【セミが消えたら、アナタもいなくなる】

文字数 3,593文字

 八月が終わってしまう。

 気づけば来週から九月、即ち八月の終了まで残り一週間となったということだ。

 例年だったら夏休みも終わりが近づき、やらずに積み上がった夏休みの宿題に絶望する小、中学生が現れる頃なのだろうけど、今年は例のアレのせいで夏休みも短いうえに、これといって外出もできず、鼻毛を抜くぐらいしか娯楽がないような状況で子供たちも辟易としていることだろうと思うのだ。

 さて、おれはというと、学生なんてものはとっくの昔に廃業してしまったのでその手の夏休みにはまったく関係がないのだけど、やはりこの時期の茜色の夕陽を眺めていると、何だか無性に虚しさが込み上げてくるのだ。

 ということは、貴様は学生時代、夏休みを随分と謳歌したんだろうなといわれるかもしれないのだけど、正直なところ、そういった記憶はほとんどない。宿題も夏休み前半には全部終わらせる比較的真面目なガキだったし、両親に連れられて旅行にもいったはずなのだけど、その記憶すらも曖昧だったりする。

 そうなると、もしかして、この記憶は何者かに植えつけられたものーーとどこかで聞いたことのあるような設定の妄想をするのだけど、そんな話は今回の話にはまったく関係ないんでここで終わり。

 そもそも夏の終わりに哲学染みた話なんかして何が面白いのか。夏っていうのはもっとこう爽やかな新鮮さと週末感を短いスパンで味わうことができる不思議な季節ではなかったのか。

 だからこそ、夕暮れ時に、薄闇の中で光る提灯の明かりも見れず、太鼓の音色も聴けなかったのがこころ残りでならないのだ。正直な話、夏が大嫌いな自分にとって唯一の例外が夏祭りのあの雰囲気だったりする。

 そんな祭囃子や薄明かりの提灯を見れないとなると、何のためにこのゴミみたいな暑さに耐えたのかわからない。夏なんてそれと水辺でのレジャーぐらいしか価値がないのに、今年はそのどれもが例のアレに殺されてしまったので、何だか満たされないというか、何というか。

 もう色々と残念なことが多すぎるんで、数年前の夏に経験したもっと残念な話をしようと思う。まぁ、ある意味ではラッキーな話なのかもしれんけどな。

 あれは四年前の八月のことだった。

 その当時のおれにはどういう間違いかわからないが、彼女がいたのだ。まぁ、そんなこというと「ウソをつくなッ!」とブチ切れる謎の勢力が押し寄せてくるかもしれないんだけど、残念ながらマジだったんだな。

 とりあえず、その子の名前を便宜上「やよいちゃん」とでもしておくかな。あと、おれのホームタウンを「五村市」、隣街を「江田市」としておくか。

 で、その日は江田市へいって色々遊ぼうってことになってたんだわ。

おれとやよいちゃんは同じ五村市に住んでいながら、住んでいるエリアが全然違うこともあって、落ち合うにも市内じゃ不便なんで、江田の駅で合流することになったワケで。電車に乗って江田市駅までいくと、やよいちゃんは既に改札前で待っており、

「待った?」

「ううん、今来たとこ」

 みたいな茶番をふたりでしっかり演じきり、おれたちはデートをおっ始めたワケだ。電車に乗らなきゃいかんのに、今来たとこって、同じ電車に乗らなきゃ絶対無理だよな。

 とりあえず合流できたので、ふたりで駅を出てストリートを歩き出したんだけど、そこでやよいちゃんが、

「◯◯神社にいきたいな」

 といい出したんですね。◯◯神社ってのは、その界隈でも有名な縁結びの神社で、夏になると入り口の周りには風鈴がぶら下がってたりして、まぁ、風流なワケだ。

 こらこら、怒るな。もう少しだから。

 というワケでやよいちゃんとふたり歩いて◯◯神社まで向かったのだ。

 道中、バカ丸だしなカップルの会話とかして、それこそ煩悩の塊みたいな非モテどもから呪詛のワードを飛ばされかねない状態を楽しんでいたのだけど、10分ほど歩いて◯◯神社に着くと、とりあえず中をグルリと回って雰囲気を味わっていたのだが、それも案外すぐに終わってしまい、次はどうしようということになって、とりあえず縁結びの御守りを買おうということになったのだ。

 それから品物を見てどれを買おうか決まったので、「よーし、じゃあ買っちゃうぞぉ!」みたいな変なテンションで腰元のサイドパックに手を伸ばしたのだーーが、

 サイドパックが開いているじゃないですか。

 おやおやぁ? 不注意ですなぁ、とヘラヘラしながらそのままサイドパックの中身をガサゴソ漁ったんです。そしたらーー

 何もないんですな。

 ……あれ、財布は?

