第21話
文字数 3,931文字
翌日13時30分。
ブルー★ベルベット第56話。
ーーー閑静な住宅街の一画
ボスとアキオ、そして美しすぎるシングルマザーの幸子と、その息子で高校生の翼は、広い庭に建つ邸宅で暮らしている。彼らはそこに移り住んでまだ間もない。
幸子の夫はすでに亡くなっており、一階のボスと幸子の寝室には小さな仏壇が置かれていた。その部屋はカーペットからベッドカバーまで、ほとんどが深いブルーで統一されており、家の中からはあわただしい物音や何気ない会話が聞こえてきた。
ーーーボスと幸子の寝室
幸子がネイビーブルーの服を選び、着替えている最中に翼が入ってきてお金をねだる。
翼「ねえ、千円ちょうだい」
幸子「翼、お母さんもう時間ないのよ。それに、おとといもお金をあげたでしょう」
翼「あれはあれで使っちゃったよ」
幸子はため息をつき、クロゼットの上にあるハンドバッグに手を伸ばす。
幸子「分かったわ、でも無駄遣いはだめよ」
幸子と翼のやりとりは階段を降りてくるアキオにも聞こえた。
ーーーリビング
アキオ「(翼のことを見ている)」
閉まりきっていない寝室のドアの隙間から中の様子が見える。
制服姿の翼が寝室から出てくる。廊下を歩いてくる足音が聞こえ、アキオのいるリビングを通り越してスリッパの音を響かせて階段を昇って自分の部屋に入っていく。
シンプルなネイビーブルーのコクーンドレスに着替えた幸子がストッキングを履いている姿がドレッサーの鏡に映る。そしてその前に座って、少しねじって束ねた髪の後ろを軽くたく。
アキオ「(幸子をみている)」
鏡の中のアキオが見つめているのに気づいて幸子は立ち上がりドアを閉める。
寝室の先にある暗い廊下やいくつもの空っぽの部屋は、ひっそりと静まりかえっている。
アキオの頭の中で悪意にみたた声がきこえた。ふふ、これから俺はいつでも好きなときに待望の獲物を拝借できるのだ。時間はたっぷりある。アキオの顔に、狼を思わせる笑いが浮かんだ。そして台所のコンロに調えられたシチューの鍋を点火して、一回、二回とかきまぜる。
――新宿駅周辺にある建物
ボスは結婚相談所の扉を開けようとしていた。中から声が聞こえる。ボスがしばらく耳を傾け、冷ややかに聞く。
ーーー結婚相談所
社員の女「やっぱり、裕福でお金持ってる男性だとすぐに決まるわね」
同僚の女「貿易会社の社長さんですって」
社員の女「物事には手順ってものがあるのに、幸子さん社長婦人か、羨ましいなぁ」
社員の女が大真面目な口調でいう。
「私、紹介する方じゃなくて、紹介される側にいこうかしら。こんな仕事してても、つまらないもの。出世の見込みもないような男と、そこそこの人生をおくるなんていやだわ。私も素敵な恋がしてみたいわ」
同僚の女「あなたには無理だと思うなあ、幸子さんみたいに、しつけができていて、身もちがよくないとね」そんなとりとめもないことを話しながら、ボスが来るのを待っていた。
ボスは入り口のところに立って聞いている。
二人が振り向くと、アッと驚く。
同僚の女「まあ、清水さん。今清水さんのお話しをしていたんところなんですのよ」その場をおさめる。
同僚の女「こちらにおかけください」
案内されたボスがソファーに腰をおろすのと、ほとんど同時に、ご結婚おめでとうございます。身体を二つに折るように会釈する同僚の女。私も嬉しいですわ。幸子さんを幸せにしてあげてください。
社員の女が、コーヒーを窓際のテーブルに置いてあるポットから注いでいれた。それを持ってくる。
同僚の女がソファーに座ると、ボスの顔を見すえて「それでは、成功報酬ということで、30万いただきます」
その瞬間、記憶が鮮やかによみがえる。
ー――ボスの回想・逃走用の車の中
