思い出す?
文字数 2,083文字
僕は告白された時の返し方がわからない事を種村さんに相談した。
「ふーん…告白されても返し方がわからないってやつですか」
種村さんは空を見上げて言った。その仕草からしてモテている。みたいな。
いかにもこんな状況に慣れている様子だった。
「えー…っと。例えば――――
『僕も君が好きなんだ!付き合ってください!』
『え、うん!』―――とか」
「ないね」
好きだったとか以前に彼女と話した記憶がないんだから嘘をつくことになる。どうしてもそれは避けたい。
「じゃあ―――
『いきなり付き合うのはちょっと…お友達からで』
みたいなのはどう?男が言うと変かもしれないけど明石君には似合ってると思う」
それが一番いいのかもしれない。付き合った経験なんてないし。
「いいかもしれない。それにしよう」
僕は返事のことを聞けて良かったと思う。
「ありがとう。聞けて良かったよ」
彼女は笑顔を見せて頷いた。
いままで感じたことのない感情。あったかくて、弾むような気持ち。
その感情の名前を知らなかった僕は、見なかったことにした。
「じゃあ、また明日」
お互いに手を振って別れる。僕は坂を下って家の方向に向かった。
種村さんに聞くと『返事は早く。これルール』らしい。
少年が行ったあと。公園にはまだ一人、女子生徒が残っていた。
「君はもう経験してる。思い出すかな?」
もうすぐ落ちようとしている夕日につぶやいた。
◆ ◆ ◆
「ただいま…あれ?裕也さん。帰ってきてたんですか」
ダイニングテーブルに座っていた裕也さんを取り巻く空気はどこか重い気がした。
「翔太。今日琴音を迎えに行ったんだが…」
今日は仕事が遅くなるって麻里亜さん言ってたな。
「琴音。男と遊んでやがった…」
ふーん…
裕也さんは頭を抱かえ、カタカタと震えている。
「野郎ぉ!うちの琴音に手出しやがって!くそがぁ!」
そう叫んでからテーブルを勢いよく叩いた。
怒るのか怯えるのかどっちかにしてほしい。なんて僕には言えない。
ずいぶんと激高している様子だ。琴音ちゃんは一人で黙々とお絵かきをしていた。
裕也さんの態度から相当やばいやつだと悟った。
「その男はどんな人なんですか?」
僕が聞くと拳を強く握りしめ、話した。
「隣の組の…バラ組のけいたって奴だ。琴音と楽しく遊びやがって!」
おお、保育園に通う幼児に嫉妬しましたか。なんとも大人げない。
裕也さんはその後もいろいろ不満を漏らした。すべて琴音ちゃんのこと。
「パパ~見てみて!これパパとママと琴音!」
クレヨンで描かれた裕也さんと麻里亜さん、そして間に入るようにして描かれた琴音ちゃん。
「こ、琴音!あ…ありがとう」
琴音ちゃんを力強く抱きしめる裕也さん。
「パパのお髭じゃりじゃりー」
とんだ茶番を見せられた。僕はほっこりするなんて言葉が脳に浮かんでこないほどに冷めていた。親子の芝居を見せられるとは…
僕は抱き合う親子を放っておいて部屋に帰った。いいな。親子って。
僕は小さいころ一人で夜ご飯を食べる生活を過ごした。お母さんは男遊びが激しかったらしいし、納得がいく。
「そうだ」
僕は部屋にあった色鉛筆で家族4人の絵を描いた。
「裕也さん!いや、お父さん。どうぞ」
絵を描いた紙を裕也さんの前に広げ、僕は両手を広げる。
「え、何してほしいの?コワ」
「え、そんな引きます?」
裕也さんは僕を道端に落ちているティッシュを見るかのような目で見ていた。
我ながらどんな表現だ。と思ったがほんとにそんな目をしている。
僕が絶望に浸っていたところ膝辺りに琴音ちゃんが抱き着いてきた。
「琴音ちゃぁぁぁっぁぁぁん!!!」
僕は琴音ちゃんを持ち上げ、抱きしめる。
「おのれ、たとえ息子であろうとも琴音はやらんぞぉぉぉぉぉ!!」
突然ドアが開き、麻里亜さんが僕たちに軽蔑の眼差しを向けた。
ああ、終わったな。
さ、寝るかな。明日も学校だ。僕の通う学校には土曜授業がある。
ただし半日で終わる。
伊東君に聞いたところ「サボろう」の一言だったため理由は知らない。
◆ ◆ ◆
「おはようございます」
気温が少しずつ下がっていくと起きることがだんだん難しくなってくる。だから今日は半分起きてない。
「あ、あはよう。寝癖直しておいで」
この朝が僕の習慣起きて、寝癖を直して、学校へ行く。
記憶がなくなる前もきっとそうだったんだろう。癖というのは体が覚えていうのかもしれない。
自転車に乗って学校へ向かう。この動きは、知らない。学校へは歩いて向かっていたはず。最近はすこし思い出したことも多くなってきた。習慣とか。
過去の記憶を取り戻したい。とは思うんだけど
「お!翔太おはよ」
横に伊東君が並んだ。僕も挨拶を返す。
「おはようございます」
―でもこうして学校に向かうのも悪くない。
