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文字数 1,219文字

自分の叫び声が聞こえた気がした。
恐怖に目を見開くと、さっきとは違う場所にいる。

おれの部屋のベッドの上だ。
さっきのは、夢? 夢だよな? よかった……。

全身に力がこもって強張り、いやな汗をしっとりかいている。
夢の中で噛まれた首筋にそっと触れてみる。痛みと快感がないまぜになったような、くすぐったいような感覚がまだ残っている気がした。


「おはよう」

いつもどおり迎えに来てくれた秀明を見て、まず安堵を感じ、それから少し悔しさを感じた。同い年であるこいつに、すっかり頼りきって甘えていることに気づいたからだった。

「おはよ」
わざとそっけなく言って助手席に乗り込むと、秀明は
「元気ない?」
と、おれの様子がおかしいことを一瞬で見抜いて聞いてきた。

「え? 別に普通だよ」

「嘘だ。絶対変だよ。どうした? お父さんと話したの?」

「いや、違うよ。ちょっと変な夢見ちゃっただけ」

しつこく聞いてくるのでつい白状してしまう。あまりにも恐ろしい夢だったので、誰かに聞いてほしいという気持ちもあった。

「どんな夢?」

「……富川さんに首を噛まれる夢。怖かった」

「ただの夢だろ? 大丈夫だよ。そうならないように、おれがついてるんだから」

秀明はおれの頭をくしゃくしゃにかき回しながら言った。たったそれだけで、胸に火を灯されたかのようにあたたかくなった。

「うん……」

秀明はにっと笑った。
「よし。じゃあ、車出すからな」


運転中、秀明は何か考えているようにしばらくの間黙っていた。そしてややためらうように口を開いた。

「あのさ、余計なお世話かもしれないけど、やっぱりお父さんと話してみた方がいいんじゃないかな」

「だからそれは無理だって。とても聞ける気がしないよ」

「でもお父さんが富川さんの居場所を知ってる可能性だってあるだろ」

そういえば、おれはその可能性について考えていなかった。
父さんと富川さんの関係はとっくに終わったことだと思っていたからだけど、今でも二人が連絡を取り合っているということもありえなくはないのだ。

「今でも会ってるって意味で言ってるわけじゃなくて、何か手がかりになるようなことを知ってるかもしれないってことだよ」

おれが黙っていたからか、秀明があわてて弁明するように言った。

「そうかもしれないな」

ぼんやりと沈んだ声で答えてしまい、また秀明を心配させてしまったかなと思ったけど、そのまま黙っていた。

それにしてもどうしておれがこんな目に合わなくてはいけないのだろう。
たしかに馬鹿なことをしたかもしれないけど、富川さんに悪いことをしたのはおれじゃなくて父さんだ。それなのにどうしておれがこんな体にされて、こんなに悩まなくてはいけないのだろう。悪いのは父さんなのに。

「大丈夫だよ、亮。あれこれ悩んでるよりも行動した方がいい」

「うん」

秀明の言うとおりだ。父さんと話すのは気がすすまないけど、このまま黙っていればどんどん気持ちが落ち込んでいってしまうだろう。
今夜、父さんと話をしてみよう。


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