第73話 第三章/銅鏡の秘密 道のり -2
文字数 1,838文字
最初に出てきた兵士が、それを見て、銃を構えて引き金に指をかけた、
――それより早く、
壁の外側から飛び出した手刀が銃を打ち落とし、足を払って転んだ腹を衝きました。
塀によじのぼっていた武術家たちは、
狭い通路で揉みあう兵士のなかに飛びこむと、
間合いの封じられた銃を打ち払い、首と腹と背中の急所に手刀と蹴りをあびせました。
たまらず塀の外へと転がり出てきた兵士たちは、
剣と棒をかまえた武術家たちを見て、
打たれるより早く逃げ去りました。
こうして刑場は、
ゼムラと死刑執行人だけになりました。
そして――、
中に入った武術家たちが無抵抗な執行人をとり押さえ、ゼムラに向きあったそのとき、
サムとナジムが門を開いて刑場のなかへと踏み入りました。
門の中は――、
玉砂利の敷き詰められた広大な空間になっていて、玉砂利を切り分けて真っすぐに延びた石畳が、山を削った崖に打 ち当 たったそこに――、
空間を横切る、
真っ白な十字架が並んで立っておりました。
石畳に沿うように建てられた建物の広間からは、広場の全景が見渡せるようになっていて、本来そこには、一族の面面がならんで座っているはずの造りでしたが、
一族のすがたはすでになく、
広間の中央に祀られた祭壇を背に、ゼムラ一人が座しておりました。
「まさか……、このような結末になろうとはな」
左手に盃を翳すゼムラの顔からはすでに酔いの色が褪 めていましたが、
火傷の痕 が、
その面 を火照らせて見せました。
ゼムラは、盃に最期の酒を酌むと、
「サム! これがおわりとおもうなよ。
――我が神は、不滅なのだ!」
そう言って、盃を空け、投げすてて、
懐に仕舞っていた銃を抜きだして自らのこめかみに押し当てました。
しかし、
「はやまるな!」と叫んだサムの声より早く、
達人の投げた針がゼムラの左手の甲に突き立っておりました。
手のなかにあった銃はひざに跳ねて床にころげおち、
それをひろい上げようとゼムラが腰をかがめると、
背後にまわりこんだ達人の手がその腕をひねりあげ、高座にあったからだを玉砂利の上にひきずり下ろしました。
「……その手を、はなしてあげてください」
サムのことばで腕が解かれると、
ゼムラは膝をおり、
その場にくずれました。
サムは、ゼムラのまえにきて、
ひざまずくと、
「ゼムラ……。
過去における、我らの先祖が行ったそなたたち先祖への酷き仕打ち、
わたしは、
そなたによってはじめて知らされました。
真実、わたしの先祖が、そなたの先祖から奪ったものによって王になったのであれば、
わたしは、
この身に、その罰を受けます!
しかし……ゼムラ、
そなたの為した、
国民を誑 かし、己の復讐心のままに〝マギラ〟を乱用し、人間の尊厳を貶 めた罪については、
かならずや、
その身に天罰が下ると覚悟をするのだ!」
そう言って立ち上がると、ふりかえり、ナジムと村人のまえにすすんで、
「ナジムや、ゆるしておくれ。
わたしは、わたしの血の中に負うた罪を償うために行かねばなりません」
ナジムは、
「おまちください。おじいさま!
それが真実であるのなら、それは、わたしが負うべき務めでもあります!
