【ナナフシギ~弐拾参~】
文字数 1,291文字
まるで幻影がそびえ立っているようだった。
「確かに、これは酷いですねぇ......」岩渕は呟いた。「この学校、何だってこんな霊道のど真ん中に建てたんでしょう」
「知らなぁい」詩織が無邪気にいった。「そんなことより、いいの?」
「何が、ですか?」
「お父さんとお母さんの近い人?ーーだからいいのかもしれないんだけどさ、でもわたしたちをこんな霊ばっかのところに連れてきちゃっていいの?」
「どういう、意味です?」
「だってさ、悪い霊がいっぱいいるところにわざわざわたしとカズくんを連れてくるなんて、どうなのかな、って」
五村西小学校の裏門近くの駐車場、ここの一角に岩渕は車を停め、真空のようになった小学校を眺めていたーー詩織、和雅を連れて。
岩渕という男はいうまでもなく、詩織たちの両親の側近に当たる男だ。ふたりからの信頼も確かなモノであるのは間違いないが、夜中の、それも悪霊漂う危険地帯に子供を連れ込もうとするのは危険以外の何物でもない。
そんな危険な場所に子供を連れていくなど、それは側近とかそういった肩書きは関係なしに、完全な越権行為といって可笑しくはない。
「それもそうですねぇ......」まるで悪びれないように岩渕はいった。「でも、キミたちを家にふたりだけ残していくワケにもいきませんからね。それに、わたしから事情を聞かれた時点で、車に潜り込んででもついてくるつもりだったのでしょう?」
岩渕の問いに、詩織は恥ずかしげに頭を掻きながら、はぐらかそうとした。
「誤魔化そうとしてもダメです」
岩渕のピシャリとしたことばに詩織ははにかみながら、
「へへぇ、バレちった」
「どうせ、事情を知らないにしても、家に残したところで、何処か出歩くか、家の中でイタズラするのでしょう」
「そこまでバレてたか」
ハニカミながらも、ドキドキを隠せていない詩織。それとは対照的に和雅は何処かつまらなそうに学校のほうを見ていた。
「カズくん、どうしたの?」
「ううん。何かぁ......」
何かをいいたげではあるが、和雅はそこから先は口にしなかった。ただ、その眼差しは真っ直ぐ学校のほうへと向いている。
「坊っちゃん」岩渕が和雅に問い掛ける。「気になることでも?」
「うーんん。何か、たいくかんが暗いなぁって」
たいくかんーーそれはいうまでもなく体育館のことだ。その体育館は夜の学校よろしく、当たり前のように真っ暗だった。
「だって夜だもん。暗いのは当たり前だよ」詩織。
「うーん」
和雅は黙り込んだ。生涯引っ込み思案で大人しい性格だった和雅も、少年の時は特にその傾向が強く、人に促して貰ってすら、まともに自分の意見をいわないような子供だった。
「行きましょうか」
岩渕がシートベルトを外すと、それに合わせて詩織もウキウキしながらベルトを外した。和雅は、依然として学校のほうを眺めていた。岩渕がふたりの少年少女のほうを振り返った。
「ひとついっておきますけど、絶対にわたしから離れないように。いいですね?」
詩織は、はーいと元気良く返事した。和雅は相変わらずだった。
「......なら、よろしいです」
岩渕は口許を弛ませた。
【続く】
「確かに、これは酷いですねぇ......」岩渕は呟いた。「この学校、何だってこんな霊道のど真ん中に建てたんでしょう」
「知らなぁい」詩織が無邪気にいった。「そんなことより、いいの?」
「何が、ですか?」
「お父さんとお母さんの近い人?ーーだからいいのかもしれないんだけどさ、でもわたしたちをこんな霊ばっかのところに連れてきちゃっていいの?」
「どういう、意味です?」
「だってさ、悪い霊がいっぱいいるところにわざわざわたしとカズくんを連れてくるなんて、どうなのかな、って」
五村西小学校の裏門近くの駐車場、ここの一角に岩渕は車を停め、真空のようになった小学校を眺めていたーー詩織、和雅を連れて。
岩渕という男はいうまでもなく、詩織たちの両親の側近に当たる男だ。ふたりからの信頼も確かなモノであるのは間違いないが、夜中の、それも悪霊漂う危険地帯に子供を連れ込もうとするのは危険以外の何物でもない。
そんな危険な場所に子供を連れていくなど、それは側近とかそういった肩書きは関係なしに、完全な越権行為といって可笑しくはない。
「それもそうですねぇ......」まるで悪びれないように岩渕はいった。「でも、キミたちを家にふたりだけ残していくワケにもいきませんからね。それに、わたしから事情を聞かれた時点で、車に潜り込んででもついてくるつもりだったのでしょう?」
岩渕の問いに、詩織は恥ずかしげに頭を掻きながら、はぐらかそうとした。
「誤魔化そうとしてもダメです」
岩渕のピシャリとしたことばに詩織ははにかみながら、
「へへぇ、バレちった」
「どうせ、事情を知らないにしても、家に残したところで、何処か出歩くか、家の中でイタズラするのでしょう」
「そこまでバレてたか」
ハニカミながらも、ドキドキを隠せていない詩織。それとは対照的に和雅は何処かつまらなそうに学校のほうを見ていた。
「カズくん、どうしたの?」
「ううん。何かぁ......」
何かをいいたげではあるが、和雅はそこから先は口にしなかった。ただ、その眼差しは真っ直ぐ学校のほうへと向いている。
「坊っちゃん」岩渕が和雅に問い掛ける。「気になることでも?」
「うーんん。何か、たいくかんが暗いなぁって」
たいくかんーーそれはいうまでもなく体育館のことだ。その体育館は夜の学校よろしく、当たり前のように真っ暗だった。
「だって夜だもん。暗いのは当たり前だよ」詩織。
「うーん」
和雅は黙り込んだ。生涯引っ込み思案で大人しい性格だった和雅も、少年の時は特にその傾向が強く、人に促して貰ってすら、まともに自分の意見をいわないような子供だった。
「行きましょうか」
岩渕がシートベルトを外すと、それに合わせて詩織もウキウキしながらベルトを外した。和雅は、依然として学校のほうを眺めていた。岩渕がふたりの少年少女のほうを振り返った。
「ひとついっておきますけど、絶対にわたしから離れないように。いいですね?」
詩織は、はーいと元気良く返事した。和雅は相変わらずだった。
「......なら、よろしいです」
岩渕は口許を弛ませた。
【続く】