第52話 第二章/ふたつの葛藤 新たな政策 -1
文字数 2,333文字
新たな国造りは、まず七人の男たちの家族を呼びよせることからはじめられ、そして新たな法が、サムとナジムと七人の男たちによって策定 されてゆきました。
新たな法の冒頭には、
【〝マギラ〟を国の管理とし、その使用方法を制限する】と、
〝マギラ〟の規制に関する条文が掲 げられ、
つづく、
【子どもの養育 について】と題された条文では、
『人は、その幼少期において、生きる基盤の形成される、人生で最も重要な時期を迎えるのであり、親は、子が成長するために必要となる能力の育まれるこの期間に、最大限の『愛』をもって応 えてゆくべきである。
したがって、
自己と他の区別の安らかに形成されるまでのこの期間を、保護期間とし、
〝マギラ〟の使用を固く禁じ、
親の愛(あるいはそれに相応 する愛)の滞 りなく与えられるべき期間と定める』
――として、
つづく項では、
『一つ、川辺に住む子どもを含むすべての子どもに、教育の場を与え、
互いの違いを考える機会をつくり、
はなしあいの時間を設け、
それを見守り、
両者の交わりを円滑にすすめることを教育現場の主眼とし、
個々の個性の損なわれることがないよう、
しかも、
たがいが彩り豊かに交わり合える。
そのような教室づくりをめざす』
――として、
つづく項では、
『一つ、親としての自覚と責任感を養う場をつくり、
子どもたちが、街のなかや危険な場所で孤立することがないよう、
親の側の体制を整える』
……等々。
そして――、
『学校教育は、
〝ひとりひとりの個性を、異種多様な全体性の中で健 やかにはぐくみ育ててゆくこと〟を、本文とするのであり、
教師と保護者が、ひとりひとりの個性にそったはなしあいをおこない、
ひとりひとりの成長にあわせた教育方針を導きだして、
また、その努力を惜しみなく積み重ねることで、
子どもとの信頼関係を、強固に形成してゆくものである。』
とむすびました。
また【医療について】と題された条文では、
『医療は、すべての国民に平等に与えられるものとし、
とくに弱者や年寄りには、より手厚い医療を、
わかり易 く丁寧 に施 すこととする』……等々、
と、各項目がつづき、
最後に、
『以上の内容を遂行 するに当たり、必要であると認められる場合に限り、
〝マギラ〟の使用を認める』
として、大凡 の骨子 を纏 めあげました。
かつて、コボルの社会でルイの組織に学んだことや、
ナジムが川辺の人びととの生活から学んだこと、
そして、ハン王子の妻サラの意見を王子の代弁 として、
さらには、ヨーマたち七人の男たちの意見もとりいれながら策定された法案は、
新たな法として制定されてゆきました。
こうして、
ナジムのはなしから立ちあげられた新たな国の政策は、ヨーマをリーダーとする七人の男たちに托 されることになり、
サムは、七人の男たちの下ではたらく家臣を募 りました。
それは、ゼムラ政権に対する決別のメッセージでありました。
この新たなに組織に集まったのは、サムの帰りを待ち侘 びながら、ゼムラの及ぼす脅威に怯える毎日を送っていた一部の重臣と、
ゼムラの政策に不満を抱く若い家臣たち、
中でもとりわけ多かったのが、身分のことよりも、
家族の安寧 を願う家臣たちでした。
こうして、サムの生還という国の一大事件にはじまった新たな政権の誕生は、
ゼムラの暫定 政権に不安を抱く人びとにとっての希望の灯火 となりました。
新たに創設された国の行政機関の責任者に任命された七人の男たちには、
つぎの任務が托されました。
ヨーマには、
国民ひとりひとりの能力に応じて、
もっとも生 き甲斐 の感じられる仕事を、
希望にそって按排 し、
かつ、能力を高める修練と、能力を引きだす養成とを兼ね備えた職場環境に整えてゆく。
……という、多重の任務が託されました。
そのどれもが、相当の時間と労力の必要とされる作業に思われましたが、
相互の関係が密接に関わることで、相乗効果 を生みだすことを発見したヨーマは、
その責任感とやり甲斐に身を震わせ、大きな喜びをもって任務の遂行に邁進 しました。
この取り組みが、後に、他の部署への刺激となり、お互いがお互いの感性を高めあい、磨きあう、組織全体の活性化につながってゆきました。
若いころ、〝マギラ〟の原料となる鉱石の採掘場ではたらいていたシロには、
〝マギラ〟の管理が任されました。
そこでシロはまず、
〝マギラ〟の生産量を三分の一に削減し、各種の機能に倫理的 規範 を設け、
また年齢に相応した機能制限や使用時間の制限など、個々の状況に応じた内容については、仲間たちの意見も交えながら、試行錯誤をくりかえして、度重なる改訂で対処してゆきました。
あらゆる材料を使ってさまざまな道具を作ることの得意だったヤルキーには、子どもたちが学校であつかう新たな教材の開発が任 されました。
ヤルキーは、
あたらしくなった教室に子どもと親たちを集めると、
その前に立ち、
両手を広げたほどの長さの棒を片手に持ち、
それを頭上に掲げて――、
「さて。これはいったいなんでしょう?」
と、問いました。
そして子どもたちに、
「好きな棒をえらんでください」
と、用意した材料のなかから好きな長さの棒を持たせて、
「さて、
すると子どもたちは、
