花火大会その後

文字数 1,601文字

「あれ?明石じゃん。久しぶり!」

僕の前には昨日写真で見た女子生徒がいた。

「どちら様でしょうか?」

「え?覚えてないの…?」

彼女はムム…と唸るとこう話した

「ちょっと来てよ、1人じゃ寂しいから…さ」

「どこにですか?」

「会場だよ、そこで色々話そうか。」

「わかりました。」

人混みの中会話していたので少し聞きづらかったが、彼女が場所まで案内してくれたので助かった。

「琴音ちゃん、あとちょっとで始まるからね」

琴音ちゃんは頷いて綿あめを食べていた。

「明石、私のこと覚えてない?」

「申し訳ありません。事故で記憶を失ってしまって」

階段から落ちたこと、記憶が戻る事は無いかもしれない事、色々話した。

「そうなんだ…じゃあ初めましてだね。私の名前は種村 沙耶(たねむら さや)去年あなたと同じクラスだった」

「明石 翔太です。よろしくおねがいします。」



「ふふ…もう知ってるよ」

彼女はふっと微笑んで僕を見た。

「よろしく。」

「お兄ちゃん!もう始まっちゃうよ!」

「わかったよ」

花火1つ1つに職人の魂がこもっているんだ。どんな配置か、どんな順番か、

「琴音ちゃん。お姉ちゃんって呼んで〜」

「……」

「ねぇねぇ琴音ちゃん〜」

「……」

琴音ちゃんの人見知りが種村さんに炸裂している。初対面じゃ話しづらいだろう。

「種村さん、琴音ちゃんは初めてあった人を警戒してるんだよ」

「え?警戒されてるの?!こんなに優しい顔なのに〜?」

「まぁ、徐々に慣れていくと思うよ」

「……」

花火が1発上がるごとに歓声と拍手があがる。そろそろ終盤みたいだ。ここの花火大会はあまり大規模なものでは無い。



「琴音ちゃん、帰ろうか。」

琴音ちゃんはいつの間にか寝てしまっていた。種村さんもこの場所には居なくなっていた。
おぶって帰ろう。


ポツポツと雨が降ってきた。電車で帰るからまだ大丈夫だが、駅から家まで少しある。止んでくれれば良いのだが。
ゴロゴロと空が唸り、雷の光が見える。

どしゃ降りになってきた。ここら辺に傘が買えるコンビニは無いし、歩いて帰るしかない。



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「麻里亜さん…助けてください」

家に入り麻里亜さんを呼ぶと急いでタオルを持ってきた。

「まず琴音ちゃんを…お願いします」

琴音ちゃんは雷の音で目が覚め、怖がっていた。麻里亜さんにもらったタオルで体を拭いて、風呂に入ることにした。

種村さん…また話したいな。

今日は種村さんから僕の情報を知ることは出来なかった。

「翔太くん、何も食べてないでしょ。」

「どうしてわかったんですか?」

「お母さんの勘?かな」

そう言って麻里亜さんは僕の前に焼うどんを出した。

「お母さんの得意料理だ、美味しいぞ」

「いただきます」

僕は箸を手に取りうどんを口に入れた。

美味しい。

「美味しいですよ。麻里亜さん」

当然だと頷き、麻里亜さんは風呂場へ向かっていった。

久しぶりだな、家族の作った料理を食べるのは。

今日は疲れたから早めに寝よう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「**さん。子育てにあきちゃったから、もうその子いらないわ」



「**さん?どこに行くんですか!?この子を置いて行くつもりですか!**さんー!」



おいていかないで、おいていかないで…ねぇ、ねぇ!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



時計の秒針が動き、外で雨の降る音が聞こえる。その音が僕の恐怖を駆り立てる。



「ハァハァ…」

夢…か、一人の女性が孤児院へ小さな子を置いていく姿だった。女性は酷く疲れた様子で…その女性を呼んでいた人は焦っていた。酷く雨の降った日だった。

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