第4話 “1000年に1人の逸材” からZ世代トップランナーへ【福岡県】

文字数 3,670文字

橋本環奈(はしもと・かんな、1999-)

 橋本環奈の出身地・福岡県福岡市に、DRUM-LOGOSという老舗ライブハウスがあります。収容キャパが最大1000人で、段差がありステージが見えやすく、天井が高く開放感があるのが利用者に好評です。
「“1000年に1人”のかわいいローカルアイドルって、いったいどんな子なんだろう?」。そんな興味に誘われて、筆者がここを訪れたのは2015年12月30日のことでした。
 その頃、橋本はまだ、福岡のご当地アイドルグループRev. from DVL(レブ・フロム・ディーブイエル)の一員でした。グループ自体の全国的な知名度は、ほぼなかったといってよいと思います。

初期から遠方ファンが駆けつける人気ぶり

 DRUM-LOGOSは老舗といっても中小規模のライブハウスですから、建物内に広い待合フロアがあるわけではありません。開演前、観客は建物の外側に並ばせられるのですが、都合がよいことに、小さな道路をはさんだ向かいが公共の公園になっていて、比較的ゆったりと待ち時間を過ごすことができます。
 そして、この待っている間に、筆者のようなライトなファンは、歴戦のコアなファンたちの生態を観察したり、ファン同士が交わす会話から情報を得たりする楽しみがあるのです。すると、もうこの時点で、橋本環奈を見に、わざわざ遠方の東京から参戦している青年がいました。「すごい人気だな」と実感したことを覚えています。
 さて、ステージの方は、もちろん立ち見で、橋本人気でぎゅうぎゅうでしたが、初めてみる橋本は、うわさ通り美少女で、若く元気で、そして小柄でした。
 その後筆者は、とくに連続して橋本に注目していたわけではありませんが、本当に見るたびに大物になっていく感じで、驚かされることの連続でした。
 しかし、何といっても、橋本の現在に至る人気の口火を切ったのは、2013年にあるファンが撮った「奇跡の一枚」といわれる写真であり、“1000年に1人”というキャッチフレーズだったと思います。今回はそのあたりを掘り下げることにしました。

“1000年に1人”は誰がどのようにして付けたのか

 実は、筆者は本稿執筆まで、「奇跡の一枚」を撮ったアマチュアカメラマンである「博多のタケ」さんが“1000年に1人”の名付け親かと思っていました。ところが調べていくとどうも違うようで、NAVERまとめサイトで【千年に一人の逸材】のタイトルが付与されたのが発端のようです。
 うわさがインターネットで拡散していく場合、「不確実な情報(うわさ)」と「証拠」の2つの間を情報を受けた側が実際に確認し、それに自分の判断を付加させ(増幅)、今度は情報の発信者となって拡散していくという流れになると思います。その点で、橋本環奈の今日の成功につながる最初の発端をつくった功労者は、2人いた(かわいい写真を撮った人と、注目されるフレーズを作り出した人)ということになります。本稿では、とくに後者の「不確実な情報(うわさ)」に該当する【千年に一人の逸材】のフレーズの方に焦点をあてさらに探ってみることにしました。

源流はごく普通の人材登用判断。それが「比喩」に転化

 まず、時系列でこの情報拡散現象を確認すると、「博多のタケ」さんが「奇跡の一枚」を撮って自身のブログに載せたのが2013年5月3日。そして、NAVERまとめサイトで【千年に一人の逸材】のタイトルが付与されたのが2013年11月のようでした。つまり、半年間は、“1000年に1人”がない状態で、写真のかわいさだけで盛り上がっていた期間があったわけです。
 しかし、2013年11月以降は、「不確実な情報(うわさ)」に“1000年に1人”というより分かりやすく、注目を集めやすいキラーワードが加わり進化したことで、何らかニュースのタイトルが必要なTVなどのメジャーメディアに取り上げられ易くなり、第2次情報拡散の流れへとつながっていったのではないかと考えます。
 そして、【千年に一人の逸材】の文言の源流をたどっていくと、1999年8月の『モーニング娘。』第2回追加オーディションの合格者・後藤真希(ごとう・まき、1985-)に対し、プロデューサーのつんく♂が述べた「10年に1人の逸材」という言葉にたどりつくみたいでした。NAVERまとめサイトの人は、おそらくこれをアレンジしたわけですね。どうりで「逸材」という、どちらかというと運営側というか、アイドルでビジネスをする側が使いそうな言葉であったわけです。
 しかし、「10年に1人の逸材」というのは、ごく普通に人材登用判断で使われるような文言です。モーニング娘。に加入して以降の当時の後藤真希の活躍ぶりやスター性を振り返れば、本当にそう思います。
 しかし、これをアレンジしての“1000年に1人”は、もはや単なる比喩であって現実ではない。情報発信者がそれだけ「感動した」ということを、次の情報の受け手に対し伝えたかったという点が重要なわけです。いずれにせよ、橋本環奈以降、漫画チックで大げさなこの手の比喩がどんどん増殖していきます。