どうか――、いっしょに連れていってください!」
サムは、そんなナジムのからだを抱きよせて、
「ナジムや、わたしはまもなく八十五歳になる。
もう先がないのだ。
わたしは残された命を賭けて、『罪の癒やされる』と伝え聞く、
きっとそこに、償いとなるものが用意されてゆくのでありましょう。
ナジム、おまえはあたらしい王となり、この国を立て直してゆくのだ。
――よいな!」
ナジムは、
『そうだ……、わたしには、祖父のねがいとともに、
父の果たせなかったねがいをも成し遂げなければならない責務があるのだ!』
と……、そのことばのうちに思いを馳せました。
「ナジムや、おまえも識っているように、〝マギラ〟が〝悪〟なのではありません。
〝マギラ〟はその反面に、人間をよりよくみちびく力も隠しもっています。
――しかし、その力を自由に扱うには、人間はまだまだ幼く、長い時間が必要なのです。
おまえはこれから、その隠れた力のひとつひとつを、
人びとの理解できるかたちに表して、
人類進化に役立つものへとみちびいてゆかなければなりません。
それこそが、ゼムラと一族に対する償いになるのです。
わたしは、過去の償いにむかいます。
ナジム、おまえは、未来につながる道を切り拓いていっておくれ――」
サムは抱きしめる腕に力を込めました。
――それより早く、
壁の外側から飛び出した手刀が銃を打ち落とし、足を払って転んだ腹を衝きました。
塀によじのぼっていた武術家たちは、
狭い通路で揉みあう兵士のなかに飛びこむと、
間合いの封じられた銃を打ち払い、首と腹と背中の急所に手刀と蹴りをあびせました。
たまらず塀の外へと転がり出てきた兵士たちは、
剣と棒をかまえた武術家たちを見て、
打たれるより早く逃げ去りました。
こうして刑場は、
ゼムラと死刑執行人だけになりました。
そして――、
中に入った武術家たちが無抵抗な執行人をとり押さえ、ゼムラに向きあったそのとき、
サムとナジムが門を開いて刑場のなかへと踏み入りました。
門の中は――、
玉砂利の敷き詰められた広大な空間になっていて、玉砂利を切り分けて真っすぐに延びた石畳が、山を削った崖に
空間を横切る、
真っ白な十字架が並んで立っておりました。
石畳に沿うように建てられた建物の広間からは、広場の全景が見渡せるようになっていて、本来そこには、一族の面面がならんで座っているはずの造りでしたが、
一族のすがたはすでになく、
広間の中央に祀られた祭壇を背に、ゼムラ一人が座しておりました。
「まさか……、このような結末になろうとはな」
左手に盃を翳すゼムラの顔からはすでに酔いの色が
火傷の
その
ゼムラは、盃に最期の酒を酌むと、
「サム! これがおわりとおもうなよ。
――我が神は、不滅なのだ!」
そう言って、盃を空け、投げすてて、
懐に仕舞っていた銃を抜きだして自らのこめかみに押し当てました。
しかし、
「はやまるな!」と叫んだサムの声より早く、
達人の投げた針がゼムラの左手の甲に突き立っておりました。
手のなかにあった銃はひざに跳ねて床にころげおち、
それをひろい上げようとゼムラが腰をかがめると、
背後にまわりこんだ達人の手がその腕をひねりあげ、高座にあったからだを玉砂利の上にひきずり下ろしました。
「……その手を、はなしてあげてください」
サムのことばで腕が解かれると、
ゼムラは膝をおり、
その場にくずれました。
サムは、ゼムラのまえにきて、
ひざまずくと、
「ゼムラ……。
過去における、我らの先祖が行ったそなたたち先祖への酷き仕打ち、
わたしは、
そなたによってはじめて知らされました。
真実、わたしの先祖が、そなたの先祖から奪ったものによって王になったのであれば、
わたしは、
この身に、その罰を受けます!
しかし……ゼムラ、
そなたの為した、
国民を
かならずや、
その身に天罰が下ると覚悟をするのだ!」
そう言って立ち上がると、ふりかえり、ナジムと村人のまえにすすんで、
「ナジムや、ゆるしておくれ。
わたしは、わたしの血の中に負うた罪を償うために行かねばなりません」
ナジムは、
「おまちください。おじいさま!
それが真実であるのなら、それは、わたしが負うべき務めでもあります!
どうか――、いっしょに連れていってください!」
サムは、そんなナジムのからだを抱きよせて、
「ナジムや、わたしはまもなく八十五歳になる。
もう先がないのだ。
わたしは残された命を賭けて、『罪の癒やされる』と伝え聞く、
彼の地
をめざして旅に出ます。きっとそこに、償いとなるものが用意されてゆくのでありましょう。
ナジム、おまえはあたらしい王となり、この国を立て直してゆくのだ。
――よいな!」
ナジムは、
『そうだ……、わたしには、祖父のねがいとともに、
父の果たせなかったねがいをも成し遂げなければならない責務があるのだ!』
と……、そのことばのうちに思いを馳せました。
「ナジムや、おまえも識っているように、〝マギラ〟が〝悪〟なのではありません。
〝マギラ〟はその反面に、人間をよりよくみちびく力も隠しもっています。
――しかし、その力を自由に扱うには、人間はまだまだ幼く、長い時間が必要なのです。
おまえはこれから、その隠れた力のひとつひとつを、
人びとの理解できるかたちに表して、
人類進化に役立つものへとみちびいてゆかなければなりません。
それこそが、ゼムラと一族に対する償いになるのです。
わたしは、過去の償いにむかいます。
ナジム、おまえは、未来につながる道を切り拓いていっておくれ――」
サムは抱きしめる腕に力を込めました。