第26話 開戦

文字数 2,557文字

 魔王デネボラとしての力をほとんど失ってしまったヘスティは人になりたいと考えた。そうすれば人の気持ちがわかるようになるかもしれないと。
 その願いに喜んで協力していたロメオは、アウラに協力をお願いした。
 城でアウラとロメオとヘスティが試行錯誤する日々を送る。そんなある日、イシアルが1人で城を訪れた。
 いつもロザリアと一緒にいるイメージがあったが、だいぶ人の目にも慣れてきたようで、着実に一歩ずつ前に進んでいるようだった。
 要件は、容姿を変える魔法『ケイルテ・ユラ・スリーロア』の習得だった。ロザリアのために覚えたいのだろう。
 あっという間に時間は過ぎ、西央王国スエムの城門が突破されたという報告が届いた。
 決戦の時が来た。
 王都デネボラの地下に続く通路。その先にある石門に囲まれた黒いゲート。
 第12魔神の一人。次元の使者、黎明のバランの力を利用して魔王デネボラが遠い昔に作った魔界に繋がるゲート。
 アウラ、ユラ、ロザリア、イシアルはゲートに向かって一歩踏み出す。
 今回の勇者一行を送り出すのは元魔王の女王ヘスティ。
 勇者一行に加わり、王に託されたあの時の自分に教えてあげたい。
 そんなことを思いながらアウラは人類の期待を背負いゲートをくぐった。

 遠くに映る禍々しい城。
 それは言うまでもなく魔王城だと皆が理解していた。
「いよいよだね」
 ユラの言葉にアウラは頷いた。
「あそこが魔王城だ」
 しばらく進むと一人の人間が立っていた。
 だがこんな頃に人間がいるはずがない。それは皆が周知していた。
「待ってましたよ。勇者一行」
 そんな高貴な雰囲気を醸し出している魔族は肌以外は人間と一切変わらない容姿をしていた。
 そんな異様な姿に気持ち悪さを感じる。
 魔力に適用しやすい体を、より自分の相性に合わせて変化していく魔族が人の形を成すなどありえないこと。
 アウラですら見たことがない。
「初めて見るな。お前は」
 その言葉に嫌な笑みを浮かべ言葉を返す。
「申し遅れました。わたくしは魔王ヘルト様に選ばれた第四魔族が一人。鉄壁のサエルともうします」
「なにそれ。弱そうな名前。アウラ!イシアルを連れて先に行って!こいつの相手は私で十分よ。この中で一番火力が高いのは私でしょ。あんな薄い壁、私が壊してやるわ!ユラ!アウラを頼んだわよ」
「先で待ってる」
 アウラアはそう言葉を返すとイシアル達と一緒に先に進んだ。
「ほう、あなた一人で私を。魔族にもなり切れていない貴方では私の相手になりませんよ。お嬢さん」
「魔族にならないようにしてんのよ!」
 ロザリアの双剣が目にも止まらない速度でサエルを襲う。
 しかしその斬撃が通ることはない。
「はははははは。だから聞きませんって」
 そんな棒立ちのサエル。攻撃してくる様子のないサエルにロザリアは斬撃をつづけた。攻撃の隙を与えないために。
 しかし、一向に攻撃をしてこない。
 一旦距離を置いたロザリアは攻撃をやめ、サエルを注視する。
 そしてあることに気が付いた。いつもより魔力の消費が激しいことに。
「気づきましたか。わたくしは攻撃を受ければ受けるほど相手の力を奪う。固有スキル《失気》を持っています。そして奪った魔力は更にわたくしを硬くする」
「丁寧に教えてくれるのね」
「ええ。知ったからと言って何も対策などできませんから。固有スキルを持つことが許された選ばれたもの、この鉄壁のサエルがご教授差し上げましょう。選ばれたものとそうでないものの差を」
 固有スキルとは生まれながらに与えられる、特別なスキル。 
 アウラとイシアルはそれぞれ固有スキルを持っている。
 ロザリアは確かに固有スキルを何も持っていなかった。
 だからと言って、差を感じたからと言って、それが歩みを止める理由にはならなかった。
 強くなる。そのために今までロザリアは頑張ってきた。
「なら、固有スキルを持たないただの人間の一撃。受けてみる?」
 ロザリアの体から魔力が溢れ出す。
 足にかけられた魔法の膜がやぶけ、魔族の赤い足があらわになる。
 ロザリアが踏み込んだ大地が割れ、衝撃波が消し飛ばす。
 一瞬でサエルの前に移動した。
 素早く展開された結界がロザリアの双剣を受け止める。
 気が付けば距離を置いているロザリアに冷や汗をかくサエルは言う。
「驚きましたよ。確かに速さは凄まじい。ですが、一番相性がいい。速さにふった貴方の火力ではわたくしの結界は破けない。その魔力の使い方、魔法は苦手なようですね」
 結界はより物理攻撃に耐性を持つ。
 そんなことイシアルとの戦闘でいたほど知っている。
 ロザリアはもう一度飛び出し双剣で結界を切り裂く。
 しばらく同じことを繰り返したロザリアは距離をとり、大きく息を吐く。
「攻撃を与えるたびに奪うといいましたよね。貴方は速さに振った双剣。相性は最悪」
 不敵に笑うサエルにロザリアは呆れたように言う。
「そんなこと知ってるわよ!さっき、アンタが言ってたでしょ。」
 ロザリアはぴょんぴょんとその場で飛び跳ねる。
 そんな余裕の態度にサエルはバカにされたような気がした。
「よし!準備運動は終わりね。次は本気で行くわよ!」
 ロザリアの首から下の全てはとっくに魔族へと変わっていた。
「どんだけ早くなろうと!」
「なんですって?」
 ロザリアはいつの間にかサエルの後ろに立っていた。
 そしてサエルの結界が音を立てて崩壊する。
「へ?」
 そんな情けない反応をするサエル。
 サエルは現状を理解するのに数秒かかった。
 ロザリアに首を切られ宙に浮いていた。
 ロザリアはアウラに追いつくために急いで走り出す。
 しかし、その歩みはすぐに止まる。
 振り返ると切り落とされた胴体が立ち上がり奇声を上げる。
「よくもよくもよくもよくも!ヘルト様に貰ったからだを!貴様よくもぉぉおおお!」 
 先ほどの上品さは全てそぎ落ちていた。
 魔族らしい醜い醜態をさらすサエル。
 不格好な岩の形をした巨体は20メートルを超える。
 ロザリアはすかさず切りつけるが、一部の岩を砕くだけだった。
「貴様はぜったいにころす!ぶっころしてやるぅぅぅぅうううう!!!!!!!」
 
 魔王城
 王座に座る魔王ヘルトは黎明のバランのゲートでアウラたちの行動を追っていた。
「オノクリア、バラン、相手をしてやれ。」
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