第10話 マタダムの目録
文字数 2,349文字
日も差し込まない密林の中を歩くアウラ一行。
まるで行くべき道を知っているかのように黙々と歩いていくアウラにロザリアは問いかけた。
「どこに向かってんのよ?」
「エレイン王国の跡地」
どこかで聞いた事ある名前を思い起こす。
しばらくして思い出したロザリアが声を上げた。
「あ!思い出した!マタダムの目録に記載されていた名前よね。確か勇者レペンスの話」
「勇者?聞いたことないなー……私が生きてた時はいなかったのかな?」
もしユラの言葉が真実ならアウラが思っている以上も昔に生きていたのかもしれない。それこそ、アウラが死ねなくなるよりも昔に。
「ロザリア、ユラは知らないみたいだ」
アウラが伝えるとロザリアは得意げな顔を浮かべる。
「そっか。ユラ、私が教えてあげるわ!」
「ふむふむ」
人差し指を立てて得意げな顔を浮かべるロザリアにユラは両の手を握りしめ、顔の下に持っていき大袈裟に頷いていた。
ロザリアは本当にユラの事を見えていないのだろうか。お互いの声は本当に聞こえていないのだろうか?
たまに疑問に感じる。それと同時にその事実に勿体なさも感じた。
「むかしむかし、魔王が誕生しました。魔王の誕生を警戒していた当時最強の王国、エレイン王国。しかし、魔王は力を見せつけるように一夜にしてエレイン王国を滅ぼしました。そんな強大な魔王を倒せるのは勇者だけ。人々は勇者が生まれるのを待ちました。それからしばらくして東の国リントブルムで勇者だけが引き抜けるとされる伝説の剣、聖剣エクスカリバーを引き抜いた1人の勇者が生まれました。勇者レペンスは魔王討伐に名乗りを上げ、いくつもの苦難の先に魔王を討伐したの!」
「そんな話があるんだー」
「ええ。勇者レペンスはすごいの。勇者レペンスは魔王を倒し本物の英雄となった。その後、王都デネボラで騎士王レペンスと名乗って今も英雄試練が続いている。けど、その後の勇者レペンスの行方は誰も知らないわ」
「勇者レペンスは独りで戦ったんだ」
ユラの言葉をアウラが否定する。
「いや、勇者レペンスは仲間と一緒に魔王討伐に向かった」
「そーなの?ならなぜ勇者レペンスの仲間の記載がないの」
ロザリアの問いにアウラは淡々と答える。
「いらないと思ったからだよ」
アウラの言葉と同時に眩しい太陽の光が三人を照らす。
森を抜けた三人を出迎えたのは綺麗な花が咲き乱れる草原だった。
「何これ、すごい」
「きれぇー」
二人の声色が分かり易いほど高くなる。
二人のためではなかったがこの光景を用意していたアウラは悪い気はしなかった。
花畑を飛び回るユラとロザリアをよそにアウラはその草原の中心に向かって歩く。
次第に見え始める丘は、草原とは対称的に黒ずんだ大地の丘が広がっている。
丘に建つ建物の残骸はどれも黒ずみ空気もよどんでいる。
草原と焼け落ちたような黒い台地が一直線に綺麗に隔たれている。
「何これ、どーなってんの」
ロザリアと違い、ユラはただじっと黒ずんだ丘を眺めていた。
恐らく漂う魔力に気づいたのだろう。ユラなら気づくとなんとなくそう感じていた。
一歩踏み出そうとするロザリアをアウラが止める。
「やめておけ」
アウラの目線を追うようにロザリアは空を舞う花びらに目をやる。
綺麗な花びらが風に吹かれ黒い台地に入ると同時に、色を失い粉々に崩壊した。
