第6話

文字数 3,042文字

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丘をふたつ越えると

歩道の左側に巨大な木があった。

近づくと幹はすごく太くて

十人ぐらいが手をつながないと

一周できないぐらいだった。

見上げると

木のてっぺんは

空に届きそうな気がした。

太くて長く頑丈そうな枝が

数え切れないぐらい幹から伸びている。

それに

巨木の枝には葉っぱの代わりに

りんごがぎっしりとぶらさがっていた。

巨木が野太い声でボクに声をかけた。

「坊や、こんにちは」

「こんにちは」

ボクはさっそくきいてみた。

「このりんご

ひとつ食べてもいいですか?」

「いや、このりんごは

わしのものではないんだよ、坊や」

「どういうことなの?」と訊ねると

「どれか枝を揺らしてごらん」

と言うので

ボクは手の届きそうな

いちばん低い枝をゆさぶってみた。

そしたら

その枝にぶら下がっていたりんご達に

羽が生えて

バサバサっと

みんな飛んでいってしまった。

「坊や、分かったかい」

「うん。

これは巨木さんの育てた実ではないんだね」

「そう、キミは賢い子だね」

「じゃあ、

なんでこんなにたくさんりんご達が

ぶら下がっているの?」

すると、巨木さんは

よく質問してくれた

と言わんばかりの声になって言った。

「じつは

昔はわしも地中深く

そして広く長く枝を出していてな。

そこから水や栄養分を

吸収していたもんじゃ。

しかし、

この作業はけっこう疲れるのじゃ」

「でも、ここは砂漠だよ。

砂漠の砂に水や栄養分があるの?」

ボクは砂漠なのに

並木道の両側の木々は

どうやって

水や栄養分を取っているんだろう

と、ずーっと不思議だったので

ここぞとばかりに質問をぶつけてみた。

「そこなんじゃ。

ここは砂漠に見えるじゃろうが

この地下深くは普通の

いや良質の土壌なんじゃよ。」

「へえーっ、

それじゃ昔はここには

草や木や花が溢れていたの?」

「その通りじゃ。」

そんなに良い土地が

どうして砂漠になったんだろう。

ボクは首を傾げて考えた。

その疑問を見透かすかのように

巨木さんが説明してくれた。

「昔はここも緑に覆われていたんじゃが

長い年月の間に気候が変わり

雨が降らなくなり

乾燥によって

こんな砂漠に変わってしまったんじゃなあ。

最近は、地球の表面の温度が

上がってきたので

ますます砂漠化に拍車がかかっておる。

じゃがな

幸いなことに地中の奥は

表面の気候の影響を受けなんだ。

じゃで、昔のまま

遠くの池や川との水流が保たれておる。

そんで、良質の土が残ったというわけじゃ」

「地球温暖化はボクも学校で習ったよ。

もう、五年生だからね」

「しかし

地中深くの水と栄養分を

自分の根で吸い取るのは

大変なエネルギーが要るんじゃよ。

ある時にな

羽の生えたりんごが

わしの枝に止まったんじゃが、…
 
そいつがお礼にと

わしに水と栄養分を分けてくれたんじゃ。

わしはその頃

疲れきっておったもんでな

こりゃ助かると思ってのう、… 

自分の枝に

葉っぱや花や実ができてこないように

根から水と栄養を吸うのをやめたんじゃ。

そして

わしの無数にある枝を

りんご達の止まり木として

貸し出したんじゃよ。

噂はあっという間に

りんご達の間に広まって

こういう状態になったんじゃな。

止まり木を提供してやる代わりに

何もしなくても

無数のりんご達から

水と栄養を貰うことができて

わしゃ悠々自適の生活を

謳歌できるようになった、 

… と、まあそういう訳じゃ」

巨木は得意そうに声高に

そして一気にそう話した。

「じゃあ、巨木さんは大金持ちなんだ」

「まあ、そうじゃな、うわっはっはっは」

大木さんは

自慢話ができたのがよほど嬉しかったのか、

大きな幹と無数の枝をユサユサと揺らして

気持ち良さそうに大笑いした。


