恵ちゃぁぁ~~~ん(´・ω・`)
文字数 2,496文字
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その夜、すばる360のメンバーは青木の喫茶店に集まり、盛大に祝勝会をやっていた。
皆、優勝したかのよう。そして自分たちの力のみで勝ったような気がしていた。
「やっぱ、俺たち、がばい強かとばい」
「ワイルドセブンに勝ったんだし、で、決勝戦の相手はマイルドセブンだったろ?」
「うんうんうん」
「ワイルドよりマイルドがマイルドに決まってるしぃ」
「そうそうそう」
「だからもう、勝ったも同然!」
みんな豪快に楽観的なことを言っていたと思いきや…、
「まぁ、恵ちゃんが決勝戦に来てくれたら…、の話やけどな」
ネガ介が突然、変なことを言い始めた。
「え?恵ちゃん、来てくれるんだよね、決勝戦」
「そういえば恵ちゃん、今夜の祝勝会にも来てないし…」
「せやから恵ちゃん、最初に言うとったでぇ。思い出してみぃや。たしか、こんな事言うとったでぇ」
(…だから5月の終わりまでなら、投げてもいいですよ。でも、6月にはアメリカへ行くんです…)
「そんで今日は5月31日やで」
「それじゃ恵ちゃん、今夜の12時でカボチャに戻るの?」
「バカヤロウ!それは眠りの森の美女だろが!」
「へ!だぁかぁらぁ、最初に言っただろが!俺は最初から女は信用してねぇんだ!」
「でもやっぱり、恵ちゃん、投げてくれるんでしょ?」
「来ねぇから投げれる訳ねぇだろが!リモートで投げるってか?」
「でもでもだってぇ…」
「へへへ…、へーくしょん!」
皆、勝手なことをぬかしていた。
するとカウンターの向こうにいた青木の妻が、店の壁にある状差しから一通の手紙を取り出し、こう言った。
「実は、今日の午後、恵ちゃんが手紙を持って来てくれてね。それを私に言伝て行ったんだよ。恵ちゃん、とても寂しそうだったよ」
彼女はそう言うと封筒を開け、読み始めた。
「恵ちゃん…」
「六月の花嫁たい。がばいめでたかばい。今夜はみんなでお祝いたい。それにしても恵ちゃん、ようわしらの相手ばしてくれたたい」
「せやせや。おまえのようなうすのろは、相手してもろただけでも、感謝せなあかんでぇ」
「うううう…、うすのろちゃぁ何かぁ、貴様ぁ!」
「まぁまぁまぁまぁ、いいじゃないですか」(いつのまにやら件の審判がここに…)
「でももう、彼女、投げてくれないし。もう決勝戦、不戦敗…、かなぁ」
「わしが投げるたい。恵ちゃんにも遜色のなか、わしのシンカーたい」
「へっ。あほくさぁ」
「貴様ぁ、今、なんて!」
「まぁまぁまぁまぁ、いいじゃないですか。そんなに怒りなさんな」(審判談)
「へーくしょん!」
「とにかくやな、ピッチャーおらへんかったら、マイルドセブンはおろか、相手がゴールデンバットでも負けるんとちゃうか」
「7対245で負けるのかなぁ」
「やっぱり野低人だけじゃ、勝負にならないよ。ちゃんとしたピッチャーがいなきゃ」
「へ! 女め! だから言っただろが。俺は最初から女は信用していねぇんだ。だいたい、肝心な時に、とっととドロンしやがって!」
「やっぱり俺たち、落ちこぼれなんだねぇ」
「決勝戦、放棄試合かな」
「放棄試合は7対9で負け。普通にやったら7対245で負け。どっちがいい?」
「いやいやいや、いくらなんでも、そんなに点、取られるわけねぇだろう、このばかたれ!」
「どないしまひょ。ピッチャーおらへんがな」
「せっかく決勝戦まできたとに、悔しかばい」
「他にピッチャー、いないのかい?」
「せやせや青木さん、他にええピッチャーおらへんのかい?」
「そうだそうだ。ピッチャーは…」
「ピッチャー!」「ピッチャー!」「ピッチャー!」「ピッチャー!」
皆でそんなこと言っていたその時だ。
奥の方の席から、ひとりの大男がのそりと立ち上がった。
そして大男は、おとぼけたちの方を見て、にやりと笑った。
その大男とは、野低人のテストのため、再びこの地を訪れていた、誰あろう、あの田村長二郎氏だった。
彼は偶然、この店に立ち寄り、イカの姿揚げを肴に黒霧を飲んでいるようだった。(ああ、この店、夜間はお酒も出すらしいし)
それはさておき、それで彼はよく通る、独特の低い声でこう言ったのだ。
「もしよかったら、その決勝戦、僕が投げましょうか?」
青虫バケツリレー作戦 完
その夜、すばる360のメンバーは青木の喫茶店に集まり、盛大に祝勝会をやっていた。
皆、優勝したかのよう。そして自分たちの力のみで勝ったような気がしていた。
「やっぱ、俺たち、がばい強かとばい」
「ワイルドセブンに勝ったんだし、で、決勝戦の相手はマイルドセブンだったろ?」
「うんうんうん」
「ワイルドよりマイルドがマイルドに決まってるしぃ」
「そうそうそう」
「だからもう、勝ったも同然!」
みんな豪快に楽観的なことを言っていたと思いきや…、
「まぁ、恵ちゃんが決勝戦に来てくれたら…、の話やけどな」
ネガ介が突然、変なことを言い始めた。
「え?恵ちゃん、来てくれるんだよね、決勝戦」
「そういえば恵ちゃん、今夜の祝勝会にも来てないし…」
