第8話 【書評】神の国の種を蒔こう(2023.8.8記)

文字数 5,972文字

【真理は平凡の内にある~ヴォーリズ語録】

1.書名・著者名等

W.M.ヴォ―リス (著), 木村 晟 (監修)
『神の国の種を蒔こう(副題)キリスト教メッセージ集』
出版社 ‏ : ‎ 新教出版社
発売日 ‏ : ‎ 2014/4/25
単行本 ‏ : ‎ 336ページ

2.兎平亀作の意見です

読みやすい文章である事に感心した。
私は念仏。つまり異教徒なんだが、「キリスト教の人が書いた本だから」と、ことさらに構える必要はなかった。ふつうに「ためになる」文章なのだ。
この感じ、何かに似ている。そうだ、雑誌『PHP』だ!

こりゃ「読んで、理解して、オワリ」と言う本じゃないな。手元に置いて、気が向いた時にパラパラと読む本だと思う。
なぜ、そうする?なぜ、そうしたい?

楽しいから。本書は楽しみのために読む本だと思う。
マンガやアニメばかりじゃない。「ためになる話」も、時にはエンターテイメントたりうるのだ。雑誌『PHP』みたいに。

それでは、面白くてタメになるヴォーリズ語録の数々を、私流にアレンジして、ご披露します。(宗教色の濃すぎるものは避けました。)

【言い訳するな】
「どうも致し方ありません」と、自分に言い訳するのはやめよう。困った時は「解決方法はある」と、口に出してみよう。(本書、34ページ)

【ヴォーリズさんはお酒も煙草も嗜みません】
酔っ払いは自分自身にさえ尊敬を払っていない。(本書、61ページ)

【お祈りは自己分析の手段にもなる】
お祈りしてもピンと来ない事がある。何かヨソヨソしい感じしかしない事がある。その理由として、下記のような要因が考えられる。

一、何かやましい事があるのに、それから目を背けている場合

二、利己的な動機にばかり目が行き、人への思いやりや公徳心、博愛精神を失いかけている場合

「なんだ、お祈りなんかしたって、何の得も無いじゃないか」と思うようになったら、あなたのメンタルは要警戒水準です。(本書、64-65ページ。225-227ページにも同趣旨の一文あり)

【チャンスはつかめ】
「いつか機会があれば、私も世のため人のために働きたい」と思っているだけでは、その「いつか」は永遠に来ません。「これが、そのチャンス・ボールかな?」と思ったら、トットと「初球打ち」してしまいましょう。善行もまた、先手必勝です。(本書、65ページ)

【ヴォーリズさんは、やり手の建築家でもありました】
ビジネスと宗教活動の両立は簡単ではなかった。「もっとビジネスを重視して、足元を固めてはどうか」と忠告された事もあった。
もしもその忠告に従っていたら、全てが台無しになっていただろう。「キリスト教を布教したい」と言う初心が失われ、軸足がブレてしまうからだ。「困難に負けずに頑張る」動機が失われてしまうからだ。(本書、67-68ページ)

【成功の三カ条!】
大正時代、飛行機は未だ極めて危険な乗り物だった。そんな大正4年(1915)12月、アメリカの曲芸飛行家、チャールス・F・ナイルスが来日し、東京・青山練兵場(今の神宮外苑)で5万人を集め、複葉機による日本初の宙返り飛行を披露、やんやの声援を受けた。ナイルスは翌年にも兵庫県西宮の鳴尾競技場で曲乗りを披露した。
ナイルスの成功の秘訣を、ヴォーリズは下記のように分析する。

一、確固とした、大きなビジョンを持つこと。障害よりもビジョンが大きければ、人はどんな障害でも乗り越える事ができる。

二、酒・煙草を控え、健康に注意すること。特に冒険家は「いつ死ぬか分からない」と言う恐怖や絶望から、つい不節制に走ってしまい勝ちである。

三、そして、信仰心を持つこと。信仰は自分自身に対する責任感・使命感を生む。「いつ死んだって構わない」とか「自分の命はどうでもいい」とか考えているようでは、まだまだ青い。「自分の命は、世のため人のために使いなさいと、神様からお預かりしたんだ」と考えるようになって、初めて成功への道が開ける。(本書、69-73ページ)

【人のために良かれと思い】
「善き人間になりたい」とは、誰もが思う。でも、大抵の人は、それを自力でやろうとする。思うがままにやった結果、人からは「ただのわがまま、独りよがり」と見られて失敗する。
正しい道を指し示してくれるのは究極の第三者、つまり神様だけですよ。(本書、88-89ページ)

【 「キリスト教なんか要らない」と言っている人にキリストを売る方法 】
知的好奇心が強く、個人主義的な都市部では、宣教は比較的スムーズに進む。
ところがどっこい、伝統を重んじ、人の絆が強い農村部には、なかなか入り込めない。
この問題に対してヴォーリズが示した処方箋は、まるで「Dランクの見込み客をAランクにアップする営業テクニック」と言った感じである。
全文が面白いが、その一部だけ、以下にチラ見せする。

