6.イスラエル王国分裂

文字数 1,275文字

上の緑色の箇所がイスラエル王国。

下の赤色の箇所がユダ王国。

南のユダ王国を支配したのが、ソロモンの子レハブアム。

彼はソロモンの死後、民たちに圧政を敷いた。

それに反発したイスラエルの民はヤロブアムを王とした。

そして北のイスラエル王国を支配するようになったんだ。

せっかく皆で団結して強かったイスラエルやのに。

分裂してもうて大丈夫なんやろか。

大丈夫ではないだろうね。

イスラエル全体では12の部族がある。

けれど、イスラエル王国の10部族は現代に残らなかった。

いわゆる、イスラエルの失われた10支族(または部族)ってやつさ。

ルベン族、シメオン族、ダン族、ナフタリ族、ガド族、

アシェル族、イッサカル族、ゼブルン族、マナセ族、エフライム族、

これらの部族は周辺諸国に吸収されて消えてしまった……とされる。

なるほど。

ユダ王国のユダ族とベニヤミン族だけが残ったっちゅうことか。

実際には失われず、多くの住民がユダ地方に移住したなんて説もあるけどね。

いずれにせよ部族の概念は失われて、まとめてユダヤ民族と呼ぶようになる。

ヤロブアムから王国を取り戻すため、レハブアムは兵をそろえた。

そこに神の人シェマヤが現れ、戦ってはならないと告げた。

彼らは主の言葉に従い、帰っていった。

急に現れて「戦争するな」ですって?

何ものかしら。

いえ、何様かしら、と言うべきね。

ここで言う「神の人」は預言者の尊称だね。

ただ「神の人」と言ってそれが全て預言者を意味するわけではない。

解釈も様々で、プロテスタントだとクリスチャンは全て「神の人」になる。

誰か知らんけど、発言に影響力のある人やったんやろな。

その人のおかげで戦争は回避できたわけや。

そん代わり、国が一つになるチャンスを逃してもうたけどな。
ヤロブアムは民の心をレハブアムから完全に引き離そうとする。

そのためにアシェラ像を造り、宗教的な離反を起こした。

するとそれは主の怒りを呼び、ヤロブアムの子アビヤは病に倒れた。

その後ヤロブアムは死に、子のナダブが代わって王となった。

アシェラはウガリット神話における豊穣の女神アシェラトを指す。

最高神エルの妻だね。

イスラエル人の神が元々このエルだったとすれば……。

その奥さんを持ってくるのは面白いよね。

ユダ王国とイスラエル王国の夫婦喧嘩。

……と、いうことかしら。

なかなか迷惑な夫婦喧嘩やけどな。
ユダ王レハブアムの治世は荒廃した。

民はバアルやアシェラを祀り、神殿売春を行う者までいた。

エジプトの王シシャクの侵略なども受け、ヤロブアムとの争いも絶えなかった。

レハブアムは死に、子のアビヤムが代わって王となった。

なんや。

こっちでもアシェラを祀っとるやないか。

ユダ王国は民が勝手にやっていることだからね。

ぎりぎりセーフ……ということにしよう。

ちなみに神殿売春についてだけどね。

売春と言うと女性のことだと思うだろうけど、

これは男女両方が行う宗教行為なんだよ。

神殿における性行為は豊作祈願でもあるのさ。

豊穣の女神アシェラトに捧げる儀式だったんだろうね。

それ聞いたら、今からでもアシェラトに乗り換えよう思う連中が出てきそうやな。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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