第26話『捜索隊と不吉な音』

文字数 1,746文字

 こっちにもいない。こっちにもいない。
 コリンたち一行は、ロス夫妻と一緒にキーラ探しに出ていた。
 「私は英語が喋れるし、私と一緒に行動した方がよいのでは? 」というボイル氏に、ゾーイが無理言って叶えて貰ったのだ。
「キーラのお父さんとお母さん。って、コリンは知ってるよね」
 ロス捜索隊の最後方を歩くリクが、コリンにそっと(ささや)いた。
「トニとゾーイがね、キーラのお父さんとお母さんが、何か隠してるんじゃないかって言ってて。それで、ふたりと行動しようって言いだしたの」
「なるほど」
 コリンも小声で答えた。
 「家に戻ってるかもしれないよ」というボイル氏たちの提案に、「そうですね」と(うなず)いたロス夫妻だったが。
「ねえ、リク」
「なに? 」
「どうして、森に向かってるの? 」
「森に向かってるの⁉ 」
 コリンの言葉に、リクは目を おおきくした。
「ロスさんたちの お家じゃなくて? 」
「うん」
 コリンは首を上下に振る。
「汽車が停まってる森に向かってる。きのうも途中まで

に案内されたでしょ? 」
「うそ」
 報告を受けたリクは、すぐさま前を歩くアントワーヌに伝えた。
 アントワーヌもリクと同様、「は⁉ 」と耳を疑っているようだ。
「領主の命令に背いている──? 」
「変ね」
 とレア。
「聞いてみる? 」
 とゾーイ。
「いや、このまま黙ってついて行こう」
 アントワーヌは こっそり、従業員たちに指示を出す。

だからこそ、見せてくれるものがあるかもしれない」

 歩けば歩くほど木が深まり、歩けば歩くほど足元はぬかるんでいった。
「本当に森に入って来ちゃった」
 リクが つぶやいた。
「足元、気をつけてくださいね」
 ロス氏は、言葉が通じない相手に対しても親切に声掛けをしてくれた。
「こんな真面目な人なのに、どうして主人の言葉に逆らったりするのかしら」
 レアがアントワーヌに言ってるのが聞こえた。
「ねえ、コリン」
 と、リクから声を掛けられた。
「キーラって、どんな子? 」
「しっかりした子だよ」
 コリンが答えると、リクは、「そうじゃなくて」と言った。
「キーラって、ふだんから、森に行くような子だったのってこと」
「ああ、なるほどね」
 頷いて、首を傾げた。
「僕の知るキーラは、そんな子じゃなかったよ」
 でも、と、コリンは続ける。
「きのう、キーラと会った時」
「そう、私もそのことを思い出してたの」
 リクが頷く。
「きのう、はじめて私たちがキーラと会った時。その時も、林の方から歩いてきた。キーラは きっと、コリンたちが知らないだけで、頻繁(ひんぱん)に森に行ってたんだよ。キーラのお父さんとお母さんは、キーラの行先にまったく見当がつかないって言ってたけど、本当は──うわっ! 」
 コリンの視界から、リクが消えた。
「リク⁉ 」
 足元を見ると、リクが うつぶせに倒れていた。思考に(ふけ)っていたリクは、木の幹に気がつかなかったらしい。
「リク! 大丈夫⁉ 」
 と、過保護なレアが真っ先に すっ飛んできた。
 先頭を歩くロス氏も、慌ててリクの元へ向かってくる。
「大丈夫ですか! 」
 みんなでリクを抱え起こした。膝小僧(ひざこぞう)を擦りむいただけで、おおきな怪我がないことを知ると、ホッ と息を吐いた。
「あの、ミスター・ロス? 」
 見かねたゾーイが、ロス氏に話しかける。
 もちろんロス氏はゾーイの言葉は分からない。が、自分の名が呼ばれたことは理解できたようだ。黒い目は、ゾーイを真っ直ぐに見つめている。
「さきほどボイル氏は、もういちど家を探せと言っていました。どうして森に来たんですか? 」
「えっと、あの、何を──」
 と、その時。

 ドキュン!

 銃声が、響き渡った。
 「なに、いまの音! 」
 ロス夫人が叫び声を上げた。
「銃声? 」
 音の正体に気がついたのは、ゾーイだった。
「でも、どうしてこんな山奥で──」
「キーラ! 」
 ロス夫人。
 ひどく取り乱した様子だ。
「慎重に行こう」
 (さと)すロス氏の言葉を無視して、「行かなくちゃ! あの子が困っているわ! 」と、ひとりで、音のした方へ向かっていってしまった。
「リビー! 待つんだ、リビー! 」
 妻の名前を呼びながら、ロス氏も森の奥へ奥へと駆けて行ってしまった。
「待って! 」
 リクの声に はっ となった従業員たち一行も、ロス氏の背中を追った。
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