きつねさんと君

文字数 2,059文字

「みてみて!きつねさんだよ!」
琴音ちゃんは目の前に現れた狐を指さした。
「そうだね、この山に住んでるのかもね」
狐は少しこちらを見ると森のおくへ走って行った。

「まってー!」
琴音ちゃんが狐を追いかけて奥へ・・・

「ちょっとまって!」


      ◆ ◆ ◆

森に迷いました。琴音ちゃんはいなくなっちゃった…
「琴音ちゃーーん!」
そう呼んでも琴音ちゃんが帰ってくるはずがなく
狐が目の前に現れるだけ
「きつねさん、きつねさん。ことね…僕の妹を知ってませんか?」

きつねさんはまた僕を見つめると走って行ってしまった。

前を見ても後ろを見ても木、木,木。
探そう。ついでに帰り道も。

ずっと同じ道を通っている気がする。どれだけ歩いても景色が変わらない。これもさっき見た大きな傷のある木。次は苔の生えた木。



―そしてさっき見たきつねさん
また走り去っていく。

これはるーぷ?と言うやつなんだろうか・・
今度は左側へ行ってみよう。なにか手がかりがあるのかもしれない。

大きな傷のついた木の左側へ来るとトンネルがあった。車の入らない位の小さな小さなトンネル。
今は琴音ちゃんを探しているので行かないことにした。

      ◆ ◆ ◆
「琴音ちゃんが見つからない・・」
腕時計を見ると時刻は15時24分。日が暮れる前に見つけなければならない。
麻里亜さんと裕也さんのためにも!


 


「見つからない…」
もう探し始めてから30,40分ほど経ったと思う。僕はもう一度腕時計を見た。
時刻は15時24分…あれ?一分も経ってない?
僕の前には大きな傷のある木があった。そしてきつねさんが奥にいた。
また僕を見つめていた。『まだいたのか』と言ってきているように。

「ねぇ、あの狐について行ってみたら?」
僕の横には新幹線でみた夢の中にいた女の子がいた。身長は同じくらい。綺麗な茶髪をしている。
「うん。わかった」
僕は彼女を信じるしかなかった。そうして狐をおいかけた。


僕の前には小さな小さなトンネルがあった。狐はそこを通り向こう側へ走り去った。
この森は薄暗くトンネルの中は全くと言っていいほど見えなかった。
しかしここで留まっている時間はない。行くしかないんだ。
「ねぇ、ちょっと待って…」
トンネルに入ろうとした時に彼女に呼び止められた
     ◆  ◆  ◆

トンネルを抜けると狐の姿はもうなくなっていた。トンネルに入る前にあの子が言っていたんだがそれと見られる物はなかった。"それ"とは
この森にある鳥居を探せ、と言うことだった。それが琴音ちゃんに繋がることになるとは分からないが。


「あ、お兄ちゃん!」
声の方を振り向くと琴音ちゃんがしゃがんでいた。
「帰ろう、時間が…」
時計は15時24分を指している。やっぱり壊れてるのかな。

狐が目の前に現れ、僕たちを見つめた。『ついてこい』と言っているみたいだ。
狐についていくと僕たちの入ってきた道に出てきた。

「きつねさん。ありがとう」
その言葉を聞いて狐は森の奥へ帰って行った。森を出ると日は傾き、遠くにある山々をオレンジ色に染めていた。ここは山奥なので綺麗な日の入りは見えないが空に浮かぶ雲と微かに見える青空が綺麗な絵を描いていた。

「あの森にいったんか…」
おじいちゃんが僕たちの横に来て森を見ながら話した。
「あの森はな…


あの森は人を騙すとされる狐が多く暮らしていた。ある日若きおじいちゃんが山へ遊びに行った時に狐を追いかけると森に迷ってしまった。その時に狐が現れ、小さなトンネルに招いたと言う。それ以来狐のトンネルを見たことはない。あの山の名は狐の化け穴と呼ばれている。


「さ、暗くなってきたし帰るかぁ」
伸びをしながら言うおじいちゃんは少しだけ若く見えた。

夕焼けに照らされながら僕の腕時計は6時を指した。





「じゃあね〜おじいちゃん!」

「気をつけてな〜」
おじいちゃんと別れて東京行きの新幹線に乗った。3時間ほど座ったままで暇なので今度は窓際に座ることにした。
やはりトンネルで外はうまく見えなかったが僕は"あのトンネル"に入る前に茶髪の彼女が言った事を思い出していた。

『ねぇ、ちょっと待って…このトンネルを抜けたら鳥居を探して。君の探しているものがあるはずだから』

『じゃあ行くよ。ありがとう』

『私はいつも君の近くにいるからね』

と、

『私はいつも君の近くにいるからね』か。いつも近くにいる、いつも近くに…?



「よっしゃ帰ってきたぞ〜」
家に着くなり裕也さんは靴を脱ぎ捨てると部屋に荷物を放り投げ、ソファにダイブした。
「琴音疲れた〜」
3時間座りっぱなしだったから僕も少し疲れたな。
「明後日から仕事か〜翔太、1週間後から学校だな。頑張れよ」

「はい。わかりました」
夏休みは終わりまであと1週間と迫っていた。
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