ワイルドビート戦

文字数 1,558文字

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 そしていよいよ、地元の新聞社主催の早起き野球大会が始まった。
 青木の喫茶店からは、主力選手たちの本命チーム「プレアデス」と、それからおとぼけの7人、恵らの「すばる360」の2チームが出場することとなった。
 それで、我らがすばる360の一回戦での対戦相手は「ワイルドビート」だ。強打で知られるビートの効いたチームだ。
 一方、すばる360は、恵、青木、そしておとぼけの7人による前衛後衛の内野守備陣だ。もちろんこの7人はキャッチャー用のマスクと、お揃いの緑色のプロテクターを身にまとっていた。
 ところで、この光景を打者目線で見ると、まさに美女と野獣(たち)。いやいや、件のプロテクターが緑だし、さながら「美女と青虫たち」だ。



 で、いよいよ試合が始まると、ワイルドビートの各打者たちは得意のビートの効いた打棒(!)どころか、まずは「美女と青虫たち」を直視し、笑いをこらえることに精一杯だった。
「イヤッハッハッハッハッハァアアぁ~~~~~~」
 彼らはバッターボックスで笑い転げ、仰向けに倒れ込み、足をバタバタ…
 で、審判も、
「いや、君君、ちゃんと打撃の構えを…オホホッ…ぶぁっハッハッハぁあああ」
 そんなこんなで、それでも笑いをこらえ、必死こいて打撃の構えはしたものの、まともにバットも振れず、そういう訳で、恵は快調にど真ん中を投げ続けて打者一巡。
 3回を終わってワイルドビート打線は全くビートが効かず、無得点。
 一方、すばる360はハンディキャップの7点に加え、打席で「イヤッハッハッハッハッハァアアぁ~~~~~~」と笑った余韻に浸るワイルドビート守備陣の緩慢なプレーもあり、クリーンナップ3番青木、4番恵の連続二塁打で1点獲得し、8対0でリード!
 だけど4回からは、ワイルドビートの面々は、「なんだなんだ!外野はがら空きじゃねぇか!」と、何を今さらながらに気づき、それで外野へ打とうとして大振りを始めた。
 だけど大振りだと、恵のシンカーとか高めの真っすぐが威力を発する。そういう訳で空振り・ボテボテ・パカーンと内野フライ…
 そういう訳で試合も終盤になり、ワイルドビート打線も思い切り学習し、コンパクトにセンター方向を狙い始めた。
 すなわち、先頭バッターはバットを短く持ち、パチーンとピッチャー返しを狙って来たのだ。
 結構鋭い打球は恵のグラブを弾き、コロコロころころ。それでバケツリレーもままならず、ランナーは一塁!
 ところが後衛の怒山がつかつかと一塁ランナーの元へ歩き、大声でこう言った。
「やいやいやいやい!嫁入り前の娘になんてぇことしやがるんだ!恵の顔に傷でも付けたら、てめぇ、どうやって責任取るつもりだ!」
 怒山のドスの効いた声がグラウンドに響いた。
「いいか!今度そんな薄汚ねぇバッティングしたら、ただじゃおかねぇからな!」
(ピッチャー返しのどこが薄汚い)
 しかし怒山の迫力により、ピッチャー返し=薄汚い=やっちゃダメよ…、なる異様な雰囲気がしれ~~っと醸造され、そういう訳で以後、ピッチャー返しを狙う打者はいなくなった。
 つまりそれ以前のダメ打撃に戻らざるを得なかったのである。で、再び内野ゴロの…
 それともうひとつ。
 彼らにはもうひとつの武器があったのである。
 くしゃみだ。
 くしゃみは前衛を守っていたのだが、恵がボールを投げ、打者がバットを振ろうとしたその瞬間、大音響のくしゃみをするのである。もちろんいつもしていると慣れられてしまうので、選りすぐりの「肝心なとき」にするのである。
 それで打者は打ち損じてしまう。肝心なときに…
 こうして彼らの「青虫バケツリレー作戦」は大成功を納め、試合は8対5、つまり彼らはハンディキャップの7点+1点の合計8点を守り切ったのである。

     「準決勝」へ続く
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