空白のページ

文字数 1,048文字

「まあ、いいじゃないか」と、そのルシアンは言う。「同姓同名のよしみで」

「いやいや」と、言い返したのはもちろん私だ。「彼の名前は皐月原(さつきはら)(けい)、私はケイ・メイフィールド。それに、別人! そもそも私は女!」

「でも、作者(おとーさん)が自分自身を投影した結果がケイさんなんじゃ、なかったっけ?」

 と、横から援護射撃をしてきたのは悠吾(ゆうご)だった。彼はその日たまたま私の部屋を訪ね、私がこっそり集めていたトッテオキのコーヒー豆を目ざとく見つけて「ちょうだい」「だめだ」「ケチ!」「ばかもの!」……の、まったくもって実りないやり取りを繰り返していたところだったのだ。
 だから当然、援護射撃と言っても悠吾が味方をしたのはルシアンの方で、双方から攻め込まれることになった私は半ば敗戦を自覚しながらも最後の抵抗を試みたというわけだ。

「そもそも私に、何をやれって?」

 言いつつも、作者(ちち)の相手なら「死んでもやだね!」と返してやるつもりだった。しかしルシアンは「じゃあ、死ね」くらいのことを平然と言う男なので、これもまた最終的に折れるのは私ということになる、ともわかってはいた。

 バジリオに言わせれば「望んで、望まぬ形になったことはねえからよ」なルシアン(もちろん「王になるのは望んでなかった」と、本人の反発必至ではある)の強引さは折り紙付きだ。そんなわけで、

「ここに来る前に作者(あいつ)と話をしてきたが……」

から始まった一連のカクカクシカジカについて語るのは長くなるのと重複になりそうなので割愛するとしても、要するに、ルシアンの要望を受け入れた結果がこれなのだ。

 賢明な読者諸氏はもうお判りであろう!

 ここは『不思議の森の願い池』の跡地。
 かつては物語が綴られ、今では空白になってしまったページを埋め直す作業をしている、私が。

「綴るのは得意だもんね?」
 と、悠吾が台湾カステラを食べながら笑った。……って、待て!
「そのカステラ、どこで見つけてきた?」
「へ? 冷蔵庫に入ってたよ?」
「……奥の方に隠してあった、はずなのだが?」
「甘いなケイさん。甘いのはカステラだけで充分なのに」

 にやにやと笑う悠吾を見ながら、私はむっと口を引き結んだ。だがすぐに思い直した。

「そうだな、記念すべき1回目は君でいこうか」

 言うと悠吾が目を丸くする。小さく「げ!」とも言ったようだ。ざまあみろ。

「だから君はこのまま居残りだぞ」

 私はしたり顔で悠吾にトドメを刺した。悠吾は降参したようにバンザイをした。
 さて、ここから先は肝心かなめの作者(ちち)の登場を待って、続けることにしよう。
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登場人物紹介

キツネ

 「神様の森」から逃げてきたひとりぼっちのキツネ。人の言葉を話し、化けることができる。

 ユウゴくんの話を聞いて、再び「神様の森」に戻ることを決意するが・・・。


(登場作品)

不思議の森の願い池

眠りの冬の雪時間

ユウゴ

 「神様の森」に近い里山に暮らす小学生。

 おばあさんとふたり暮らし。

 いつもひとりぼっちでいるのだけど、どうやらそれには理由がある様子。


(登場作品)

不思議の森の願い池

おかしな神社の不思議な巫女たち

アオモズ

 「神様の森」で暮らす、青色のモズ。

 七色の美声を持ち、歌うこと、からかうことが好き。

 人間の「言葉」を話すことができる。


(登場作品)

不思議の森の願い池

眠りの冬の雪時間

アカリス

 「神様の森」で暮らす、赤毛のリス。

 悪戯が好き。でもたまに、その悪戯が過ぎるあまり・・・。

 人間の「言葉」を話すことができる。


(登場作品)

不思議の森の願い池

眠りの冬の雪時間

シロヘビ

 「神様の森」で暮らす、巨大な白蛇。

 怠け者だが、森で一番の知恵者。

 人間の「言葉」を話すことができる。


(登場作品)

不思議の森の願い池

眠りの冬の雪時間

キグマ

 「神様の森」で暮らす、黄色い毛並みの熊。

 体の大きさとは反対の小心者。水が怖い。

 人間の「言葉」を話すことができる。


(登場作品)

不思議の森の願い池

眠りの冬の雪時間

「言葉」の目覚め

クロダヌキ

 「神様の森」で暮らす、真っ黒なクロダヌキ。

 口は悪いが、悪いやつじゃない。森の仲間のリーダー的存在。

 人間の「言葉」を話すことができる。


(登場作品)

不思議の森の願い池

眠りの冬の雪時間

「言葉」の目覚め

おばあさん

 ユウゴくんのおばあさん。

 どうやら、「神様の森」のことを色々と知っているらしい。


(登場作品)

不思議の森の願い池

キジカ

 「神様の森」で暮らす、黄金の毛並みを持つシカ。クロダヌキの前に森のリーダー格を務めていた。


(登場作品)

「言葉」の目覚め

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