助手席の後ろの後部座席に座っている白バイの男は、マッチ箱が濡れて火がつかない状況になり、全部束ねて擦ったら何とか火がついたとつぶやく。そして、府中街道を曲がる際に、あやうくダンプカーと衝突しそうになったと話した。
助手席のボスが後部座席の白バイの男に、ほんとに自分ももらっていのか、と振り返って尋ねると、後部座席の白バイの男が得意げに笑う。
「当たり前だよ、成功報酬なんだからいいんだよ。だいたいほとんどあんたが計画したんじゃないかよ」
白バイの男は札束をバックの中からひとつ取り出し、顔の前にかざした。
「これで、ハワイで一生遊んでくらせるぜ。どこだって行けるんだ。俺たちは、時間を手に入れたんだ」
運転席の男「ホントにつかまらねーかな?ほとぼりが収まるまでどこかにこの金を隠しておいた方がよくないか?」運転席の前には折りたたまれたスポーツ新聞が置かれている。
白バイの男「つかまんねーよ」
札束をバックに落しこんで言う。
「絶対につかまんねーよ。それに、白バイ隊員の息子が三億円盗んだっなんて世間に知れたら、困るのは、向こうの方だぜ。そしたらアイツら、きっと事件をうやむやにするよ。だいたい小さなことでもうやむやにすんだ、こんな大それたこと白バイ隊員の息子がやったことがバレてみろ、全力でうやむやにしてくるはずさ。世の中で一番の悪党は不良の俺たちでもヤクザでもなく、警察なんだ。ガキの頃から俺はそれを知ってるんだ。それに金を隠す?とられたりしたらどうすんだ?」
隠したのではなく、あるいは燃やしたのかもしれない。白バイの男の父親が自宅の庭で何かを燃やす映像。息子を殺した時とどうように母親も手伝っている。
助手席のボスがふと呟く。
「消されたりしないよな」
ーーー時間経過・駅
改札からボスが出てくる。
駅前を排気ガスをあげてたくさんの車が走る。
ボストンバックに入った金を電車で自分の家まで持って帰って来たボス。畳の上に置いて、開ける。
バックから溢れでた札束の数に唖然とする。
―ー―結婚相談所
同僚の女「清水様、これですべて終了いたしました」
結婚相談所の同僚の女が立ち上がる。
ボスも立ち上がり、見送られながら、エレベーターに乗る。
一階に降りて、建物の外に出ると、目の前を切り裂くように白バイが勢いよく通り過ぎてく。
一瞬、白バイ隊員にふんした三億円犯人の男の死に顔が脳裡に現れて、すぐに消える。
ーーーボスの回想・白バイ隊員にふんした三億円犯人の男が殺害された翌日
公衆電話ボックス
運転席にいた男「(公衆電話の受話器を握りしめ、あたりを見回しながら)前にも話した通り一人一千万。誰か連れていくならそいつの分も。早くしないと、俺たちも消されるかもしれない。あいつが自殺するなんてありえないよ。奴は死にたいなんてこれっぽっちも思っちゃいなかったのによ」
ーーー新宿駅周辺
結婚相談所がある建物を出てから、ぼんやりと街の様子を見て回想しながら歩くボス。
ーーーボスの回想2
鉄屑置場
スポーツ新聞をジーパンの後ろのポケットにいれた男「このバイクで大丈夫かな?」
ボス「(見ている。あくまで真剣な表情をくずさない)」
白バイの男「(落ちているクッキーの缶を手にし、バイクの後ろに合わせてみながら)白く塗ればわかりゃしないよ。本物の白バイか偽物かなんて。あとは、メガホンと赤色灯があれば完璧だな」
スポーツ新聞をジーパンの後ろのポケットにいれてる男「ひょっとしたら粗大ゴミ置き場に捨ててあるかもしれないから、あとで探しに行ってみるわ」
その二人の会話を聞いてボスの顔が思わず微笑んだ。
ーーー新宿駅周辺
次に立ち寄った先は、昔、喫茶店があった場所だった。立ち止まり、しばらく沈黙したあと、ゆっくりとまた歩きだす。
タバコ屋の奥さんが、店の中から一瞬ブルーのベルベットのマフラーをしたボスを見るが、人違いね、と呟いて声をかけるのは差し控えた。
ボスはタクシーを拾う。
ーーー時間経過・銀座和光の時計台の下