一、たまに来るだけの巡回宣教師に、誰が本気で入れ込むものか。宣教師が農村部に定住してしまうのがベスト。

二、定住がムリなら「通信伝道」がお勧め。農村部の「見込み信者」は人の目を気にせず、郵送されて来た宗教書で「隠れキリシタン」する事ができる。

三、新聞広告等を見て、問い合わせて来た人間には質問書を返送し、相手の素性やら覚悟のほどやらを根掘り葉掘り聞け。これは冷やかしや詐欺師を排除するのに役立つ。

四、狙い目は、自分の土地を持っている自作農だ。地主に生計の手段を握られている小作農は、周囲からのプレッシャーに、すぐ動揺して脱落する。

五、キリスト教の厳格な戒律は最初から守らせろ。相手の顔色を見て譲歩したりするな。「鉄は熱い内に打て」である。
(本書、105-115ページ)

どうです?

【故人を称える際の決まり文句、アメリカ人バージョン?】
ヴォーリズさんが自分の父親の為に書いた追悼文を読む。下記のフレーズは、どこかで見かけたような気がする。アメリカ人社会での決まり文句なのか?

一、教会の長老(檀家の総代みたいなもの)となり、牧師の給料の12分の1分を寄付していた。

二、財産を作る事よりも、家族の健康と教育、その他家族の為に良き事の為に、常に職業を変えては住居を移していた。

三、「歳を取ったから働かない、もしくは働けない」と言う事態を本当に嫌っていた。

四、子どもが好きで、また、子どもから好かれた。「偉人は子どもと草花が如何に懐くかによって知られる」と言う諺の通りに。

五、厳密な意味での正直者。妥協を嫌い、人に尽くした親切は、ただ自分の心に秘めていた。自分が褒められる事が嫌いだった。
(本書、115-120ページ)

「いいかげんな意味での正直者」って、どんな正直者なんだろう?

【この部屋に友だちはいますか?】
以下は原文そのままの引用です。

(引用、はじめ)

淋しい、友人ができない、と言う人がある。それは、だいたい自分の欠陥を告白していることになる。すなわち、相手の感情を尊重せず、友人としての本当に温かい心を与えていないことを言い表している。つまり愛を与えないで愛のないことに驚くのである。友だち甲斐のある者が親友を作るのであり、親切を尽くした後に友情の真の味をあじわうのである。

友情の真の礎は、友から助けを求めるのではなくて、友のために一肌脱ごうとする力でなければならない。受けようとするのと与えようとするのとでは、全く目的が違う。与える心は、友情に対して適当な代価を支払っているのだ。受けようとする心は、ただで何物かをつかみ取ろうとするやり方である。(本書、124ページ)

(引用、おわり)

ずいぶんキツい事を言うね。時々こうやって(不動明王みたいに)ズバッと斬り捨てちゃうんだよなあ、ヴォーリズさんと言う人は。

【自分の子どもを犯罪者にしないために】
前項の続きです。原文そのままの引用です。

(引用、はじめ)

ただで何かをつかみ取るのは不正直である。つまり自然の法則に適っていない。盗賊はただで失敬する。
幼児が親と根比べし、泣き叫んで、ついに欲しいものをつかみ取る。そうして、ただで物をもらうことになる。おもちゃは欲しい。しかし、そのために何か代価を払ってもらう気はない。この悪い習慣がそのまま発達すると、盗賊の青年を作ることになったりする。多くの犯罪者の生涯は、そんなことから始まる。
嬰児の時から、どんな物にもそれ相当の価値があって、ただの物などないことを知るのがよい。絶対に必要な物以外は、自分自身の手足を働かせて報酬として受けるべきであることを知らせた方がよい。(本書、125ページ)

(引用、おわり)

【コスメの王道と邪道】
前項の続きです。原文そのままの引用です。

(引用、はじめ)

女性の化粧も、これに似ている。
美顔を作る真の原因は健康である。その健康の獲得は、合理的な生活を通して睡眠と食物等に特別の代価を支払ってはじめてできることだ。不正直で怠慢な女性は、自制して健康な生活をすることを嫌い、化粧品として安価なペンキ類を皮膚の上にのせている。この不正直さは詐欺であり、自然の法則を破るばかりでなく、ただで何かを得ようとする愚かさから来るのである。(本書、125ページ)

(引用、おわり)

「フィットネスあってのコスメ」と言うのは正論ではありますが、何も、こんな言い方しなくても。

さて、この一文のシメは「愛はプライスレスなんじゃないのか?」
これに対するヴォーリズ大先生のお答えと言うのが、「確かに、愛はお金じゃ買えませんが、信仰のない人には愛もありません」ですとさ。

【 驚き桃の木「キリスト教会とその経済」 】
以下は原文そのままの引用です。

(引用、はじめ)

