第X9話 ぎこちないけど擬古体を

文字数 717文字

「何千年も昔の出来事が、洗練された未来に感じることがありますね」
 この現象が起こる原因は、わずか数十年で時代の構成員が総入れ替えするためである。

「新しく生まれた世代が歴史から学ばなければ、同じ悪夢を繰り返すまでさ」
 人のことを言えた口じゃないがな。

「わたしは昔の言葉の音が好きなんです。ただ、名付けの時に当てる漢字が、昨今はあまりこなれていない気がするんです」
「作曲はいいが、作詞が悪いってとこだな」
 新生児に付ける名前は昔から世界にある言葉だったりするが、漢字のならびが無理矢理だったり、しっくりこないものが多い。

「どの時代の、どの言葉を抽出して、現代に取り入れるか。なにも文学者だけの独擅場ではないと思います」
 はるか昔に忘れ去られた技術を再現して現代科学に取り入れるのは、ニカルのような研究者の役目だろう。

「わたしは日本語や英字体を混合したプログラム言語を構築したのですが、一見普通の教科書のような記述です。チャットGPTのようなものは目指すところではありません」
『質問して回答を聞く』ではなく、あくまで『コマンドして実行させる』なんだよな。

「言葉は魔法だと言ったりしますが、ある一定の規則に従って文章を綴れば、相応のプログラムが実行されるのとまったく同じ原理が働きます。無意味なひらがなをデタラメに連打しても、何も起こりません」
 怒る奴はいるだろう。

「寝る前に文語体の聖書を一日一章ずつ読むことにしていますが、現代人がいかに世迷いごとで混乱させられているかが分かります」
 バイブルは『これが答えだ』と言える天からの贈り物だ。もし世の中の厄介事を扱った問題集で、間違った解答と解き方を聞かされ続けたら、正気は保てなくなるだろう。











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