ネイビーブルーのコクーンドレスを着た幸子が立っている。落ち着かな気にあたりを見回していると、通りの反対側に止まったタクシーからボスが降りて来る。
幸子「(すぐにその姿を認め、笑みを浮かべる)」
ボスは通りかかった車を何台かやりすごしてから、道を渡ってきた。
みすぼらしいコートのポケットに両手をつっ込み、スポーツ新聞を脇に抱えた男の肩と幸子の肩がぶつかって、軽く会釈をする幸子。
ボスと幸子を振り返る男の目。
ーーー時間経過
買い物を楽しむボスと幸子。ジュエリーを見て幸子は呟いた。「素敵ね」
ーーー時間経過・音楽が流れるエレガントなレストラン
もうすっかり暗くなっていて、窓ガラスは暗い鏡面となり、テーブルに座っているボスと幸子を映し出し、さらにうしろの客からシャンデリアまで浮かび上がって、窓の彼方にもうひとつのレストランがあるように見える。
そのガラスの中の幸子「(明るく話しながら買ってもらった指輪に目を落としている)」
ボス「君の目とその口を見ているだけで、この世の何よりうれしいよ私は」さもなにげなくそう言ってワインを一口飲んで軽く微笑む。
赤くなった幸子は、ボスの顔をまともに見ていられなくて、ワインのグラスに大きく映る自分を眺めていた。
そんな幸子を見ているボスの脳裏に、なんの前触れもなく、アキオが翼をめちゃくちゃに犯している場面が浮かんでくる。
ーーー犯している映像(ボスの想像)
ニヤッとしたアキオが、ベッドに翼をうつ伏せに放り投げる。翼の手首をつかむと背中で両手首を交差させ、襲いかかり、嫌がる翼のズボンを下ろして、下着を引きちぎる。耳の中に舌を突っ込まれながら押さえつけ、乱暴に首に吸い付き、抵抗する間もなく、翼は肛門の中にペニスを入れられてしまう。
その時、ピアノの演奏が始まり、ボスがにっこり笑う。
幸子の顔にも、微笑みが広がったが、夢を見ているような、もどかしさと気遅れの入り混じった感情に、幸子は圧倒されていた。
ブルー★ベルベット第56話。
ーーー閑静な住宅街の一画
ボスとアキオ、そして美しすぎるシングルマザーの幸子と、その息子で高校生の翼は、広い庭に建つ邸宅で暮らしている。彼らはそこに移り住んでまだ間もない。
幸子の夫はすでに亡くなっており、一階のボスと幸子の寝室には小さな仏壇が置かれていた。その部屋はカーペットからベッドカバーまで、ほとんどが深いブルーで統一されており、家の中からはあわただしい物音や何気ない会話が聞こえてきた。
ーーーボスと幸子の寝室
幸子がネイビーブルーの服を選び、着替えている最中に翼が入ってきてお金をねだる。
翼「ねえ、千円ちょうだい」
幸子「翼、お母さんもう時間ないのよ。それに、おとといもお金をあげたでしょう」
翼「あれはあれで使っちゃったよ」
幸子はため息をつき、クロゼットの上にあるハンドバッグに手を伸ばす。
幸子「分かったわ、でも無駄遣いはだめよ」
幸子と翼のやりとりは階段を降りてくるアキオにも聞こえた。
ーーーリビング
アキオ「(翼のことを見ている)」
閉まりきっていない寝室のドアの隙間から中の様子が見える。
制服姿の翼が寝室から出てくる。廊下を歩いてくる足音が聞こえ、アキオのいるリビングを通り越してスリッパの音を響かせて階段を昇って自分の部屋に入っていく。
シンプルなネイビーブルーのコクーンドレスに着替えた幸子がストッキングを履いている姿がドレッサーの鏡に映る。そしてその前に座って、少しねじって束ねた髪の後ろを軽くたく。
アキオ「(幸子をみている)」
鏡の中のアキオが見つめているのに気づいて幸子は立ち上がりドアを閉める。
寝室の先にある暗い廊下やいくつもの空っぽの部屋は、ひっそりと静まりかえっている。
アキオの頭の中で悪意にみたた声がきこえた。ふふ、これから俺はいつでも好きなときに待望の獲物を拝借できるのだ。時間はたっぷりある。アキオの顔に、狼を思わせる笑いが浮かんだ。そして台所のコンロに調えられたシチューの鍋を点火して、一回、二回とかきまぜる。
