文字数 993文字

「ここはブラックホールのような場所だと言ったわよね。ブラックホールに行って帰って来た者が存在しない以上、あくまで科学的根拠をもとにイマジネーションによって、その大半が作られている。ブラックホールの存在自体は科学的にも証明されているから、その存在自体を疑うことはないでしょうけど、確かめる術も無い。わかるでしょう、ゴーストと一緒よ。仮想と現実の境目。ヴァーチャルリアリティと呼ばれているものよ。あなたの意識のその先はブランク、あなたが意識を伸ばしたその時に初めて地図ができあがるようなもの。無いのよ、本当は、その先なんて」
「嘘だ」
「あなたの世界の内側は白い壁で閉ざされている。そこは内側から大きな万有引力のために空間がひん曲がっている。そして、その境界線に壁ができる。ねじれて、襞のような仕切りができると言った方がわかりやすいかしら?」
 女が苦笑した。
「つまり、薄っぺらな世界に住んでいる人を想像してもらえればよくわかるわ。いわゆる二次元の世界。そこには幅と奥行きはあるが、高さが無い。無限に広がっている平面で、そこに何らかの圧力が加わると、その面が歪んでしまう。キャンディーの包み紙のようにねじれてしまう。一度歪んだ平面は、万有引力やら、その反動やらで、更に歪みを増して、やがて、大きく二つに折れ曲がる。そして壁が出来上がる。その壁によって、その中はまるで風船の内面のように元の平たい面と完全に別の世界になってしまう。このような面の上に住む人々にとっては、外の世界は閉じていて、世界の他の場所に住む人々と意思伝達ができなくなってしまう」
「決して世界線は内面で起こったことが外に洩れ出ることがない。何かのはずみで洩れ出たが最後、その世界は開いた穴から、風船が萎むように、自己収縮の加速度を増して、やがて消滅してしまう。まさに、風船の空気が初めはゆっくり抜けていたのに、収縮するにしたがって勢いよく萎む姿にそっくり」
 赤い風船の中に閉じ込められている自分の姿を思い描いた。それは内側で虫のように這いつくばって、外の世界を見ているものだった。ぼんやりと赤い膜を通して外界が見えるが、はっきりとしない。閉じ込められたハエのように内面のループを歩き回っている。
「僕は、自分の存在を確かめたい。たった一人の世界に行き、僕という存在が本当に消え去るのかどうか確かめてみたい」
 女が苦笑に苦笑を重ねた。
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