六十度位まで回っている。

「あの……大丈夫ですか? もしやけどしたようなら、直ぐに冷やしたほうが……」
「ああ、すまん。よくわからず動かしてしまった。かなり熱かったがやけどするほどではないようだ」ブレタムさんが、そう言いながら、バスタブのへりに座り、両膝をガバっと開いて、太腿のお湯が掛かったあたりを確認している……。
 あ、あの……あそこが丸見えです…………結構毛深いかも……。

「それじゃ、僕は失礼しますね」
 りんたろーが顔を真っ赤にしながら風呂場を出ようとした時、姫様に呼び止められた。
「りんたろーさん。驚かせてすいません。こちらの事は判らない事だらけで……。
 またご迷惑をおかけするかも知れませんが、どうか助けて下さいね」
「そ、それはもちろん!」
 振り返って姫様をみたりんたろーは、姫様のあそこに目が釘付けになった……。

 あ、あ、かわいい筋が一本……。
 鼻血を噴出す寸前なのを必死にこらえつつ、りんたろーは居間に戻った。

(うわー、なにこのラブコメ展開!?)

 正直なところ、女性のあそこなど、カス姉のやつは、つい最近まで見ていたような気もする。しかし、それとはまったく別の趣きが……。
 ちょっと固くなってしまった自分のあそこを意識しつつ、家に帰るまでは我慢と、気合をいれるりんたろーであった。

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