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ここからは、パソコン向けです

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丘をふたつ越えると、歩道の左側に巨大な木があった。

近づくと幹はすごく太くて十人ぐらいが手をつながないと一周できないぐらいだった。

見上げると木のてっぺんは空に届きそうな気がした。

太くて長く頑丈そうな枝が数え切れないぐらい幹から伸びている。

それに、巨木の枝には葉っぱの代わりに、りんごがぎっしりとぶらさがっていた。

巨木が野太い声でボクに声をかけた。

「坊や、こんにちは」

「こんにちは」

 ボクはさっそく訊いてみた。

「このりんご、ひとつ食べてもいいですか?」

「いや、このりんごはわしのものではないんだよ、坊や」

「どういうことなの?」と訊ねると

「どれか枝を揺らしてごらん」

と言うので、ボクは手の届きそうないちばん低い枝をゆさぶってみた。

そしたら、その枝にぶら下がっていたりんご達に羽が生えて、

バサバサっとみんな飛んでいってしまった。

「坊や、分かったかい」

「うん。これは巨木さんの育てた実ではないんだね」

「そう、キミは賢い子だね」

「じゃあ、なんでこんなにたくさんりんご達がぶら下がっているの?」

すると、巨木さんはよく質問してくれたと言わんばかりの声になって言った。

「じつは、昔はわしも地中深く、そして広く長く枝を出していてな、

そこから水や栄養分を吸収していたもんじゃ。

しかし、この作業はけっこう疲れるのじゃ」

「でも、ここは砂漠だよ。砂漠の砂に水や栄養分があるの?」

ボクは砂漠なのに並木道の両側の木々はどうやって

水や栄養分を取っているんだろうと、ずーっと不思議だったので、

ここぞとばかりに質問をぶつけてみた。

「そこなんじゃ。ここは砂漠に見えるじゃろうが、

この地下深くは普通の、いや良質の土壌なんじゃよ。」

「へえーっ、それじゃ昔はここには草や木や花が溢れていたの」

「その通りじゃ。」

そんなに良い土地がどうして砂漠になったんだろう。

ボクは首を傾げて考えた。

その疑問を見透かすかのように巨木さんが説明してくれた。

「昔はここも緑に覆われていたんじゃが、長い年月の間に気候が変わり、雨が降らなくなり、

乾燥によってこんな砂漠に変わってしまったんじゃなあ。

最近は、地球の表面の温度が上がってきたのでますます砂漠化に拍車がかかっておる。

じゃがな、幸いなことに地中の奥は表面の気候の影響を受けなんだ。

じゃで、昔のまま、遠くの池や川との水流が保たれておる。

そんで、良質の土が残ったというわけじゃ」

「地球温暖化はボクも学校で習ったよ。もう、五年生だからね」

「しかし、地中深くの水と栄養分を自分の根で吸い取るのは大変なエネルギーが要るんじゃよ。

ある時にな、羽の生えたりんごがわしの枝に止まったんじゃが、… 

そいつがお礼にとわしに水と栄養分を分けてくれたんじゃ。

わしはその頃、疲れきっておったもんでな、こりゃ助かると思ってのう、… 

自分の枝に葉っぱや花や実ができてこないように根から水と栄養を吸うのをやめたんじゃ。

そして、わしの無数にある枝をりんご達の止まり木として、貸し出したんじゃよ。

噂はあっという間にりんご達の間に広まってこういう状態になったんじゃな。

止まり木を提供してやる代わりに、何もしなくても無数のりんご達から水と栄養を貰うことがで

きて、わしゃ悠々自適の生活を謳歌できるようになった、 … と、まあそういう訳じゃ」

巨木は得意そうに声高に、そして一気にそう話した。

「じゃあ、巨木さんは大金持ちなんだ」

「まあ、そうじゃな、うわっはっはっは」

大木さんは自慢話ができたのがよほど嬉しかったのか、

大きな幹と無数の枝をユサユサと揺らして気持ち良さそうに大笑いした。

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