「なんで笑ってんの?うれしいことでもあった?」
「はい。すこし」
「ふーん…告白されても返し方がわからないってやつですか」
種村さんは空を見上げて言った。その仕草からしてモテている。みたいな。
いかにもこんな状況に慣れている様子だった。
「えー…っと。例えば――――
『僕も君が好きなんだ!付き合ってください!』
『え、うん!』―――とか」
「ないね」
好きだったとか以前に彼女と話した記憶がないんだから嘘をつくことになる。どうしてもそれは避けたい。
「じゃあ―――
『いきなり付き合うのはちょっと…お友達からで』
みたいなのはどう?男が言うと変かもしれないけど明石君には似合ってると思う」
それが一番いいのかもしれない。付き合った経験なんてないし。
「いいかもしれない。それにしよう」
僕は返事のことを聞けて良かったと思う。
「ありがとう。聞けて良かったよ」
彼女は笑顔を見せて頷いた。
いままで感じたことのない感情。あったかくて、弾むような気持ち。
その感情の名前を知らなかった僕は、見なかったことにした。
「じゃあ、また明日」
お互いに手を振って別れる。僕は坂を下って家の方向に向かった。
種村さんに聞くと『返事は早く。これルール』らしい。
少年が行ったあと。公園にはまだ一人、女子生徒が残っていた。
「君はもう経験してる。思い出すかな?」
もうすぐ落ちようとしている夕日につぶやいた。
◆ ◆ ◆
「ただいま…あれ?裕也さん。帰ってきてたんですか」
ダイニングテーブルに座っていた裕也さんを取り巻く空気はどこか重い気がした。
「翔太。今日琴音を迎えに行ったんだが…」
今日は仕事が遅くなるって麻里亜さん言ってたな。
「琴音。男と遊んでやがった…」
ふーん…
裕也さんは頭を抱かえ、カタカタと震えている。
「野郎ぉ!うちの琴音に手出しやがって!くそがぁ!」
そう叫んでからテーブルを勢いよく叩いた。
怒るのか怯えるのかどっちかにしてほしい。なんて僕には言えない。
ずいぶんと激高している様子だ。琴音ちゃんは一人で黙々とお絵かきをしていた。
裕也さんの態度から相当やばいやつだと悟った。
「その男はどんな人なんですか?」
僕が聞くと拳を強く握りしめ、話した。
「隣の組の…バラ組のけいたって奴だ。琴音と楽しく遊びやがって!」
おお、保育園に通う幼児に嫉妬しましたか。なんとも大人げない。
裕也さんはその後もいろいろ不満を漏らした。すべて琴音ちゃんのこと。
「パパ~見てみて!これパパとママと琴音!」
クレヨンで描かれた裕也さんと麻里亜さん、そして間に入るようにして描かれた琴音ちゃん。
「こ、琴音!あ…ありがとう」
琴音ちゃんを力強く抱きしめる裕也さん。
「パパのお髭じゃりじゃりー」
とんだ茶番を見せられた。僕はほっこりするなんて言葉が脳に浮かんでこないほどに冷めていた。親子の芝居を見せられるとは…
僕は抱き合う親子を放っておいて部屋に帰った。いいな。親子って。
僕は小さいころ一人で夜ご飯を食べる生活を過ごした。お母さんは男遊びが激しかったらしいし、納得がいく。
「そうだ」
僕は部屋にあった色鉛筆で家族4人の絵を描いた。
「裕也さん!いや、お父さん。どうぞ」
絵を描いた紙を裕也さんの前に広げ、僕は両手を広げる。
「え、何してほしいの?コワ」
「え、そんな引きます?」
裕也さんは僕を道端に落ちているティッシュを見るかのような目で見ていた。
我ながらどんな表現だ。と思ったがほんとにそんな目をしている。
僕が絶望に浸っていたところ膝辺りに琴音ちゃんが抱き着いてきた。
「琴音ちゃぁぁぁっぁぁぁん!!!」
僕は琴音ちゃんを持ち上げ、抱きしめる。
「おのれ、たとえ息子であろうとも琴音はやらんぞぉぉぉぉぉ!!」
突然ドアが開き、麻里亜さんが僕たちに軽蔑の眼差しを向けた。
ああ、終わったな。
さ、寝るかな。明日も学校だ。僕の通う学校には土曜授業がある。
ただし半日で終わる。
伊東君に聞いたところ「サボろう」の一言だったため理由は知らない。
◆ ◆ ◆
「おはようございます」
気温が少しずつ下がっていくと起きることがだんだん難しくなってくる。だから今日は半分起きてない。
「あ、あはよう。寝癖直しておいで」
この朝が僕の習慣起きて、寝癖を直して、学校へ行く。
記憶がなくなる前もきっとそうだったんだろう。癖というのは体が覚えていうのかもしれない。
自転車に乗って学校へ向かう。この動きは、知らない。学校へは歩いて向かっていたはず。最近はすこし思い出したことも多くなってきた。習慣とか。
過去の記憶を取り戻したい。とは思うんだけど
「お!翔太おはよ」
横に伊東君が並んだ。僕も挨拶を返す。
「おはようございます」
―でもこうして学校に向かうのも悪くない。
「なんで笑ってんの?うれしいことでもあった?」
「はい。すこし」