第8話

文字数 2,163文字

 大竹さんは、シェアハウスのことを『姥捨て山』と言っている

 『姥捨て山』って、なんか響きが怖い

 でも・・・
 あたしも年を取ったら『姥捨て山』を作らなくちゃいけないのかな

 フジやんとなら、楽しい山をつくれそうだけど

 






 おじいちゃんがシェアハウスに入居してから1週間がたった。

 おじいちゃんがいなくなって、お父さんとお母さんのケンカはなくなったが会話もなく、より空気がはりつめたような感じになった。

 土日は更にはりつめ感が増す。
 二人共、会社が休みで家にいるからだ。
 だから、あたしはシェアハウスに逃げた。



 向井さんも大竹さん、いつ来てもいいって言ってくれたし
 うちなんかよりキレイだし
 シェアハウスがあって良かったかも
 それに、草太さんのカフェも見たかったしー


 と、いそいそ出かけるも、 庭にはまだ何もなく・・・
 カフェはまだ準備段階で、オープンは1ヶ月くらい先とのこと。

 そして、草太さんはニコニコしながら「リビングで大さんと優くんが揉めてるよ」と言った。


 おじいちゃんの行くところ、行くところ、問題勃発・・・

 そして、あたしが行くところ、行くところ、はりつめた空間が・・・
 


 なぜ揉めているのかというと、食事の用意や片付けをおじいちゃんは何もしておらず、向井さんや大竹さんがやっているのがおかしい、と椎名が指摘したからだ。

 また、食事以外の雑用などもやってもらってるらしい。


「健常者にはわかるまい!」

 おじいちゃんは得意のフレーズを連呼し、その声がリビングに鳴り響いている。
 だが、椎名は冷静に指摘し続けていた。

 
「ハンデをもっている人が何も出来ないってことないだろ。ハンデをもってるからって、周りの人に何でもやってもらうのはおかしい。」と椎名。
 
 そして、「重たいものを片手で持つのは大変だけど、キョウコさんやフミさんだって楽に持ててるわけじゃない。そういうことを、あんたは全くわかってない。」と言った。


 キョウコさんは大竹さんで、フミさんは向井さん
 椎名は、おばあちゃんのこと、名前で呼ぶのね・・・

「あんたとはなんだ!あんたとは」とおじいちゃん怒り爆発。

 だが椎名は続けて、「障害者の人が大変なのはわかかる。だけど、生きてる人間はみんな大変なのに、あんた、何でもやってもらうことが当たり前だと思ってるだろ。」と。


「年上の人間にそんな言葉遣いするとは、敬語も使えないのか!」

「なんで敬語を?敬語は、尊敬できる人に使うものだと思ってる。年上とか年下とか関係ない。そして、あんたは尊敬に値しない。」



 なんてことを言うのだ、この若造・・・・
 よくそこまで他人のおじいちゃんに言えるなー
 やっぱり椎名は評判通り、ヤバい奴なのだな


「おれだって、すまないと思ってる。でも、やれないから頼るしかないだろう。おれは、何にもできないんだ!」と、わーわー言っているおじいちゃんに、椎名は鏡を見せた。
 

「今のあんたを見てどう思う?」


 おじいちゃんは鏡を見つめ、しゃべらなくなった。



 椎名は無防備なおじいちゃんに追い打ちをかけた。

「何もできないって、あんたの食事は冷凍弁当をレンジで温めるだけだろ。今まで、さくらさんに任せっきりでレンジの使い方がわからないだけだよな。そして、その他のことも全部さくらさんに任せた。あんたは出来ないんじゃない。やらないだけだ」とか、「発明するって言っても、なんにも作らないで、ゴミを集めてるだけ」更には、「あんたみたいな人間が長生きして、さくらさんが先に死ぬなんてな。何もできないって言ってるけど、じゃあ、あんたは、なんで生きてるんだよ」と椎名。


 
 なぜ、椎名は波風をたてるようなことを言うのか!
 あたしの安全の地が・・・
 
 


 椎名は、次から次へと辛辣な言葉をおじいちゃんに浴びせている。

 おじいちゃんは、一気に20歳くらい年を取ったように見えた。
 精神的にボコボコにされているからか?

 そして、おじいちゃんは椎名の言葉を浴びつつ、ゆっくりと自分の部屋に入っていった。



 向井さんが「優くん、いいのよ。私たちのために言ってくれたんだろうけど、そんなに負担じゃないから大丈夫よ。」と話した。



 みんなは、これまでの歴史をなにも知らない

 なぜ、こうなったかといえば、おじいちゃんにやらせると、食事をひっくり返したりして、その後の掃除が大変になるからで、やらせなくなったこちら側の都合もあるのだよ・・・


 そのことを話そうとしたが・・・
 草太さんがカフェで出す予定のハチミツ入りハーブティーを持ってきてくれた。

 話すタイミングを逃してしまった・・・
 草太さんが持ってきてくれたハーブティーは、ソーダで割っているのでお酒みたいだった。




「かなちゃん・・・」



 とても小さい声で、誰かがあたしを呼んでいる。



「・・・かなちゃん」


 あたしをそう呼ぶのは、おばあちゃんとおじいちゃんだけ。
 おじいちゃんの部屋の方を見ると、扉が少し開いていた。



「かなちゃん・・ちょっと・・・」


 扉の隙間から、おじいちゃんが手招きしている。


 向井さんや大竹さんが小声で「かなちゃん、行ってやって。行ってやって」と、力強くジェスチャー付きで言っている。
 さり気なさが全く無いので、小声の意味はないのだが・・・


 あたしは、おじいちゃんの部屋に入っていった。
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