第5話 双剣のロザリア

文字数 2,679文字

 明確な原因は不明だがユラの縛られていた土地が呪いの森からアウラに変わったようで一キロ以上離れることはできないようだ。
 初めての町でだいぶテンション高めのユラは、アウラが寝てる間も町中を飛び回っているようだ。
 朝目が覚めると宿の天井に頭を突っ込み直立したまま寝ているユラの姿が見える。ユラはだいぶ寝ぐせが悪いようだ。
 いつもの通りの朝を迎えたアウラは窓を開け朝日を確認する。
 そして、いつもの様に大道路で情報収集を始める。
「別についてこなくたっていいんだぞ」
 眠たそうに目をこすりながら隣を歩くユラ。
「んー……別に……暇だし」
 どうやらまだ頭が起きてないようだ。
 歩行者と何度もすり抜けるユラにふと気になったことを問いかける。
「擦りにける時、嫌な感じしないのか?」
「何年すり抜けてきたと思ってんの……そんなの何も感じない」
 そう言うと大きくあくびをした。
「そんなものか」
 アウラは変に納得していると突然大きな声で名前を呼ばれる。
「アウラ!!!見つけたわよ!!!今度こそ逃がさないんだから!」
 正面にあの傲慢な赤髪の美少女がいた。
 ユラは前に出るとその美少女の隣に並び指でツンツン突きながら眠そうに問いかけてくる。
「だれ……このこ」
 言い終えると同時にまた大きなおくびをする。
 なんと説明しようか悩むアウラに考える隙を与えてくれない。
「貴方が何て言おうが付き合って貰うから」
 そういうとロザリアと名乗っていた赤髪の少女がアウラの襟を鷲掴みにする。
 ロザリアの怪力で引きずられていくアウラ。住民たちの目線を嫌でも集める。そんな中、誰にも見えていないユラは他人事の様に言う。
「いいじゃん。付き合ってあげなよ」
「ほら。こんな横暴な彼女だぞ。一生開放してくれそうにないじゃないか」
 すでに注目されているアウラは気にする様子もなくユラに言葉を返す。
「そお?悪そうな人ではなさそうだけど」
「え?俺の今の状況見て?引きずられてるけど……。拒否権すら与えられてないけど」
 ロザリアにはアウラがただの独り言を言っている様に見えている。だから、まるで異様なものでも見るように冷たい目線を向ける。
「アンタやばいよ」
「いや、アンタには言われたくない」



 デネボラ城 
 王室
「ロメオ騎士王、ご報告します。英雄試練の準備は順調に進んでおります。それから金の紋章思った騎士の選別を終えました」
 騎士の報告を聞いたロメオは、正面で跪くもう一人の騎士に目を向ける。
「ジョバンナ、それから君も顔を上げてくれ。ここは王室だから、そこまで堅苦しくしなくていいよ」
「「はっ」」
 短く返事をし、立ち上がり顔を上げる騎士。それを追うように恐る恐る顔を上げるもう一人の騎士。
「君、名前は?」
 さわやかな笑顔でほほ笑むロメオ。その容姿はとても綺麗で美しい。
「…… エルギン」
 騎士王と言われるにはあまりにも美しく綺麗な容姿に、エルギンは見とれてしまっていた。同じ男性であるということを忘れるほど、騎士王の容姿はその剣技の実力と共に飛びぬけていた。
「そうか。エルギン、君に折り入って頼みがあるんだ。騎士の名を捨て、戦士として今回の英雄試練に参加してもらいたい」
「そんな」
「聞いてくれるよね」
 エレギンの言葉を遮るように屈託ない笑みを浮べ詰めよるロメオ。
「……はい」
「ありがとう、エルギン。君には今回英雄試練に参加する僕の妹ロザリアを殺してほしいんだ。所でジョバンナ、ロザリアは今何をしてる?」
「はい。例の男と一緒にいます」
 騎士王はその言葉を聞きつまらなそうに吐き捨てる。
「そうか」



 人気のない草原。
 そこに立つ一本の剣を持ったアウラ。
 次の瞬間、アウラの目の前に現れたロザリアが鋭利な刃を突きつける。
 アウラはそれを慣れた手つきで軽くいなすとロザリアは笑みをこぼす。
「やっぱり私の直感は間違いじゃなかった!ジョバンナのお姉ちゃんから聞いたわ。リコット村に向かったこと。貴方が破壊神ダリアムを殺したんでしょ」
 立て続けに素早く振られるララの双剣が芝生を揺らす。
「どうしてそう思うんだ」
「直感よ!私の中の直感がそう言ってんの!」
「だとして、どうして俺に関わってくるんだ」
「私は誰よりも強くなりたい。悔しいけど、今の私では破壊神ダリアムに勝てない。あの夜、彼の魔力を感じて死を感じた。恐怖で足が震えたわ……。だから強くなるためにアンタを利用してやるのよ!強くなるためだったら何だってやってやるわ!騎士王ロメオを殺すためなら」
 凶器に近いその執念にアウラの動きが一歩出遅れる。
 その一瞬の隙をロザリアは見逃さなかった。
 アウラは右手の剣をはじかれ、素早い斬撃が襲う。咄嗟に左手でロザリアの右手の剣を叩き落すが瞬時に順応する。
 左腕を蹴り飛ばされたアウラはロザリアの斬撃に反応できない。
「はあああああああ!!!!」
 凄まじい咆哮と同時に一気に魔力が跳ね上がるロザリア。今までとは比べ物にならない速度で間合いを詰め、がら空きのアウラの身体を全力で突いた。
 物凄い衝撃波が空間を襲い、草原の一部が捲れ上がる。
 砂煙が晴れるとまっすぐに伸ばされた剣先がアウラの心臓を的確に突いていた。
「効かないって知ってたのか」
 アウラの問いにロザリアは体勢を崩さないまま真剣に答える。
「知るわけないでしょ」
 彼女の言葉が偽りではないことをこの戦いが示している。ロザリアはアウラを刺そうと今も全力で力を込めていた。
 彼女にとってそれは何事にも変えられない、譲れないもの。
 アウラとユラが抱く夢と同じぐらいかけがえのないものだと言うことが分かった。
 なおもアウラに剣を突き刺そうと更に魔力を込めるロザリアに言葉をかける。
「君は絶対俺には勝てない」
 彼女にとって勝つとは相手の命を奪うこと、状況は違えど実戦であれば確実に命を奪えている状況をさしているのだろう。
 だからこそアウラの言葉を理解したロザリアは、力を緩め剣をしまう。
「そうみたいね。でも負けてはない……絶対に負けない。そして、いずれ貴方に勝って見せる」
 自分を信じて疑わないロザリアの瞳にアウラの頬が緩む。
 右手を差し出しアウラはいった。
「付き合うよ」
 ロザリアは右手を握り傲慢な態度を見せる。
「言われなくても付き合って貰うから!絶対にね!」

 それからアウラは自己紹介代わりに死ねないこと、死を目指してること、ユラの事を話した。
 意外にもすんなりと全て信じてくれた。ロザリア曰く、「存在としてはアウラと大して変わらないじゃない」ということらしい。
 アウラとユラは同時に『確かに』と頷いた。
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