大手グループまでもがフレーズを次々に模倣

 “1000年に1人”形式でメンバーにキャッチフレーズが施され、インターネットに情報が拡散していく現象ないし戦略は、この後、AKB48グループやavexなど大手にも次々に波及していきました。
 早い時期に現れた事例としては、avexが2015年6月に、自社のアイドルグループSUPER☆GiRLSの若手メンバーだった浅川梨奈(あさかわ・なな、1999-)を、「1000年に1度の“童顔巨乳”」としてグラビア戦略で売り出しています。浅川は、巨乳というより全体のプロポーションがよいタイプで、その後、グラビア界の常連となり、とくに2016~2018年にかけての身体ビジュアルは神がかっており、周りに敵なしといった感じのグラビアクイーンとして君臨していました。ちなみに筆者は「1000年に1度の“童顔巨乳”」の文言に吸い寄せられて、SUPER☆GiRLS(略してスパガ)のコンサートには2度ほど出かけていますので、まんまとavexの戦略にはまったクチです。
 AKB48では、チーム8東京都代表だった小栗有以(おぐり・ゆい、2001-) がやはり2015年位から「2万年に一人の美少女」といわれるようになりましたが、こちらは運営サイドの戦略ではなく、純粋にファンの人たちがインターネットで流布していった文言です。ちなみに小栗については、2022年5月に天王洲アイルで開かれたチーム8全員によるミュージカル兼ミニコンサートの公演後のお見送り会で、愛想よくしてもらい「いい子だな」と思った次第です(どうでもいい?)。

国民的人気を得、Z世代のトップランナーへ

 話を橋本に戻しますが、2017年にRev. from DVLの解散・卒業後、上京してからの橋本の活躍は、今さらここに記す必要もないので割愛し、最後に『日経エンタテインメント!』が毎年行っているタレント評価ランキングでの橋本の現在の位置だけ確認して締めくくることにします。
 同誌2023年7月号の調査で橋本環奈は、サンドウィッチマンや大谷翔平ら人気者が立ち並ぶ「総合順位」で7位。「女優編」では綾瀬はるかに次ぐ2位。そして、1990年代半ばから2010年代前半生まれの人を指す「Z世代編」では、前年の2022年調査に続き2年連続で1位の座にあります。
 よくライバル視される広瀬すず(ひろせ・すず、1998-)との比較では、支持する年齢層の違いに注目すると面白いです。広瀬が、とくに50代、60代といった広瀬からするとおじいさんみたいな高年齢層から厚い支持があるのと比較して、橋本は10代、20代など若い年齢層から大きな支持を得ているのが特徴です。
 「奇跡の一枚」当時、中学3年生・14歳だった橋本も、本稿執筆時点(2024年)でもう25歳。2024年5月には、舞台『千と千尋の神隠し』のロンドン・コロシアム公演への出演、2024年度後期放送予定のNHK連続テレビ小説『おむすび』では主演を演じる姿が見れます。しばらくの間は、その快進撃をあれよあれよと見つめる日々が続きそうです。(第4話了)。


(主な参考資料)
・博多のタケ(2013)「2013年5月3日(金) Rev.from DVL 博多リバレイン(午前)&天神中央公園」Amebaブログhttps://ameblo.jp/hakatano-take/entry-11527106191.html
・Pigooオンデマンド(2013)GIRLS NEWS「【注目の美少女】Rev. from DVLの橋本環奈に話題沸騰!」https://www.girlsnews.tv/unit/113469
・日経BP(2023)「タレントパワーランキング」『日経エンタテインメント! 2023 JULY 7月号』日経BP社
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