――新宿駅周辺にある建物
ボスは結婚相談所の扉を開けようとしていた。中から声が聞こえる。ボスがしばらく耳を傾け、冷ややかに聞く。
ーーー結婚相談所
社員の女「やっぱり、裕福でお金持ってる男性だとすぐに決まるわね」
同僚の女「貿易会社の社長さんですって」
社員の女「物事には手順ってものがあるのに、幸子さん社長婦人か、羨ましいなぁ」
社員の女が大真面目な口調でいう。
「私、紹介する方じゃなくて、紹介される側にいこうかしら。こんな仕事してても、つまらないもの。出世の見込みもないような男と、そこそこの人生をおくるなんていやだわ。私も素敵な恋がしてみたいわ」
同僚の女「あなたには無理だと思うなあ、幸子さんみたいに、しつけができていて、身もちがよくないとね」そんなとりとめもないことを話しながら、ボスが来るのを待っていた。
ボスは入り口のところに立って聞いている。
二人が振り向くと、アッと驚く。
同僚の女「まあ、清水さん。今清水さんのお話しをしていたんところなんですのよ」その場をおさめる。
同僚の女「こちらにおかけください」
案内されたボスがソファーに腰をおろすのと、ほとんど同時に、ご結婚おめでとうございます。身体を二つに折るように会釈する同僚の女。私も嬉しいですわ。幸子さんを幸せにしてあげてください。
社員の女が、コーヒーを窓際のテーブルに置いてあるポットから注いでいれた。それを持ってくる。
同僚の女がソファーに座ると、ボスの顔を見すえて「それでは、成功報酬ということで、30万いただきます」
その瞬間、記憶が鮮やかによみがえる。
ー――ボスの回想・逃走用の車の中
助手席の後ろの後部座席に座っている白バイの男は、マッチ箱が濡れて火がつかない状況になり、全部束ねて擦ったら何とか火がついたとつぶやく。そして、府中街道を曲がる際に、あやうくダンプカーと衝突しそうになったと話した。
助手席のボスが後部座席の白バイの男に、ほんとに自分ももらっていのか、と振り返って尋ねると、後部座席の白バイの男が得意げに笑う。
「当たり前だよ、成功報酬なんだからいいんだよ。だいたいほとんどあんたが計画したんじゃないかよ」
白バイの男は札束をバックの中からひとつ取り出し、顔の前にかざした。
「これで、ハワイで一生遊んでくらせるぜ。どこだって行けるんだ。俺たちは、時間を手に入れたんだ」
運転席の男「ホントにつかまらねーかな?ほとぼりが収まるまでどこかにこの金を隠しておいた方がよくないか?」運転席の前には折りたたまれたスポーツ新聞が置かれている。
白バイの男「つかまんねーよ」
札束をバックに落しこんで言う。
「絶対につかまんねーよ。それに、白バイ隊員の息子が三億円盗んだっなんて世間に知れたら、困るのは、向こうの方だぜ。そしたらアイツら、きっと事件をうやむやにするよ。だいたい小さなことでもうやむやにすんだ、こんな大それたこと白バイ隊員の息子がやったことがバレてみろ、全力でうやむやにしてくるはずさ。世の中で一番の悪党は不良の俺たちでもヤクザでもなく、警察なんだ。ガキの頃から俺はそれを知ってるんだ。それに金を隠す?とられたりしたらどうすんだ?」
隠したのではなく、あるいは燃やしたのかもしれない。白バイの男の父親が自宅の庭で何かを燃やす映像。息子を殺した時とどうように母親も手伝っている。
助手席のボスがふと呟く。
「消されたりしないよな」
ーーー時間経過・駅
改札からボスが出てくる。
駅前を排気ガスをあげてたくさんの車が走る。
ボストンバックに入った金を電車で自分の家まで持って帰って来たボス。畳の上に置いて、開ける。
バックから溢れでた札束の数に唖然とする。
―ー―結婚相談所
同僚の女「清水様、これですべて終了いたしました」