「ぼう」
「き」
「えだ」
「えんぴつ」
「けん」
「バット」
「てっぽぉー」などなど好きに答えました。
つぎに、四角い板をとりだしたヤルキーは、
板の真ん中あたりに錐 で穴を空け、
棒の片側にも同じように穴を空けて、
穴と穴をネジでつなぎ合わせて、床の上に立てました。
そして――、
「じゃー、これはなんですか?」と、子どもたちに板を配りながら、
「どうぞ、お父さんお母さんも手伝って、好きなものにしてください」と呼びかけました。
新たな法の冒頭には、
【〝マギラ〟を国の管理とし、その使用方法を制限する】と、
〝マギラ〟の規制に関する条文が
つづく、
【子どもの
『人は、その幼少期において、生きる基盤の形成される、人生で最も重要な時期を迎えるのであり、親は、子が成長するために必要となる能力の育まれるこの期間に、最大限の『愛』をもって
したがって、
自己と他の区別の安らかに形成されるまでのこの期間を、保護期間とし、
〝マギラ〟の使用を固く禁じ、
親の愛(あるいはそれに
――として、
つづく項では、
『一つ、川辺に住む子どもを含むすべての子どもに、教育の場を与え、
互いの違いを考える機会をつくり、
はなしあいの時間を設け、
それを見守り、
両者の交わりを円滑にすすめることを教育現場の主眼とし、
個々の個性の損なわれることがないよう、
しかも、
たがいが彩り豊かに交わり合える。
そのような教室づくりをめざす』
――として、
つづく項では、
『一つ、親としての自覚と責任感を養う場をつくり、
子どもたちが、街のなかや危険な場所で孤立することがないよう、
親の側の体制を整える』
……等々。
そして――、
『学校教育は、
〝ひとりひとりの個性を、異種多様な全体性の中で
教師と保護者が、ひとりひとりの個性にそったはなしあいをおこない、
ひとりひとりの成長にあわせた教育方針を導きだして、
また、その努力を惜しみなく積み重ねることで、
子どもとの信頼関係を、強固に形成してゆくものである。』
とむすびました。
また【医療について】と題された条文では、
『医療は、すべての国民に平等に与えられるものとし、
とくに弱者や年寄りには、より手厚い医療を、
わかり
と、各項目がつづき、
最後に、
『以上の内容を
〝マギラ〟の使用を認める』
として、
かつて、コボルの社会でルイの組織に学んだことや、
ナジムが川辺の人びととの生活から学んだこと、
そして、ハン王子の妻サラの意見を王子の
さらには、ヨーマたち七人の男たちの意見もとりいれながら策定された法案は、
新たな法として制定されてゆきました。
こうして、
ナジムのはなしから立ちあげられた新たな国の政策は、ヨーマをリーダーとする七人の男たちに
サムは、七人の男たちの下ではたらく家臣を
それは、ゼムラ政権に対する決別のメッセージでありました。
この新たなに組織に集まったのは、サムの帰りを待ち
ゼムラの政策に不満を抱く若い家臣たち、
中でもとりわけ多かったのが、身分のことよりも、
家族の
こうして、サムの生還という国の一大事件にはじまった新たな政権の誕生は、
ゼムラの
新たに創設された国の行政機関の責任者に任命された七人の男たちには、
つぎの任務が托されました。
ヨーマには、
国民ひとりひとりの能力に応じて、
もっとも
希望にそって
かつ、能力を高める修練と、能力を引きだす養成とを兼ね備えた職場環境に整えてゆく。
……という、多重の任務が託されました。
そのどれもが、相当の時間と労力の必要とされる作業に思われましたが、
相互の関係が密接に関わることで、
その責任感とやり甲斐に身を震わせ、大きな喜びをもって任務の遂行に
この取り組みが、後に、他の部署への刺激となり、お互いがお互いの感性を高めあい、磨きあう、組織全体の活性化につながってゆきました。
若いころ、〝マギラ〟の原料となる鉱石の採掘場ではたらいていたシロには、
〝マギラ〟の管理が任されました。
そこでシロはまず、
〝マギラ〟の生産量を三分の一に削減し、各種の機能に
また年齢に相応した機能制限や使用時間の制限など、個々の状況に応じた内容については、仲間たちの意見も交えながら、試行錯誤をくりかえして、度重なる改訂で対処してゆきました。
あらゆる材料を使ってさまざまな道具を作ることの得意だったヤルキーには、子どもたちが学校であつかう新たな教材の開発が
ヤルキーは、
あたらしくなった教室に子どもと親たちを集めると、
その前に立ち、
両手を広げたほどの長さの棒を片手に持ち、
それを頭上に掲げて――、
「さて。これはいったいなんでしょう?」
と、問いました。
そして子どもたちに、
「好きな棒をえらんでください」
と、用意した材料のなかから好きな長さの棒を持たせて、
「さて、
それは
なんですか?」と……、問いました。すると子どもたちは、
「ぼう」
「き」
「えだ」
「えんぴつ」
「けん」
「バット」
「てっぽぉー」などなど好きに答えました。
つぎに、四角い板をとりだしたヤルキーは、
板の真ん中あたりに
棒の片側にも同じように穴を空けて、
穴と穴をネジでつなぎ合わせて、床の上に立てました。
そして――、
「じゃー、これはなんですか?」と、子どもたちに板を配りながら、
「どうぞ、お父さんお母さんも手伝って、好きなものにしてください」と呼びかけました。