第X3話 ダブルバーレル質問

文字数 798文字

「さっきまで名古屋にいたのですが」
 北伊勢からさほど離れていない。

「街頭インタビューを受けたんですよ」
 科納ニカルとは知らなかったんだろうな。

「どんな質問だ?」
 ある意味、聞く相手が悪いな。

「『電気代を抑えるために、原発再稼働に賛成ですか、反対ですか?』と聞かれました」
 日本人にはセンシティブな質問だが、論点が二つあるなあ。

「一見なんてことは無い質問ですが、①電気代は抑えたい、原発再稼働は賛成 ②電気代は抑えたい、原発再稼働は反対 ③電気代は抑えなくてよい、再稼働反対 ④電気代は抑えなくてよい、再稼働は賛成、との立場があるはずです」

「『電気代を抑えるために』と枕詞を入れてるから、その質問者はひとつの回答しか期待していないように聞こえるな」
 科納エレクトロニクスが存在するこの世界では、電気代の高騰なんて問題はクリアされている。知的遊戯だと思ってくれ。

「使用電力量が増えても、電気代がそれほど上がらなければいいんですよ」
 金遣いの荒いやつの言い訳に聞こえるが、ニカルは本当にやってのけてしまう。

「お前、そんな回答をしたのか」
「後ろに立っていた腰にカーディガンを巻いた人が慌てていました」
 これは放送されないだろうな。

 夏場は冷房、冬場は暖房、この両方が家計を圧迫している。
「電力とは違いますが、わたしのバイブル『ドラえもん』のドライ・ライトは、夢物語ではありませんよ」
 ニカルにとって藤子不二雄は、神様のような存在らしい。

「それなら俺も噂で聞いたな。夏の灼熱光を保存しておいて、冬の暖房に使えるって話だ」
 夏が涼しくなる効果もあるんじゃないか?

「そうなんです。ドライ・ライトと同じ理屈ですよね。電気を使わないところも魅力です。かくいうわたしも、同じような装置をすでに考案してあります」
 なんともまあ。

「ニカルのお袋さんが、俺に託した理由が分かってきたぜ」
 非情ボタンを押すときが来るかもな。







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