「ここってもしかして」
ロザリアの問いかけにアウラはただ頷く。
「ああ。エレイン王国の跡地だ」
そこは生きとし生けるものすべてを崩壊させる無の大地。
「ねえ、アウラ。この魔法で一夜にしてエレイン王国は滅んだってことよね」
「ああ」
「マタダムの目録によると魔王が勇者レペンスに倒されたのは二百年も前じゃない?ならなぜ今もこの魔法の魔力は満ちているの?魔王が倒されたと同時に消えているはずじゃない?」
「マタダムの目録には偽りの歴史も書かれている。騎士王レペンスが英雄試練を作ったのは半分が真実で半分が嘘だ」
「じゃあ事実は何なのよ」
「それを確認するためにここまで来たんだ。それとここで死んでいった者たちに追悼するためだ」
アウラは無の大地に入り込む。
全身が薄暗い空間に包まれたアウラだが、固有スキルの《魔法無効》によってその影響を無効化する。
アウラは城であったであろう中心の崩れた祭壇でこの魔法の核となる黒い星を見つめる。
賢者の力を発動したアウラの目は青く光るが、黒い星を分析することはやはりできない。
アウラが魔法を生成しようとするが、やはりアウラの魔法も崩壊させられ発動することができない。アウラの打撃で魔法の核を壊すことができない。
破壊をあきらめたアウラは祭壇の隣に置いてある書物を手に取った。
それはマタダムの目録。
すべてを無に帰す空間ですらその書物を崩壊させることはできない。
アウラはマタダムの目録を手に取りその書物に書かれた全てを思い出す。
エレイン王国跡地に祈りをささげてからアウラはロザリアたちに合流する。
何か言いたそうなロザリアにアウラはマタダムの目録を渡した。
「これって、マタダムの目録?なんでこの中に、それにどうしてこれは崩壊していないの」
ロザリアの問いにただ真実を伝える。
「マタダムがこの国を滅ぼしたからだ」
ロザリアは黙ってマタダムの目録に目を通した。
マタダムの目録にはこの国を滅ぼした時の事、その後魔王の仕業となり人界と魔界の戦争が起こったこと。マタダムは勇者に誘われ、魔王討伐に参加することになったこと。魔王は討伐されなかったこと。マタダムが勇者から名前を借り騎士王レペンスと名乗り英雄試練を作ったこと。最後に、この魔法の核を壊す為に用いたあらゆる手段の記録が書かれていた。
「アウラ、マタダムの目録って貴方が書いていたのね」
「ああ」
まるで行くべき道を知っているかのように黙々と歩いていくアウラにロザリアは問いかけた。
「どこに向かってんのよ?」
「エレイン王国の跡地」
どこかで聞いた事ある名前を思い起こす。
しばらくして思い出したロザリアが声を上げた。
「あ!思い出した!マタダムの目録に記載されていた名前よね。確か勇者レペンスの話」
「勇者?聞いたことないなー……私が生きてた時はいなかったのかな?」
もしユラの言葉が真実ならアウラが思っている以上も昔に生きていたのかもしれない。それこそ、アウラが死ねなくなるよりも昔に。
「ロザリア、ユラは知らないみたいだ」
アウラが伝えるとロザリアは得意げな顔を浮かべる。
「そっか。ユラ、私が教えてあげるわ!」
「ふむふむ」
人差し指を立てて得意げな顔を浮かべるロザリアにユラは両の手を握りしめ、顔の下に持っていき大袈裟に頷いていた。
ロザリアは本当にユラの事を見えていないのだろうか。お互いの声は本当に聞こえていないのだろうか?
