偽典・蘆屋探偵事務所録

[ミステリー]

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23件のファンレター

怪異譚×ときどきミステリ。これは探偵で陰陽師の蘆屋アシェラさんと、しがない警備員の僕、成瀬川るるせが遭遇する不思議な事件の物語集だ。

ファンレター

小説の「その先」を見据えての物語なんだな、と思います。

・新鮮でした。

 不思議と本屋を巡っても古本屋を巡ってもなかなか自分はこのタイプの作品を引き当てないので、文体、内容ともどもかなりの新鮮さでした。
 ライトノベルって、こういうのをこそ言うのかもしれません。
 よく巷で「小説」と「ライトノベル」は似て非なるもの、と言われていたりする部分がこれまで自分にはあまり実感が湧かず首を傾げていたのですが、これを読んで初めて世間の言わんとしている諸々が腑に落ちた気分です。
 これは一見すると「小説」。でも、「小説」の枠には決して収まっていない。まさにニュータイプ!


・前半は筆に迷いがあるように思います。後半は筆が乗ってきたのでしょうか。

 もしかしたら、ぼく自身がこの新しい作品に最初は戸惑い、後半は慣れてきただけなのかもしれませんが、後半のストーリーの方が完成度が高いと感じます。
 見直していただくなら前半かな、と。


・抽斗の多さと奥の深さに感心します。

 基本的にライトで漫画タッチな展開の中で、時折混じる理論や豆知識は毎回「へえ!」でした。
 この作品のために調べたのでしょうか。
 そうではなく基本知識としてすでにお持ちの知識であれば、持っていることがそもそも凄いですし、そこを引き出して物語に組み込んでいく構成力が素晴らしいです。
 その部分を書き終えた後に、「書いてやったぜ」とニヤける作者さんの顔まで見えるみたいです。(笑)


・登場人物たちの明確なロール設定と統一されたパターンが良いです!

 探偵事務所ではコーヒーを出され、バイト先では着替えを覗いて殴られ、魔法少女には「殺す」と言われ……。
 登場人物たちの役割の明確化と、それぞれの固定シーンで繰り広げられるお約束ごとは、うまく考え込まれているなと思います。
 この作品、「次の展開がまるっきり見えない」という不安感を読者に与えるのですが、そこに入るこういった「お約束」はオアシス効果抜群でした。欲を言うと、この「お約束」がもう少しパターン化し、常態化しているといいなと感じます。


・デタラメも追及すれば美学である?

 自分の記憶(とはいえ、寄る年波に勝てなくて最近はポンポンと抜け落ちまくってる記憶)のラインナップの中では、
  『教授と少女と錬金術師』(金城孝祐)
  『竜宮の乙姫の元結の切りはずし』(薄井ゆうじ)
の2作品がこの物語に近いかなと思いました。(『竜宮~』は調べたらすでに絶版でしたが)
 特にすばる賞に輝いている『教授~』は空想が突き抜けていて、しかしながら哲学であり、そして何を置いてもデタラメである、という何かの極地のような作品で、サンドイッチマンの冨澤さんでなくても「ちょっと何言ってるかわかんない」と言いたくなる内容ではあるものの、もしかしたらこの作品も行き着くべき先は『教授~』なのかな、と、感じるのです。
 実は、この作品ちょっとだけですが、全体的に「?」と引っかかる部分があるんです。なので、これがより洗練されていくと最強化する気がします。


・……というわけで、「ツウ」受けする物語、ですよね。

 近い作品として『教授~』を持ち出している時点でバレバレでしょうが、広く一般に訴求する作品とは少しテイストが違っていますよね。それが意図せずそうなっているのか、狙い通りなのかはぼくにもわからないんですけど、「小説」から一線を画した時点でこれは運命だったとしか言いようがない。
 ただし、この作品の醸し出す雰囲気にハマってしまう人はこの沼から抜け出すのは難しいと思います。ぼくもこれ、「あれ? ここで? もう終わっちゃうのか……」と、少し物足らなく感じたクチです。


・舞台化すると映えそうです。

 かなり特徴的に設定された登場人物たちに、その登場方法、そしていくつかの固定されたシーンなどを考えると、これは間違いなく舞台で光り輝く作品かと。
 バイト先と探偵事務所を舞台の左右に固定し、自宅を舞台の奥に階段で昇った上にでも作っておけば、なんか、完璧な気がする。カフェは固定せず中央のメインステージかな。(なんとなく)
 昔、「劇団☆新感線」の喜劇を観て、ストーリーに多少の強引さとつじつまの合わなさがあったとしても観客が「?」を抱く前にさっさと物語が進んでいってしまい、最終的に「ま、いっか」になるのも舞台の良さなんだな、と思ったことがあるのです。
 小説と漫画は読む側にペース配分が握られているけど、映画や舞台は観る側にその主導権はない。映画は時間配分に一切の乱れがないけど、舞台は役者にアドリブの余地があり、時間配分も役者・観客との呼吸によって乱れゆく。
 この作品、引っかかる部分があったとしても読み止まってほしくないんです。
 うん。やっぱりこの作品は舞台が似合います。

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