 これはどういうことなのかな。それからもう少し念入りにサイドパックの中身を検めてみたのだけど、やはり財布がない。これには流石のおれも苦笑いですよ。

 そんなことをしていたら、やよいちゃんも顔で疑問を呈し始めまして。おれも財布がないといったんだけど、何を思ったのかおれというバカは、

「多分、財布は家に忘れて来たんだな」

 とかいい出したのだ。自分とはいえ、頭が沸いてるとしか思えんね。で、それから何を思ったのか、

 家まで戻ることにしたのだ。

 もうね、色んな意味でバグってるとしか思えんのだけど、おれは兎に角財布をなくしたということが信じられず、とりあえず自分の部屋を探りにいくことにしたのだーーやよいちゃんを連れて。

 駅に着くと、すぐさま電車に飛び乗って五村へと戻り、駅を降りるとすぐさま自宅へ走って、自室を掻き回しまくったんだけど、

 ないーーやっぱり財布がない。

 これはもう笑うしかない。いや、笑ってる場合じゃないんだけど、人間、やっちまったって時は笑うしかなく、そこで漸く財布を落としたという現実に直面することとなったのだ。

 しかし、落としたとしたらどこだ。サイドパックが開いていたとなると、どこかで財布を擦られた可能性も考えられる。しかしーー

 どこだ、どこだ……、どこだ!

 足りない頭をこね繰り回し、必死に考えた結果、とりあえず、警察に連絡するのが妥当だと判断し、とりあえずは五村の駅前交番と江田の駅前交番に電話をかけることに。

 まず一軒目、五村の駅前交番ーーいや、そのようなモノは知らないですね。

 となると、落としたのは江田市か。

 続いて二軒目、江田の駅前交番ーー

「あのぉ、先ほどですねぇ、財布を落としてしまってですねぇ……」とおれ。

「あぁ、財布ですか。どのような財布ですか?」

 と警官がそう受け答えしたんで、おや?っと思ったんです。普通、何もなければないのひとことでやり取りは終了するからな。そこでおれは、自分の財布の特徴を試しにいってみたのだ。するとーー

「確かにそういった財布が届けられていますね。えっと、中身は何ですか?」

 ビンゴ! だが、安堵するのは現物を手にしてからだと自分にいい聞かせ、おれは財布の中身をひとつ一つ思い出していったのだ。

中身、中身……。いざ自分の財布の中身を問われると困惑してしまう。中に何が入っているかは大方わかるんだけど、それが少しでも間違っていたら即NGみたいな感じになるのではと考えてしまい、どうも慎重になってしまう。

「えっと、札入れにはおおよそ……円くらい入ってますかね。で、小銭入れには、観劇した時のチケットが数枚、演目は確か……ですね。それと、白い錠剤が入ってるんですが、それは頭痛薬です。後は、まぁ、そういうゴムですね」

「そういうゴム? どういうゴムですか?」

 そこは察してくれよ。アナタも男だろう。

 とまぁ、その後、男性警官にそのゴムがどういうゴムか説明して、何とかその財布がおれのだと証明されたのだけど、遺失物の引き取りって面倒なのな。本人確認できるIDなり書類なりを二つ以上、半日以内とかに持っていかなきゃならんなんてな。

 で、そこで予定があるというやよいちゃんとは別れ、おれは孤独に走り、45分ほどで再度江田市へとたどり着くと駅前交番にて事情を説明して財布を受け取ったのだ。中身を確かめると、幸い何もなくなっておらず、おれは漸くホッと胸を撫で下ろしたのだった。

「しかしよかったですね。拾ってくれたのは、中学生の女の子だったんですけど、名前を聞こうとしたら、お礼とか大丈夫なんでってそのまんま去っていっちゃったんですよ」

 ほんと、財布を拾ってくれたのがイケメンの女子中学生で助かったわ。

 まぁ、その後紆余曲折あってやよいちゃんとはブロークアップしたんだけど、ほんといえるのは、

 身の回りのことには気をつけましょうってことだな。

 ……まったく、何をいってんだか。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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