たまに疑問に感じる。それと同時にその事実に勿体なさも感じた。
「むかしむかし、魔王が誕生しました。魔王の誕生を警戒していた当時最強の王国、エレイン王国。しかし、魔王は力を見せつけるように一夜にしてエレイン王国を滅ぼしました。そんな強大な魔王を倒せるのは勇者だけ。人々は勇者が生まれるのを待ちました。それからしばらくして東の国リントブルムで勇者だけが引き抜けるとされる伝説の剣、聖剣エクスカリバーを引き抜いた1人の勇者が生まれました。勇者レペンスは魔王討伐に名乗りを上げ、いくつもの苦難の先に魔王を討伐したの!」
「そんな話があるんだー」
「ええ。勇者レペンスはすごいの。勇者レペンスは魔王を倒し本物の英雄となった。その後、王都デネボラで騎士王レペンスと名乗って今も英雄試練が続いている。けど、その後の勇者レペンスの行方は誰も知らないわ」
「勇者レペンスは独りで戦ったんだ」
ユラの言葉をアウラが否定する。
「いや、勇者レペンスは仲間と一緒に魔王討伐に向かった」
「そーなの?ならなぜ勇者レペンスの仲間の記載がないの」
ロザリアの問いにアウラは淡々と答える。
「いらないと思ったからだよ」
アウラの言葉と同時に眩しい太陽の光が三人を照らす。
森を抜けた三人を出迎えたのは綺麗な花が咲き乱れる草原だった。
「何これ、すごい」
「きれぇー」
二人の声色が分かり易いほど高くなる。
二人のためではなかったがこの光景を用意していたアウラは悪い気はしなかった。
花畑を飛び回るユラとロザリアをよそにアウラはその草原の中心に向かって歩く。
次第に見え始める丘は、草原とは対称的に黒ずんだ大地の丘が広がっている。
丘に建つ建物の残骸はどれも黒ずみ空気もよどんでいる。
草原と焼け落ちたような黒い台地が一直線に綺麗に隔たれている。
「何これ、どーなってんの」
ロザリアと違い、ユラはただじっと黒ずんだ丘を眺めていた。
恐らく漂う魔力に気づいたのだろう。ユラなら気づくとなんとなくそう感じていた。
一歩踏み出そうとするロザリアをアウラが止める。
「やめておけ」
アウラの目線を追うようにロザリアは空を舞う花びらに目をやる。
綺麗な花びらが風に吹かれ黒い台地に入ると同時に、色を失い粉々に崩壊した。
「ここってもしかして」
ロザリアの問いかけにアウラはただ頷く。
「ああ。エレイン王国の跡地だ」
そこは生きとし生けるものすべてを崩壊させる無の大地。
「ねえ、アウラ。この魔法で一夜にしてエレイン王国は滅んだってことよね」
「ああ」
「マタダムの目録によると魔王が勇者レペンスに倒されたのは二百年も前じゃない?ならなぜ今もこの魔法の魔力は満ちているの?魔王が倒されたと同時に消えているはずじゃない?」
「マタダムの目録には偽りの歴史も書かれている。騎士王レペンスが英雄試練を作ったのは半分が真実で半分が嘘だ」
「じゃあ事実は何なのよ」
「それを確認するためにここまで来たんだ。それとここで死んでいった者たちに追悼するためだ」
アウラは無の大地に入り込む。
全身が薄暗い空間に包まれたアウラだが、固有スキルの《魔法無効》によってその影響を無効化する。
アウラは城であったであろう中心の崩れた祭壇でこの魔法の核となる黒い星を見つめる。
賢者の力を発動したアウラの目は青く光るが、黒い星を分析することはやはりできない。
アウラが魔法を生成しようとするが、やはりアウラの魔法も崩壊させられ発動することができない。アウラの打撃で魔法の核を壊すことができない。
破壊をあきらめたアウラは祭壇の隣に置いてある書物を手に取った。
それはマタダムの目録。
すべてを無に帰す空間ですらその書物を崩壊させることはできない。
アウラはマタダムの目録を手に取りその書物に書かれた全てを思い出す。
エレイン王国跡地に祈りをささげてからアウラはロザリアたちに合流する。
何か言いたそうなロザリアにアウラはマタダムの目録を渡した。
「これって、マタダムの目録?なんでこの中に、それにどうしてこれは崩壊していないの」
ロザリアの問いにただ真実を伝える。
「マタダムがこの国を滅ぼしたからだ」
ロザリアは黙ってマタダムの目録に目を通した。
マタダムの目録にはこの国を滅ぼした時の事、その後魔王の仕業となり人界と魔界の戦争が起こったこと。マタダムは勇者に誘われ、魔王討伐に参加することになったこと。魔王は討伐されなかったこと。マタダムが勇者から名前を借り騎士王レペンスと名乗り英雄試練を作ったこと。最後に、この魔法の核を壊す為に用いたあらゆる手段の記録が書かれていた。
「アウラ、マタダムの目録って貴方が書いていたのね」
「ああ」