第34話

文字数 1,241文字





 汚点。
 思い出すと「うぎゃー!!」って悶え苦しむ奴。他人は他人なので、おれの汚点を他人は理解は出来ない。他人の汚点をおれが理解出来ないように。
 まあ、寄り添うことくらいは出来ると信じたいけど。
 よく、汚点と上手に付き合っていくんだよ、って人生訓がある。
 これはたぶん、自分のなかでの距離感の持ち方の話で、客観的に見て汚点であるものは他人の評価という点ではコントロール不可能なので、自分自身での評価をコントロールすることくらいしか出来ないんじゃないか、という話でもある。
 じゃあ、汚点と向き合うにはどうするか。
 対処療法としては、たまにガス抜きをして、肩の力を抜いていく所作を身につけることだろうな、とおれは考える。
 消えない過去の亡霊にうなされること、おれにもある。おれは経歴的にも傷だらけ。
 だが、死ぬまでもがいて生き抜く。
 意外と生きるのってつらいし奇跡なんて起こらないけど、それでも生きること、だな。


 で。
 この「汚点」の話とはなにか。
 それはもちろん牙野原の話だった。
 夜、部屋でうんうん唸りながら作詞作曲していると、夏野が電話をかけてきて、牙野原には消せない汚点がある、と言うのだ。
 その汚点とは、おっさんからお金をもらって、抱かれる〈闇バイト〉を牙野原がしていた、という内容だった。
「ああいう子は、そっちの世界に一回行くと抜け出せなくなるから、今もきっと〈ウリ〉やってるよ」
 と、夏野。

「おれにも汚点はあるが……その比ではないんだろうなぁ」
 おっさんに金をもらって脱いで、抱かせている、ということに、おれは実感が持てずに空回りした考えをしているかもしれない。
 法律?
 道徳?
 倫理?
 何故か、それらがおれのなかで牙野原と線を結ばない。

 たぶん、おれは疲れている。
 夜、寝る前に欠かさずに栄養剤を飲んでいるから忘れそうになるが、身体が眠りを欲しているのでは、と思う。
 そういうこと、あるよな。
 因果律の因と果、その中間の推測が間違っていること、あるよな。
 結果としては眠いの一点だが。
 それは疲れているからで、でも、体力が減っているか栄養剤の錠剤を飲んだりしているけど、普通に疲れていたら眠くなるので、栄養剤で回復だー、ってターンにはなってない。
 疲れているから眠い。
 疲れているから栄養剤を飲む。
 栄養剤で疲れが回復。
 でも回復しきってなければ眠いよな。
 よって、眠気を今はどうすることも出来ず、「栄養剤飲んでるのに」ってのは現時点ではそんなに関係ない。
 疲れているから眠いのだ。
 「疲れている」を「栄養剤」を通過すると「結果」が「回復した」になるか、というと、そうインスタントには、結果は出ないのだ。
 そこを間違えるから、因と果がかみ合っていないように感じてしまう。
 だが、そんなことはないのだ。

 おれは疲れていた。電話で夏野の話を聞いたら、処理が追いつかず、あたまがスパークしそうだった。
 おれは明日、保健室で緋縅先生に会う理由が出来たのだ。
 今はまず、眠ろう。


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