第14話

文字数 1,004文字





「すべてが成文化……要するに文章として書き表わすこと、がされていると思ったら大間違いなのが、いわゆる〈業界〉です。業界は業界の論理で回る。不文律がたくさんあって、じゃあ、成文化しておけばいいじゃないか、と思うでしょうが、そんなことすら〈察することすら出来ない〉人間はとっとと退場してもらう、というのが業界ですね」
 よく耳にする言葉だが、さて、本当にそうなのか?
「具体的にお願いします。歌詞を書いたときにそのトラブルが?」
「ありましたよ。ええ、そのため、曲も演奏もよかったけれども、その曲がわたしが書いたその歌詞のままで音源になることは、なかった」
「一体、なにを書いたのですか、緋縅先生。そんなに危険な歌詞を書いたのですか」
「いいえ。普通の文章でした。今はインターネットなどの配信からデビューするなんてざらになった世界だから、規制はむしろ弱くなった部分もあるのです」
「言葉狩りなんて言葉があるくらいだから、ぐっと厳しくなったのが今なのかと思った」
「ケースバイケースです」
 そうなのか、知らなかった。
 緋縅先生は、眉間にしわを寄らせて、
「本当に不愉快な話です」
 と言って、そこから話を続けた。
「ロックな楽曲だったので〈君と一緒に地獄に堕ちたい〉と歌詞をつけたのです。そこが問題になった」
「宗教的な問題ですか?」
「そこは正直わからない。けど、説明を受けたのはそれではありませんでした」
「と、言うと、どういう理由でそれがダメだったのですか」
「ラジオでオンエア出来ない、という理由です。地上波のラジオ、という意味ですね。今はネットラジオなどがあり、不文律はまた違います」
「地上波ラジオでオンエア出来ない、とはどういうことですか。なにがダメだったのですか」
「ラジオは、受験生が勉強をしながらBGMとして流す、というのが定番だったのです。だから、〈堕ちる〉が、受験と結びつくので、アウトな表現だったのです」
「はい? それだけの理由ですか」
「それだけ、ですが、わたしはそんなこともしらないような、あたまのわるい人間だ、とそこで断じられてしまった。業界追放に近いかたちになりました」
「そんな……。それだけで」
「使える人材ではなかったのです、わたしは。これが〈業界〉です。もちろん、そのことを他人に漏らすような人間はもっと御法度の存在。上っていくことは出来ません」
「そんなことってあるのですか」
「あるのですよ、残念ながら、ね」


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