教会にとって第一に必要なことは、現代の経済組織が未だ反キリスト教的であることを明瞭に認識することです。反キリスト教的というのは、現代の社会生活の目的と方法が物質を重んじて、人間の人格や精神的なよきものを重んじないからです。私的な利益や搾取が社会全般の幸福よりも先に考えられています。だから、無宗教ではなく全く反宗教的な傾向を社会が持っているので、これを見逃すことなく、根本的に改良しなければなりません。過去の教会が犯した二つの間違いは、第一に愛国心の仮面のもとに戦争を祝福したことであり、第二に教会の寄付者の多くが資本家であるために、反キリスト教的な経済組織や個人行動を黙認し、あまつさえおだてあげたことです。
(中略)
教会が安全第一に高枕の夢を結び、現代世界の差し迫った要求に耳を傾けない間に、他の宗教以外の力で経済問題の解決を図ろうとするのが現代です。これは実に危険です。教会は目を醒ますか、あるいは教会がなくなるか、二つに―つの決断をする時が来たのです。(本書、126-129ページ)

(引用、おわり)

「どうしちゃったの?ヴォーリズさん」と、一瞬思ったが、この一文が広報誌『湖畔の声』に掲載された「1931年(昭和6年)12月」と言う日付を見て納得した。
あのヴォーリズさんですら、こういう事を筆にせざるを得ない時代状況だったのだ。

年表風に列記すると、以下のような物騒な話になる。ここに「1931年(昭和6年)12月」を、はめ込んでみてほしい。

・1929年(昭和4年)10月24日、アメリカ・ニューヨークで株価が大暴落。いわゆる「暗黒の木曜日」。これを切っ掛けに世界恐慌が発生。日本も昭和恐慌に突入し、特に農村部が壊滅的な打撃を受けた。以降、農民および労働者による争議が多発。

・1931年(昭和6年)8月26日、濱口雄幸首相、右翼テロによる負傷が元で病死。

・1931年(昭和6年)9月18日、満洲事変勃発。真相は関東軍の謀略による満州侵略。傀儡国家「満州国」を中国から一方的に独立させ、日本が国際的に孤立する原因を作った。

・1932年(昭和7年)3月5日、三井財閥の総帥で男爵・團 琢磨、右翼テロにより射殺。

・1932年(昭和7年)5月15日、五・一五事件。陸海軍の青年将校たちが犬養毅首相を暗殺。世論は犯人たちに同情的で、減刑嘆願運動まで起こった。

・1933年(昭和8年)2月24日、満州問題を巡る対日非難を不服として、日本は国際連盟から脱退。日本の外交的孤立が深刻化。

・1935年(昭和10年)6月1日、同志社大学で「神棚事件」発生。これを契機に軍による思想統制および大学自治への介入が始まり、1937年12月に湯浅八郎総長が引責辞任。
この間、同志社・評議員だったヴォーリズは事態収拾に動くも失敗。国家神道の圧力により、キリスト教の信教の自由は有名無実化した。

・1936年(昭和11年)2月26日、二・二六事件。陸軍青年将校ら1,483名の下士官・兵によるクーデター未遂事件。既に右翼テロリズムは世間から見離され始めており、焦って決起したが不発に終わった。これ以降、日本の議会制民主主義は機能しなくなる。

・1937年(昭和12年)7月7日、盧溝橋事件勃発。事件そのものは局地的なハプニングに過ぎなかったが、事態収拾に失敗して、日本と中国は全面戦争に突入した。
これで日本は引き返し不能の泥沼に足を踏み入れた。

【ぶっちゃけようよ】
どうして神様は、私たちの祈りを聞き届けて下さらないのか?
神様は、私たちの祈りを耳で聞かず、「目で見る」からだ。
私たちが、口先では「世界人類が平和でありますように」とか祈っていても、ホンネでは「自分さえ良ければいい」と思っている。そこら辺を、ちゃあんと見ているのだ。
だから、祈る時ぐらい正直になろうよ。ありのままの自分、しょうもない自分を直視しようよ。
「世のため人のため」に祈るのは良い。その祈りを、自分の日常生活の中で、ちょっとずつでも良いから実践して行こうよ。言葉と行動が一致するよう、できるだけの事はしようよ。(本書、177-178ページ)

【無停止運用のカーナビ?】
神様は、いつも私たちを見ている。いつでも導いてくれる。
だから、神のお導きを素直に受け入れれば、決して道に迷うことはない。
「苦しい時の神頼み」とは、道に迷った時だけカーナビを起動するドライバーのようなもの。
しばしば脱線したり、脇道にそれたり、ようやく正しい道にもどっても、しばらくしたら、また迷ってと、気の休まる時がありませんよね。(本書、233ページ)

【プチ自伝「一粒の信仰」は面白いぞ!】
本書、249-283ページに「一粒の信仰」なるヴォーリズのプチ自伝が掲載されている。
近江八幡に英語教師として赴任した時から、建築家として独立するまでを扱っている。
初出は1929年。ヴォーリズ49歳の意気盛んな時に書かれた文章で、とにかく面白い!
引用し始めるとキリが無くなるので「読んでおいて損はない」とだけ記しておく。

最後に、私から、ひと言。
「信仰を持つ人は強いなあ」と、つくづく思います。

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