結婚相談所の同僚の女が立ち上がる。
ボスも立ち上がり、見送られながら、エレベーターに乗る。
一階に降りて、建物の外に出ると、目の前を切り裂くように白バイが勢いよく通り過ぎてく。
一瞬、白バイ隊員にふんした三億円犯人の男の死に顔が脳裡に現れて、すぐに消える。
ーーーボスの回想・白バイ隊員にふんした三億円犯人の男が殺害された翌日
公衆電話ボックス
運転席にいた男「(公衆電話の受話器を握りしめ、あたりを見回しながら)前にも話した通り一人一千万。誰か連れていくならそいつの分も。早くしないと、俺たちも消されるかもしれない。あいつが自殺するなんてありえないよ。奴は死にたいなんてこれっぽっちも思っちゃいなかったのによ」
ーーー新宿駅周辺
結婚相談所がある建物を出てから、ぼんやりと街の様子を見て回想しながら歩くボス。
ーーーボスの回想2
鉄屑置場
スポーツ新聞をジーパンの後ろのポケットにいれた男「このバイクで大丈夫かな?」
ボス「(見ている。あくまで真剣な表情をくずさない)」
白バイの男「(落ちているクッキーの缶を手にし、バイクの後ろに合わせてみながら)白く塗ればわかりゃしないよ。本物の白バイか偽物かなんて。あとは、メガホンと赤色灯があれば完璧だな」
スポーツ新聞をジーパンの後ろのポケットにいれてる男「ひょっとしたら粗大ゴミ置き場に捨ててあるかもしれないから、あとで探しに行ってみるわ」
その二人の会話を聞いてボスの顔が思わず微笑んだ。
ーーー新宿駅周辺
次に立ち寄った先は、昔、喫茶店があった場所だった。立ち止まり、しばらく沈黙したあと、ゆっくりとまた歩きだす。
タバコ屋の奥さんが、店の中から一瞬ブルーのベルベットのマフラーをしたボスを見るが、人違いね、と呟いて声をかけるのは差し控えた。
ボスはタクシーを拾う。
ーーー時間経過・銀座和光の時計台の下
ネイビーブルーのコクーンドレスを着た幸子が立っている。落ち着かな気にあたりを見回していると、通りの反対側に止まったタクシーからボスが降りて来る。
幸子「(すぐにその姿を認め、笑みを浮かべる)」
ボスは通りかかった車を何台かやりすごしてから、道を渡ってきた。
みすぼらしいコートのポケットに両手をつっ込み、スポーツ新聞を脇に抱えた男の肩と幸子の肩がぶつかって、軽く会釈をする幸子。
ボスと幸子を振り返る男の目。
ーーー時間経過
買い物を楽しむボスと幸子。ジュエリーを見て幸子は呟いた。「素敵ね」
ーーー時間経過・音楽が流れるエレガントなレストラン
もうすっかり暗くなっていて、窓ガラスは暗い鏡面となり、テーブルに座っているボスと幸子を映し出し、さらにうしろの客からシャンデリアまで浮かび上がって、窓の彼方にもうひとつのレストランがあるように見える。
そのガラスの中の幸子「(明るく話しながら買ってもらった指輪に目を落としている)」
ボス「君の目とその口を見ているだけで、この世の何よりうれしいよ私は」さもなにげなくそう言ってワインを一口飲んで軽く微笑む。
赤くなった幸子は、ボスの顔をまともに見ていられなくて、ワインのグラスに大きく映る自分を眺めていた。
そんな幸子を見ているボスの脳裏に、なんの前触れもなく、アキオが翼をめちゃくちゃに犯している場面が浮かんでくる。
ーーー犯している映像(ボスの想像)
ニヤッとしたアキオが、ベッドに翼をうつ伏せに放り投げる。翼の手首をつかむと背中で両手首を交差させ、襲いかかり、嫌がる翼のズボンを下ろして、下着を引きちぎる。耳の中に舌を突っ込まれながら押さえつけ、乱暴に首に吸い付き、抵抗する間もなく、翼は肛門の中にペニスを入れられてしまう。
その時、ピアノの演奏が始まり、ボスがにっこり笑う。
幸子の顔にも、微笑みが広がったが、夢を見ているような、もどかしさと気遅れの入り混じった感情に、幸子は圧倒されていた。