「せやから恵ちゃん、最初に言うとったでぇ。思い出してみぃや。たしか、こんな事言うとったでぇ」
(…だから5月の終わりまでなら、投げてもいいですよ。でも、6月にはアメリカへ行くんです…)
「そんで今日は5月31日やで」
「それじゃ恵ちゃん、今夜の12時でカボチャに戻るの?」
「バカヤロウ!それは眠りの森の美女だろが!」
「へ!だぁかぁらぁ、最初に言っただろが!俺は最初から女は信用してねぇんだ!」
「でもやっぱり、恵ちゃん、投げてくれるんでしょ?」
「来ねぇから投げれる訳ねぇだろが!リモートで投げるってか?」
「でもでもだってぇ…」
「へへへ…、へーくしょん!」
皆、勝手なことをぬかしていた。
するとカウンターの向こうにいた青木の妻が、店の壁にある状差しから一通の手紙を取り出し、こう言った。
「実は、今日の午後、恵ちゃんが手紙を持って来てくれてね。それを私に言伝て行ったんだよ。恵ちゃん、とても寂しそうだったよ」
彼女はそう言うと封筒を開け、読み始めた。
青木さん、おとぼけの皆さん。突然こんな手紙を読まれて、きっと驚かれていると思います
。ほんとうにごめんなさい
。本当は皆さんにお逢いして、直接お別れを言わなければいけないのですが、突然予定が早まり、今日の夜には成田を発たなければいけなくなったのです
。皆さんとお別れするのは、とてもとても辛いことです
。だけどこれは、自分で決めたことですから
…前にもお話しましたが、私、5月いっぱいでこの土地を離れ、アメリカのサンフランシスコへ行くのです
。向こうで結婚します。結婚相手が向こうに住んでいるのです
。皆さんとは一か月と少しのお付き合いでしたけど、だけど、とても楽しく野球をすることが出来ました
。ちょっぴり変な野球でしたけどね
。それから、皆さんが力を合わせて、ボールに立ち向かっている姿は、とても凛々しかったですよ
。どんなこともチームワークで力を合わせれば、何でも出来るんだ!
私は皆さんから、そんなことを教わった気がします
。今でも皆さんひとりひとりの姿が私の目に焼き付いています
。青木さん。あまりみんなを怒らないでくださいね
。不手際さん。あのときは、ショートバウンド…、とても痛かったでしょう? 本当にごめんなさい
。みぃ太郎さん。コントロール、良くなるといいですね
。ボタさん。センターの守備、お見事でした
。くしゃみさん。すばらしい俊足でしたよ
。怒山さん。本当は私の事、とても心配してくれていたのですね
。ポジ介さん。みんなを勇気づけてくれました
。ネガ介さん。みんなに貴重な忠告をしてくれていたんですね
。私には一生忘れられない、素晴らしい思い出になりました
。どうもありがとうございました
。これからも、いつまでもお元気で
。そして、野球を楽しんでくださいね
。それでは、この辺で。さようなら
。西尾崎 恵
「恵ちゃん…」
「六月の花嫁たい。がばいめでたかばい。今夜はみんなでお祝いたい。それにしても恵ちゃん、ようわしらの相手ばしてくれたたい」
「せやせや。おまえのようなうすのろは、相手してもろただけでも、感謝せなあかんでぇ」
「うううう…、うすのろちゃぁ何かぁ、貴様ぁ!」
「まぁまぁまぁまぁ、いいじゃないですか」(いつのまにやら件の審判がここに…)
「でももう、彼女、投げてくれないし。もう決勝戦、不戦敗…、かなぁ」
「わしが投げるたい。恵ちゃんにも遜色のなか、わしのシンカーたい」
「へっ。あほくさぁ」
「貴様ぁ、今、なんて!」
「まぁまぁまぁまぁ、いいじゃないですか。そんなに怒りなさんな」(審判談)
「へーくしょん!」
「とにかくやな、ピッチャーおらへんかったら、マイルドセブンはおろか、相手がゴールデンバットでも負けるんとちゃうか」
「7対245で負けるのかなぁ」
「やっぱり野低人だけじゃ、勝負にならないよ。ちゃんとしたピッチャーがいなきゃ」
「へ! 女め! だから言っただろが。俺は最初から女は信用していねぇんだ。だいたい、肝心な時に、とっととドロンしやがって!」
「やっぱり俺たち、落ちこぼれなんだねぇ」
「決勝戦、放棄試合かな」
「放棄試合は7対9で負け。普通にやったら7対245で負け。どっちがいい?」
「いやいやいや、いくらなんでも、そんなに点、取られるわけねぇだろう、このばかたれ!」
「どないしまひょ。ピッチャーおらへんがな」
「せっかく決勝戦まできたとに、悔しかばい」
「他にピッチャー、いないのかい?」
「せやせや青木さん、他にええピッチャーおらへんのかい?」
「そうだそうだ。ピッチャーは…」
「ピッチャー!」「ピッチャー!」「ピッチャー!」「ピッチャー!」
皆でそんなこと言っていたその時だ。
奥の方の席から、ひとりの大男がのそりと立ち上がった。
そして大男は、おとぼけたちの方を見て、にやりと笑った。
その大男とは、野低人のテストのため、再びこの地を訪れていた、誰あろう、あの田村長二郎氏だった。
彼は偶然、この店に立ち寄り、イカの姿揚げを肴に黒霧を飲んでいるようだった。(ああ、この店、夜間はお酒も出すらしいし)
それはさておき、それで彼はよく通る、独特の低い声でこう言ったのだ。
「もしよかったら、その決勝戦、僕が投げましょうか?」
青虫バケツリレー作戦 完