第Ｘ８話　誤用だ！　御用だ！

「テキストだけならポメラが一番ですね」
　ニカルの文面は基本に忠実だが、決して無味乾燥な内容ではない。

「ニカルは親指シフトだったな」
　あんな事件が起こらなければ、PCもスマホもメイドインジャパンの天下だったんだが。

「はい。テプラのラインナップくらいにはデザインを充実させてほしいですね」
　科納エレクトロニクスで簡単に作れるだろうに。

「誤変換の間違いは単純なミスでスルーされがちだが、言葉の使用例を間違うとワラワラとコメントが付くなあ」
　ここの作者も気をつけないとな。

「それに関しては、新しく意味を持たせて文が成り立つのであればOKのスタンスです」
　『誤用だ』との指摘は、話者が元々の使い方を知らず勘違いした場合になされるのだが・・・。

「俺も同じだ。辞書に項目がいくつも載ってるだろ？　原義は最初ひとつだったのかも知れんが、時代を経るごとに増えていったってことだな」
　元々の使い方を知っていて誤用をしないのもひとつの考えだが、誤用を指摘された人間の中には分かっていて使っている場合もある。

「原義に忠実という縛りを作ると、新たな文章表現は限られます。文法的には間違いでも、文法通りにしか発言しない登場人物というのも、それはそれで不自然です」
　アガサ・クリスティーが似たようなことを言っていたな。

「日常会話でもあるよな。『そんな言い方はしないぜ』ってやつだ」
　地方同士で言葉が異なるのは当たり前だが、もっと標準語で使う言葉の話だ。

「『これが正しい使用例だ』とされる言葉も、初めて使った人は周囲に理解されなかったのではないでしょうか」
　だな。いま『そんな言い回しは無い』と否定される言葉も、その段階なんだろう。ただし、意味不明な言葉の使用例は、存在しても定着はしない。

「慣用句はもっと生まれても良いですよね。たとえ話を駆使する芸人さんなんかも向いてると思います」
　廃語となったものの中に、現代人から見たら新鮮な言葉もあるに違いない。