16
文字数 1,375文字
二階にある秀明の部屋は、物が少ないさっぱりした印象でいかにも秀明らしい部屋だった。
秀明がドアにストッパーをかけて固定しているのを見ながら、ちゃんとおれのことをオメガ扱いしてくれているんだと、くすぐったいような変な気分になる。
待てよ? オメガ扱いしてくれてる?
それじゃあまるで、おれがオメガ扱いされて喜んでるみたいじゃないか。
「どうだった? 母さんと話してみて、少しは安心できた?」
作業を終えた秀明に話しかけられて、混乱していた意識をあわてて引き戻した。
「うん。なんか気が楽になった。和也さんすごくいい人で話しやすかったし、来てよかったよ」
「そっか、よかった。じゃあゲームしようぜ。スマブロでいい?」
にこっと笑って言い、ゲームの準備をはじめた秀明の背中を見ながら、さっき感じたくすぐったさの正体が何なのか、少しわかった気がした。
きっとおれは、秀明がおれのことを思いやってくれていることがうれしかったんだ。
テレビゲームをやるのはすごく久しぶりだった。なかなか勝てなくてしばらく熱中していると、「秀、ちょっといいか?」と男性の声が聞こえた。
入口からだれかの顔がひょこっとのぞいて、一瞬、和也さんかと思ったけどそうではなかった。
「兄ちゃん! なんでいるんだよ?」
その人は和也さんに目元がよく似ていたけど、背はずっと高くて秀明と同じくらいあり、少し軽そうな雰囲気で、硬派な秀明とは正反対のタイプに見えた。
「母さんから煮豆取りに来いって言われててさ」
「ああ、あれか。悪いけど、今友達が来てるんだよ」
「そうらしいな。どうも、秀明がいつもお世話になってます」
お兄さんはへらっと笑っておれに会釈して前に進みでた。
「こ、こんにちは」
おれは反射的に半歩後ずさった。
「なに入ってこようとしてるんだよ」
秀明がお兄さんを部屋に入れまいとするようにその前に立ちふさがる。
「なんだよ、べつにいいだろ? 秀がオメガの友達連れてきたって、母さんうれしそうだったぜ? お友達、イケメンじゃん」
「やめろってば! もう向こう行ってろよ!」
「そんな怒らなくてもいいだろ? あ、なんかごめんね。ごゆっくり」
秀明はお兄さんを押し出して廊下に追いやった。めずらしく興奮した様子で、頬を紅潮させている。
「ごめんな。兄ちゃんが家にいると落ち着かないからもう出よう。そのかわりドライブ行かないか?」
「ドライブ? どこに?」
「T山公園。今から行けば夕日に間に合うよ。行かない?」
「行きたい!」
支度をして階段を降り、秀明がリビングに声をかけた。
「母さん、亮送ってくるから」
「え、もう帰っちゃうの? うちで夕飯食べて行けばいいのに」
「いいんだよ。そろそろ父さんも帰ってくるし、兄ちゃんまでいるし、亮が緊張するだろ?」
「うーん、それもそうか。じゃあ、せめて煮豆持ってってよ」
「いいよ。ふつう友達にそんなの持たせたりしないだろ」
「いいから。ちょっと待っててね」
玄関で靴をはいて待っていると、間もなく和也さんがパタパタとスリッパの音をさせて出て来た。
「亮くん、これたいしたものじゃないけど、お母さんによろしく伝えて。今度ゆっくり遊びに来てね」
「はい。今日は本当にありがとうございました」
「またおいで」
お兄さんもリビングから顔を出して手をふってくれた。
「兄ちゃんはいいから! 行こう」
秀明に手を引かれ、玄関をあとにした。
秀明がドアにストッパーをかけて固定しているのを見ながら、ちゃんとおれのことをオメガ扱いしてくれているんだと、くすぐったいような変な気分になる。
待てよ? オメガ扱いしてくれてる?
それじゃあまるで、おれがオメガ扱いされて喜んでるみたいじゃないか。
「どうだった? 母さんと話してみて、少しは安心できた?」
作業を終えた秀明に話しかけられて、混乱していた意識をあわてて引き戻した。
「うん。なんか気が楽になった。和也さんすごくいい人で話しやすかったし、来てよかったよ」
「そっか、よかった。じゃあゲームしようぜ。スマブロでいい?」
にこっと笑って言い、ゲームの準備をはじめた秀明の背中を見ながら、さっき感じたくすぐったさの正体が何なのか、少しわかった気がした。
きっとおれは、秀明がおれのことを思いやってくれていることがうれしかったんだ。
テレビゲームをやるのはすごく久しぶりだった。なかなか勝てなくてしばらく熱中していると、「秀、ちょっといいか?」と男性の声が聞こえた。
入口からだれかの顔がひょこっとのぞいて、一瞬、和也さんかと思ったけどそうではなかった。
「兄ちゃん! なんでいるんだよ?」
その人は和也さんに目元がよく似ていたけど、背はずっと高くて秀明と同じくらいあり、少し軽そうな雰囲気で、硬派な秀明とは正反対のタイプに見えた。
「母さんから煮豆取りに来いって言われててさ」
「ああ、あれか。悪いけど、今友達が来てるんだよ」
「そうらしいな。どうも、秀明がいつもお世話になってます」
お兄さんはへらっと笑っておれに会釈して前に進みでた。
「こ、こんにちは」
おれは反射的に半歩後ずさった。
「なに入ってこようとしてるんだよ」
秀明がお兄さんを部屋に入れまいとするようにその前に立ちふさがる。
「なんだよ、べつにいいだろ? 秀がオメガの友達連れてきたって、母さんうれしそうだったぜ? お友達、イケメンじゃん」
「やめろってば! もう向こう行ってろよ!」
「そんな怒らなくてもいいだろ? あ、なんかごめんね。ごゆっくり」
秀明はお兄さんを押し出して廊下に追いやった。めずらしく興奮した様子で、頬を紅潮させている。
「ごめんな。兄ちゃんが家にいると落ち着かないからもう出よう。そのかわりドライブ行かないか?」
「ドライブ? どこに?」
「T山公園。今から行けば夕日に間に合うよ。行かない?」
「行きたい!」
支度をして階段を降り、秀明がリビングに声をかけた。
「母さん、亮送ってくるから」
「え、もう帰っちゃうの? うちで夕飯食べて行けばいいのに」
「いいんだよ。そろそろ父さんも帰ってくるし、兄ちゃんまでいるし、亮が緊張するだろ?」
「うーん、それもそうか。じゃあ、せめて煮豆持ってってよ」
「いいよ。ふつう友達にそんなの持たせたりしないだろ」
「いいから。ちょっと待っててね」
玄関で靴をはいて待っていると、間もなく和也さんがパタパタとスリッパの音をさせて出て来た。
「亮くん、これたいしたものじゃないけど、お母さんによろしく伝えて。今度ゆっくり遊びに来てね」
「はい。今日は本当にありがとうございました」
「またおいで」
お兄さんもリビングから顔を出して手をふってくれた。
「兄ちゃんはいいから! 行こう」
秀明に手を引かれ、玄関をあとにした。
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