文字数 849文字

 部屋の扉は開いていた。部屋の中を覗くと、一人の女が椅子に腰掛けて微笑んでいた。声を詰まらせる。
「ミライ?」
 女が首を横に振り、長い黒髪を触った。女の椅子は前後に揺れていて、部屋の時間を刻んでいた。室内は白壁で、他に何も無かった。その女は煌々と光を発した。眩しかった。手の甲で目を覆った。目を細めながら、女の前に歩み寄った。
「そんなに眩しい?」
 まだはっきりと目の前に座る女の顔を見ることができない。
「ここの光は特別なのよ。太陽の何倍も眩しいはず。この明るさは、この建物の全ての光を集めたものだから」
 首を傾げた。
「建物の中はさぞかし暗いでしょうね、光を奪われて。光というものは、この通り集められるのよ」
 ようやく目を開けた。しかし、まだ瞳に光が突き刺さる。
「光を集めるなんて、できっこない」
「元々、この建物内には光なんて無かったのよ。真っ暗な闇の世界が広がっていただけ。昔は誰もこの世界の外に光があるなんて思いもしなかった。でも、光はどこからか入り込んだ。そのおかげで私たちも光というものを知った」
「光が最初に差し込んだ場所を突き止めれば、外に出ることができるかもしれない」
「だけど、その光も入ったきりで、決して外には出られない。闇の力が、光を強い力で吸い寄せているから。光はこうやって一箇所に吸い寄せられ、行き場を失ったままなの」
「誰も外に出ることができない?」
「正確には、まだ誰も外に出たことがないと言うべきよね。今までに一度も。今では試す者もいないわ。でも、私だけは外の世界に何があるのか知っている」
 舌打ちした。
「私が死ねば、外の世界を知る者はいなくなり、外の世界自体が存在しなくなる」
「あなたの死と、外界の存在とどう関係がある? あなたが死んだとしても、外界はあなたとは関係なく存在し続けるはずだ」
 女は口元に手をあてた。
「あなたが見たり、想像したりすることで、あなたの前に世界が創られる。それ以前はただの闇。仮想現実のようなもの。あなた、宇宙の始まりと終わりを説明することができる?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み